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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第8章 屠所の羊編
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 馬鹿兄妹が戻ってきたことで、また手合わせの日々が始まる。

 一応、今回は丹念に撫でておいた。


 二人の傷が治るまで、しばらくは平穏に暮らせるだろう。


「……しかし、防御力は随分と上がっていたな」

 キョウカの本陣へ行く前に手合わせしたことがあるが、あの時も同じように感じた。


「あっ、殺っちゃったかも」と思っても、起き上がってきたのは驚きだった。

 まったく鍛えていない上位種族でも即死したであろう攻撃を受けても、すぐに戦線に戻ってきた。


「受け身だけでない。なんかこう……コツでも掴んだか?」

 自然とダメージを減少させる「やられ方」が身についていたのは知っていた。


 二人とも、以前から「受け流し」ができる。

 魔界の住人にしては、希有なことだ。


 その分こっちは、受け身の取れないダメージを与える。

 その繰り返しで、どうやら鍛えられたらしい。


「それと、動体視力が上がったかな」

 なんにせよ、どのくらいの強さで相手をすれば良いのか分かってきた。


 あれなら、敵陣の中に放り込んでも、案外生き残るんじゃなかろうか。


「なあリグ、向こうで何か面白い話はあったか?」


 うるさいのがいなくなったことで、リグにそう尋ねてみた。

 無茶ぶりもいいところだが、リグはできる副官である。


 俺を楽しませる話の一つは二つくらい、用意してあるだろう。

 あるよな?


「直接関係ない話になりますが、城を発つ前に南のツーラート将軍からもたらされた情報があります」

「ほう」


「ツーラート将軍が、南の小魔王国群牽制のため、国境線に張り付いていたのはご存じかと思います」


「ああ。少し前に兵の入れ替えがあったんだよな。ダルダロス将軍はいま城だっけ?」


「はい。ファルネーゼ将軍は北での戦いで減った兵を回復すべく、町に向かいました。現在、主な守りは城と南のみとなっています」


 つい最近まで北がこの国の最重要拠点だったが、小魔王キョウカが斃れたことで、兵を常駐させる必要もなくなった。


 いま北は、内戦状態だ。

 この国を攻める余裕はないどころか、いくつかの国に分裂しそうな流れになっているらしい。


「それで南で何があったんだ?」


「大魔王ビバシニの国より、サイクロプス族の一団が北上してきました。どうやら権力争いに敗れ、国を追われたようです」


「大魔王ビバシニか。ずいぶんと南の国じゃないか。大魔王ダールムの国の南だったよな。北上って……まさか、この国に来たのか?」


「そうです。南の小魔王国群は内戦状態にあります。そこを力技で抜けてきたようです」


 巨人種であるサイクロプス族は、とにかく身体がデカくて、力が強い。

 スタミナがあり、魔法耐性まであるので、倒すのに苦労する相手だ。


「いくつの国を抜けてこの国に来たんだか。しかし、権力闘争に負けたのか……」

 大魔王ビバシニの国も相当だな。


「わが国のツーラート将軍もまたサイクロプスであります」

「そういやそうだった。同族のよしみで頼ってきたのか?」


「いえ、戦いになったそうです」


 俺の知識だと、大魔王ビバシニは高齢。

 統治に興味がなく、部下にすべて任せていたはず。


 たまに下克上が成功したなんて話も聞く。


 今回も、将軍職の入れ替えかなにかで争い、その余波でサイクロプス族が追われたのかもしれない。


「巨人種の上官が殺されたかな。それで逃げ出してきたんだろうな」


 上官が倒されれば、普通はそのまま新しい上官の部下として残る。

 だが、そうでない場合は、出奔することがある。


 そういった種族はそれなりにいる。

 どこかに隠れ住んで、力を蓄えつつその国を見極め、機が熟したらその国に同化することを選択する種族も多い。


 ラミア族などがいい例だ。


 何度も居を変えて国を転々とすると、逃げることに慣れてしまい、変なクセがつくこともある。

 みなどこかで落ちつきたいと願いつつ、慎重に従属する国を探す。


 これは俺の前世でいう、転職に似ていると思う。


 給料や休みの多さにつられて就職を決める者もいるが、多くはこの会社が自分に合っているか、ここで骨を埋められるかを総合的に判断しているはずだ。


 ましてここは魔界。

 選択を間違うと、種族そろって死亡なんてことにもなりかねない。


 ネットのない社会なので、噂話も重要な情報源だが、どうしても信頼性に欠ける。

 実際住んでみるしか、方法はない。


「それで戦いの結果は、どうだったんだ?」


「撃破したようです。ツーラート将軍が一騎打ちにて敵の大将を下し、配下を吸収したと聞いています」

「さすがだな」


 ツーラート将軍は、ゴロゴダーン将軍の跡を継いで将軍に上がった。

 それまではゴロゴダーン将軍の下で軍団長として戦っていた。


 あそこの軍は、巨人種が多いから殲滅力が高いものの、他の軍団に比べて数が少ない。

 サイクロプス族が配下に加われば、戦力強化に繋がるだろう。


「ただし、ツーラート将軍も無事では済まなかったらしいと」

「なるほど、同族同士が戦うと被害も大きいか」


 戦う上で種族の相性は重要になるが、同族の場合、単純に総合力の差で勝負が決まったりする。

 一般的に魔素量が多い方が勝つと言われている。


 同族の場合、魔素の削り合いが行われるので、一方的な展開にはなりにくい。

 大怪我をするのも頷ける。


 まあ、ツーラート将軍も一騎打ちで相手を下したんだ。

 殊勲といっていい。ゆっくり休めばいいんじゃないかな。




 ……などと呑気に構えていたら、その余波が俺の所にきた。



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― 新着の感想 ―
[一言] ツーラート将軍がトロルかサイクロプスか判りませんね。
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