3-(27) 戦いって思うように終わってくれない
「囲まれた!」
「まだですタイガー・マム! 真上です。そこにはまだ敵がいません!」
けれどリシュリューの艦長の助言はその場しのぎ。誰がどう見ても囲まれた。
花ノ美・タイガーベル一生の不覚。いま、私のストライダー部隊は、背後に5隻。左右に3隻づつ。直下にも3隻。そして残った真上、予定進路に1隻が回り込み中。たった一隻の戦艦。いま、それがとてつもない壁。
アバノアが闘魂武鬼を撃破してから、私たちストライダー部隊は5隻に追い込み漁のように追い立てられ、気づけば9隻が待ちかまえる網袋の中。いまは、その網袋の口も閉じられようとしている……。
けれどこの状況で選択肢は一つしかない。艦長の助言どおり真上に進路を取るしかない。なにもしないでいれば、早々に14隻から蜂の巣にされる。機関銃なんて生易しい。四方八方から重力砲が飛んでくる。数発は耐えれるでしょうけど……。
「行く手を塞いでくる一隻は死にものぐるいで防御姿勢で対抗してくるでしょうね」
「……5分です」
「なにがよ艦長?」
「回り込みをしてきている1隻を5分以内に撃破すれば包囲をすり抜けられます。まだ諦めていけません。数分だけなら1対6です」
「難しいでしょうね。敵は必死に抵抗してくるわよ。倒すんじゃなくて、足止めすればいいだけだから、数分辛抱すれば形勢逆転。完璧に囲めるのだから無理な行動は取らない」
「アバノア副司令が闘魂武鬼を叩きのめしたことで、逆に敵が結束してしまいました。今更ですが牽制だけすますべきだったのではなかったのかと思います」
「でも、アバノアがやってくれなきゃもっと早く乱戦に持ち込まれて、ストライダー部隊は散り散りだった可能性が高いわ。敵が一つにまとまってくれたおかげで、イレギュラーな動きはなかったわけだから」
「くそ。そうです。悪手でも想定外の行動を取られるほうがが厄介なときはある。特にいまのような状況では」
だけど想定外な行動はなかったけれど、そのままセオリー通りに囲まれた、ともいえるわ。
――困った――
行く手の敵はたった1隻。素通りしたい。被害覚悟で無理に押し通れないの? 無理よね。一斉に通過すれば1隻、2隻は抜けられるけど残りは直撃弾をもらってホワイトフラッグか爆沈……。これじゃあ意味がない。敗北して命からがらじゃない。それなら反転して戦ったほうがマシ。
「電子戦指揮官!」
「はい!」
「敵の主砲のコントロールを乗っ取れない?」
「行く手の一隻のですね。……こころみますが期待はしないでください」
「難しいの? リシュリューとフロンサックの全電子戦能力をつかっていいわ。このさいミサイルの管制システムは無視。ミサイルは対空砲火で対処するわ。たった一隻の重力砲の操作だけ数分奪えればいいの」
「わかってはいますが、敵もそんなことは織り込み済みでしょうからね」
ひらめいて聞いてみたけれど、電子戦指揮官からの回答は芳しくなかった。可能性は低いわね。相当運がよくないと無理ってことね。
「タイガー・マム。そろそろ方針を決めないと……」
「選択肢は2つ」
「2つですか。どちらもろくでもない2つな気がしますが」
「ええ、そうね。否定できないところが辛いわね。1つは6隻で防御陣を敷いて戦う」
「時間稼ぎにはなるでしょうが……。我々は孤立無援の状態です。援軍が約束されていないかぎり士気もあがらず早晩降伏となるでしょう」
「そう。いい手じゃないわね。とっとと終わらせて本隊に合流したい敵にとっては、とびきりの嫌がらせにはなるでしょうけど意義が薄いわ」
「もう1つは?」
「やっぱり単純に進路上の敵を一気に叩く――!」
「隊形は変更できませんよ。このまま実質リシュリュー1隻で敵戦艦に突っ込むことになる」
「わかってる。少しでも速度を落とすどころか、気を緩めると追いつかれかねないんだからね」
そう。本来ならアバノアの戦艦フロンサックと私のリシュリューの戦艦2隻で、回り込みしてきた戦艦1隻に突っ込み、同時に重力砲を叩き込むのが一番いけれど、アバノアのフロンサックは殿。最後尾で敵を牽制していたのだから一番後ろ。これを、いまから前に持ってくるのは不可能。
「敵の電子防御は頑強です! 主砲のコントロール奪取は絶望的!」
この電子戦指揮官からの報告に私は間髪入れずに問い返した。
「つまり、敵はあらゆるコントロールを乗っ取られないように、仮想空間の防御に一生懸命って解釈でいいのかしら?!」
「イエスですタイガー・マム」
「わかった。ありがとう。いまの話、砲術長も聞いてたわね」
「はい!」
「なら星型三号モロボシの準備をして」
「ドラゴン・スレイヤー(*ミサイルのこと)ですか? 敵の電子的防御にダメージを与えられていない状態では効果は薄いと思いますが」
「全弾撃ち尽くすわよ」
「え、しかも全部ですか? 本隊戦に備えて温存すべきだと思いますが」
「ここで負けたら本隊戦もくそもないわよね」
「はッ。そうでした」
砲術長は私の言葉に慌ててミサイル発射の準備に入った。そして私は、今度は電子指揮官を見て、
「主砲のコントロール機構への攻撃を中止! 機銃の管制システムを攻撃しなさい!」
と指示をだした。
「アイアイ・マム! って、機銃ですか?!」
「ええ、機銃よ。敵艦の機銃の操作を奪って!」
電子戦指揮官は混乱した。いうまでもないが、機銃のコントロールなど奪っても意味がない。機銃では宇宙戦艦に致命傷は与えられない。
――いや、奪って自爆攻撃させればあるいは?
と思ったが、電子戦指揮官はすぐにその可能性を否定した。機銃のコントロールを奪い自分へ向けて発泡させても、やはり大したダメージないだろう。
「私を信じてやって! 早く!」
「アイアイ・マム!」
「どれぐらいかかる?」
「これは堅い。無理です。機銃のコントロールは防空管制システムに組み込まれているので主砲のシステム同様に堅牢です。くそ!」
「じゃあ弾薬供給のラインとか、照準とか、なにかまともに機銃が機能しなくなるようなことはできないの?」
「あ――!」
「できるのね」
「それならできます。機銃は間違いなく自動装填です。それも弾薬庫から全自動で機銃座まで送り届ける機構を持っているはずなので、その動作を妨害すれば機銃を使用不能にできます!」
「やった! 電子戦指揮官あなた最高よ! 愛してるわ!」
「え、愛してる!? あ、ありがとうございます!」
私の高ぶった発言に、電子戦指揮官は耳まで真っ赤。大の大人が意外に可愛いじゃない。そして私は、
「しばらく待機!」
とブリッジによく聞こえる声でいった。待機は、ものの一分ぐらいだったと思うけれど、不気味な一分だった。だって機銃の操作妨害に失敗したら無策で突っ込むことになるから――。
「やりました! 弾倉の機能をハッキングに成功しました。これで敵艦はしばらく機銃に弾薬を供給できません!」
電子戦指揮官の叫びに私はすぐさま、
「全ミサイルは?」
と砲術長に問いかけた。
「すべてのドラゴン・スレイヤーはいつでも発射可能です!」
「了解。電子戦指揮官。敵に弾倉に異常があるって教えてやんなさい」
「え!? わざわざ教えるんですか?」
「は・や・く! もう目の前に敵が迫ってる! 私は敵より早くミサイルちゃんを撃ちたいの!」
「アイアイ・マム! 電子隠蔽状態を解除。敵戦艦に弾倉異常が警告されました!」
私は間髪入れずに、
「全ミサイル発射!」
と叫んだ。なにか洒落た台詞を付け加えたかったけど無理だった。全然余裕なし。
そしてブリッジ内には艦長の、
「うちーかたはじめー!」
から始まるミサイル発射の掛け声が駆け巡った。
「一番、二番、発射口を開放――」
からの、
「よーい・・・うてえぇええ!」
は砲術長の掛け声。でも、まだミサイルは発射されないの。次の、
「ファイヤ!!!」
で、やっとトリガー担当の兵員が発射ボタンを押す。必要な手順で、一連の掛け声は、ものの10秒もかからないのだけれど、いま、私はコンマ1秒でも早くやって欲しい。
――いいから早く撃ちなさいよ! バカ!
と、苛立った。いまは1秒がとても長い。
「モロボシ全弾。敵艦へ飛んでいきます!」
「敵からのミサイルへの電子攻撃。7割が進路を曲げられました!」
「敵戦艦が体勢を変更。これは――主砲発射!?」
一連の報告で艦長が、ハッとした顔になり、
「なるほど! 機銃を使用不能にさせたのは主砲で対空防御をさせるためか!」
と私の意図に気づいて叫んでいた。
「ふふん。これで私たちが横を通り過ぎても敵は主砲を撃てないわよ。重力砲のリチャージってそんなに早くできないんだから。しかも対空弾から通常弾への変更が必要。ストライダー部隊は退路通過の切符を手に入れたわよ」
「さすがですタイガー・マム。これは思いつかない。態々敵へ機銃機構の異常を教えてやったもの意図したものですね」
「当然よ。機銃の異常報告と同時にミサイル飛んできたら、主砲で対空防御したくなるでしょうからね。ミサイルなんて当たらないっていっても、それは防御機構が完璧に機能するってのが大前提なのよ」
「ミサイル無力論は、電子防御と対空気銃の二重防御ではじめて成り立つ。仮想空間の防御が弱体化したり、機銃などが被弾で失われればミサイルは、いまでも有力なダメージを叩きだせる。故に我々はまだ強力なサブウエポンとしてミサイルを準備している」
「一難去ったってだけだけど、これでしばらくは追いつかれないでしょ。さてさて次の対処を考えま……」
私が悦に浸りながらいいかけたときに、とんでもない報告がもたらされた。
「敵戦艦が急速機動! これはラムです! ラムアタック! 敵戦艦は我々に体当りしてきます!!!」
「うそ……」
と目を点にして絶句する私に、艦長が変わって叫んだ。
「おい! 避けろ操舵士!」
「アイアイ・サ……。じゃない。マム!」
同時に艦長が、マイクを掴んで、
「総員対ショック防御ー! 艦はいまから急速な回避を断行する。体を固定しろ。何かに掴まれ。敵が体当りしてくるぞ!」
そう叫んだ。私は座席に体が固定されているから手で確認しながら、
「なによ信じられない! 普通自爆攻撃なんてする。しないでしょ! あきらめなさいよ。悪あがき! 悪あがき! 最悪! 最悪!」
悪態つきまくった。だってこれは最高にまずい状況。一時的にしろ包囲の危機的状況から脱出できるのは、このまま進路を維持してこそ。こんな大きく進路を変えるような回避運動したら……。
そして5分後――。
「ストライダー部隊は、敵戦艦15隻に追いつかれました」
私は艦長から聞きたくない報告を聞かされていた……。敵は体当たりには失敗したけれど、私たちの進路妨害には大成功した。これはまずいわね……。困った。




