3-(28) それでも天才とは違うと思う
「タイガー・マム。いえ、コマンダー花ノ美。我々ストライダー部隊は、敵戦艦15隻に追いつかれました」
部隊司令の私へ、艦長からのとても聞きたくない報告。
こうなったら降伏するか。戦うか。選択肢はとってもシンプルだけれど、私のストライダー部隊は護衛艦2隻を失い戦6隻。しかも戦艦は2隻だけで空母なんていない。敵は戦艦がで15隻……。降伏はしたくない。でも、戦うことは死の選択に近い……。けれど私は、迷わなかった。
「全艦一斉回頭! 艦側腹を向け一斉射撃をやるわよ!」
私の決定に誰も文句をいわず粛々と指示が伝達されていく。
「願うな。捧げよ。さすれば勝ち取らん! これは行動だけが唯一正しさを証明しうるっていう星系軍士官学校のモットーよ。軍人にとって現況を変えうるのは果断さだけ。私たちはヌナニア軍人。生き残るには戦うしかない!」
ここまで必死に逃げてきて今更降伏? ないでしょ。なら最後まで悪あがき。戦って戦い抜いて、そして1隻、また1隻と降伏していき最後には敗北する。もしかしたらホワイトフラッグする暇なんてなくて、運悪く重力砲がクリティカルヒットして爆沈する艦がでるかも……。この私の選択は責任がある。だけど、
「それでも戦う!」
と私が叫ぶと、ブリッジからは、
――アイアイ・マム!
の合唱が返ってきた。私は目頭が熱くなるのを感じた。
私たちの行く手を遮っていた戦艦1隻は私たちの行動を見て停止した。この艦だけは14隻から少し離れた場所、私たちの側面に陣取ることになってたからね。
「武士の情けってわけね」
と私がポツリというと艦長が応じてきた。
「この戦力で14隻と真っ向撃ち合おうってんですからね。敵は戦いをしっている、と思います。さすがは100年の内戦を勝ち抜いたものたちだ。戦士への称賛のあり方をわかっているのです」
「ふん。負けなわいよ」
「ええ、負けません……」
……勝てる気はしない。万に一つないだろうと思う。14隻の砲門の数は合計で168門……。あらためて数えると多いわね。やばいぐらいゾッとする数。しかも、これ三連装が四基搭載されてるって計算だから、敵の艦は四連装ものもあるので168より多いわ。
「回頭から各艦の配置の完了まで5分10秒!」
「重力砲エネルギー装填70パーセント! 全体では68パーセント。全艦艇の主砲発射準備完了まで4分30秒!」
「敵も新たな隊列を形成開始! 敵も一斉射による砲撃戦をおこなうようです!」
ブリッジに続々と報告があがるなか私のヘッドセットのスピーカーからは、
『花ノ美お姉さまやりますのね』
というアバノアの声が聞こえてきた。
「悪いわね。付き合わせちゃって。でも、戦いたいの」
『いいえ、このアバノア。花ノ美お姉さまとのランデブーなら。地獄だろうとどこだろうと大歓迎ですのよ。お気になさらずにー。選り好みなしでのコズミック・ヘルへのランデブー!』
「バカいって……」
『そうだ。姉さま、わたくしのフロンサックと、お姉さまのリシュリュー。どちらが最後まで戦っていられるか賭けませんこと?』
「いいけど……。あまり意味ないんじゃないそれ?」
死ぬかもしれないし、捕虜になった後の扱いは、予想はできるけれど判然としない。もしかしたら長い間独房みたいなところへ幽閉されるかもしれない。そうなると賭けの結果を楽しむまでにかなりかかる……。
『わ、わたくしが勝ったら、ぜ、是非に、お、お姉さまとの、チュ、チューを……!』
「はぁー。アバノア……」
『はい、お姉さまOKですか? OKですよね! そうですよね!?』
「私はね。あんたのバカに、いまは救われた気分よ。こんなときにそれって、すごいわよあんた」
『では、OK!? やりました! 苦節何年かわかりませんけれど、ついにお姉さまとのチューをゲット! 夢見まで見た熱い接吻! アーたまりませんのぉおお!』
「ダメよ」
『しょんなぁあああ、お姉さまぁああ!』
「その賭けだと私に旨味がないどころか、あんた超危なくなっても降伏しないでしょ。私は可愛いいあんたが、ひたすら死に邁進するリスクの高い賭けはできないわね」
『お姉さまっ! わたくしを心配してくださって――!』
「そうね。どちらが多く敵を沈めるか。それがいいわ。濃厚な死のリスクを背負った賭け事なら、意義のない耐久レースより多く敵を倒したかよ」
『そ、それでわたくしが勝ったら……?』
「キスでもなんでもしてあげるわよ。これでいいでしょ」
『やりぃいいいいい!』
「死ぬかもしれないときに、それだけ喜べるってアバノアあんた最強ね……」
『さらに、お褒めの言葉を頂戴しましたのー!』
「バカね。褒めてないわよ」
『あら、残念。……コホン。では、お互いの武運を祈って』
「ええ、またね」
そして私たちストライダー部隊の一斉射撃の準備が完了。
敵はまだ隊列を形成している。
私は待つことにした。
真っ向勝負の打ち合い。
敵は戦艦14隻で、こちらは戦艦2と駆逐艦4の6隻。
完全に不利だけれど、それでも待つことにした。
いままで必死だったけれど、逃げていたというのには変わりない。なら最後は潔くって思った。
リシュリューのブリッジでは誰も文句をいわなかったどころか、他の5隻からも一斉射撃を催促するリコメンド(進言)はなく、誰もが私の指示を待った。
「敵部隊が隊列形成を完了!」
という報告とともに、そのオペレータが10秒のカウントを開始した。
敵もこちらも完全に重力砲エネルギー装填は完了しいますぐだって撃てる。でも、なぜだか私は敵も10秒後に撃ってくると思った。私だけでなくストライダー部隊の全員がそう思った。
カウント5秒。私は手をあげた。1の掛け声で振り下ろして一斉射の命令だ。手が震えた。けれど、そのとき、
「後方から熱源!! これは――!?」
なんていう想像外の報告。
「新手? 後ろからなんて、もしかして私たちへラムしようとした戦艦が撃ってきたの!? くそ! なにが戦士への称賛のあり方よ。まったくありがたい称賛じゃない!」
「いえ、あ、我々へラムしようとした敵戦艦が爆沈――!」
「はい?」
「これは友軍です!」
「敵じゃないの?」
「巨大な熱源きます! これは友軍からの〝超重力砲〟の射撃だと思われます!」
この報告を聞いた艦長が、
「超重力砲はヌナニア軍だけが持つ超兵器です! まごうことなき友軍です!」
と叫んだ。
それでも、どの友軍よ、と私が困惑しまくるなか、
――緊急電!
という通信兵の叫び。つづいて通信兵は打電の内容を報告した。
「発、サクシオン旗艦瑞鶴、総司令官天儀。宛、ストライダー部隊、旗艦リシュリュー、部隊司令花ノ美・タイガーベル。よく釣りだした。以上!」
「天儀総司令どうして……」
私は状況が飲み込めずほうけ気味。そんななか新たな通信が入った。ヘッドセットのスピーカーから聞き覚えある男子の声。
『花ノ美よくやった! よろこべ天儀総司令は、お前を激賛しまくりだぞ。無慈悲なまでに優勢な敵を相手に、よくここまで戦力を保持して下がってきたとな。普段なら他人を羨まない俺がとても羨ましいぐらいだ』
「って、あんたは義成ね? あんた達が、どうしてここにいるのよ」
『お前たち紅飛竜の本隊発見からずっと位置情報をこちらへ通報しつづけたろ。そのおかげだよ』
私は義成の言葉にハッとして、オペレータの一人を見た。そのオペレータが私の視線に気づき、頭をかきながらペコリと会釈した。なるほど、と私は思った。こんな佳境な状況で一々うえからの指示なんて仰いでいられない。クルーたちは、私の指示なしに自分のすべき最も必要な仕事をしていてくれた、と完璧に確信して胸に熱いものがこみ上げてきた。
「義成、私、いま、とても胸が熱いの」
『……なにをいっている。発情でもしたのか? 気持ち悪いのでやめてくれ。というか花ノ美お前の胸部には熱がたまるほどの脂肪量がないだろ。意味のわからんことをいうな』
――後で殺す。三遍は殺す。
と私は決意してから、とにかくいまの状況を整理するために義成へ問いかけた。
「私の艦のクルーがサクシオンへ情報を通報し続けてたってのはわかったけど、それだって不思議。いま、どうしてサクシオンはここへこれたの? こあと6時間はかかるはずでしょ」
『俺のスパイからの情報と、お前のストライダー部隊からの通報、そしてそれらを合致させて、様々な状況を鑑みた結果、天儀総司令は状況がこうなるとわかったみたいだ。どういう思考回路をしているのかわからんが、俺たちがいま通ってきたルートを取れは有利に会敵できると早期にサクシオンを動かしたんだ』
「すごい……」
『まあ、通り道にお前らが偶然いただけなのか? その意味で花ノ美お前は運がいいな。え、違う? 天儀総司令? マイク貸せって。はい、ただ今お渡ししますので強引になさらないで。痛い! アッー!』
……なんか義成の近くに天儀総司令がいたみたいってのは、義成の無様さで理解できたわ。そして通信を変わった天儀司令が喋りだした。温かみと包容力があり、安心できる声。私はやっと友軍がきたんだと体と心でも実感できた。
『この進路を取れば有利に会敵できるという計画に、花ノ美お前のストライダー部隊の回収も織り込み済みだ。お前らは最新鋭の戦艦2も抱えてんだぞ。本隊戦前にかならず回収しておきたい戦力だ』
「あ、はい! ありがとうございます天儀総司令。恐縮です!」
『それより見てみろ、花ノ美お前が死にものぐるいで奮戦した結果を――』
私は天儀総司令にいわれて、戦況が実況されているモニターに目をやった。そこには、サクシオンから砲撃で隊列を乱す敵戦艦14隻。壊滅状態。酷い。一方的だ。これは生きてはいないだろうなと思った。私があれだけ苦労した敵が、いまはされるがままで、ただのザコ敵にすら見える。
――タイミングでこうも違う。
と私は天儀総司令の凄みに体を震わした。最も効果的なタイミングで現れ、最も効果的なタイミングで攻撃を加えた。敵は出現した新たな戦力に驚くだけでまったく対処できなかったのだろうなと思う。だって戦艦が14隻もいれば、なんらかの方策があったはず。普通はここまで一方的にはならない。現に私は6隻で15隻から逃げ続けていたわけだからね。
『これは、お前の戦果だ。よくやった――』
「天儀総司令!」
私からでたのはそれだけ。それ以上は感極まって声がでなかった。
私のストライダー部隊は間一髪命拾いした。アバノアには、
「最後まで諦めないのはいいことですのー」
なんていわれた。2隻失ったけど、6隻は無傷。しかも死傷者ゼロ。義成には、
「できすぎだ。これ以上無い敵戦力誘引にして、奇跡の後退だ」
といわれた。全員無事。
――本当にそうなった。
と思いつつ私は炎上し壊滅する敵戦艦の群れを見ながら、ただ、ただホッとしていた。一歩間違えばストライダー部隊がああなっていたのだから……。




