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俺が家に戻った翌日。
村が騒がしくなった。リグたちが戻ってきたのだ。
「俺が村に帰ったときは普通だったような……」
村内が騒がしくなることはなかった。
もしかして、軽く扱われている?
家の中にいても、ガヤガヤとした雑多な声が響いてくる。
「戦場に出ていた家族が戻ってきたんだ。そりゃ騒がしくなるか」
この村から出征した者も多い。
生きて戻ってきたと家族が喜んで出迎えているのだろう。
――ガヤガヤガヤ
それにしてもうるさい。
大勢の話し声が聞こえる。
「おい、うるさいぞ」
俺が家を出ると、リグとペイニー、サイファやベッカといった、いつものメンバーがいた……だけでなく、なぜかヴァンパイア族までいる。
騒がしかった元凶はコイツらか。
「ゴーラン様、ただいま戻りました」
「おう、リグ。おかえり……それはいいんだが、なんでヴァンパイア族がいるんだ? ファルネーゼ将軍の町なら、方角が違うぞ」
「それが、この村にくると言い出しまして……」
ヴァンパイア族の若者たちは、自分を磨くため、俺の村へ修業にきたがったらしい。
なんで?
「もとは引きこもり連中だっただろ……」
なまじ彼らは高スペックな身体を持って生まれてきた。
親が一流の兵士ということもあって、揃いも揃ってボンクラ二代目に成り下がってしまった。
精神を鍛えるためにと俺の部隊に無理矢理組み込まれて、魔王トラルザード領へ派遣されたのだ。
向こうでそれなりの経験も積んで、自信がついたと思ったのだが……まだ修業するのか?
それにヴァンパイア族がオーガ族の村へ修業しにくるって、なんの冗談だ?
「サイファ様やベッカ様と手合わせして、半死半生の目に遭っています。全員……」
「……Oh!」
よく生きていたな。あの二人は手加減できない連中だぞ。
ヴァンパイア族だから、傷の治りが早いのか? よく心が折れなかったな。
「修業を希望ということですので、ゴーラン様が作られました訓練メニューがよろしいかと。まずはそれを受けてもらおうかと考えています」
魔界の住人は素の身体能力に頼りすぎて、自分の力を高めることをしない。
まして集団行動など、存在すると思ってないフシがある。
「あれはたしかに便利だし、次の戦いにも有効だが……ヴァンパイア族がねえ」
ほどほどにしないと、脳筋になるぞ。
俺の訓練メニューは過酷だ。
集団行動を覚えてもらわなければならないので、死神族含めて、他の村からも訓練のために呼び寄せている。
そこにヴァンパイア族が加わっても問題ないのだが……ファルネーゼ将軍に一度連絡しておいた方がいいな。
「分かった。それはおいといて、俺が城でもらった報酬があっただろ」
「はい、一緒に持って帰ってあります」
「それを今回出兵した連中に配っておいてくれ。誰に何を配ったのか、あとでリストをくれればいい」
「分かりました。やっておきます」
さすが副官だ。
否も言わずに、二つ返事で引き受けてくれる。
こんな辺鄙な村じゃ、金をもらっても使い道はないが、行商人がたまに来る。
そのとき使ってもらえればいいだろう。
実際、オーガ族なんかは、「戦いに行くぞ」と言えば「ウォー!」と叫んで参加する連中ばかりだ。
リグはすぐに出て行った。
言われたことをすぐ行動に移せるのは、副官の鑑だ。
「ようよう、ゴーラン。今日の俺はひと味違うぜ」
「そうだよ~、も~、ちょー違うって感じ?」
「出たな、馬鹿兄妹」
出たなもなにも、コイツらはすぐそばにいた。
いつ会話に混ざろうかとタイミングを計っていたのを俺は知っている。
「この前は世話になったな。あのときの雪辱を果たしてやるぜ」
「ああ……うん、面倒だからすぐやるぞ」
村なら少し強めに撫でておいても問題ない。
毎日来られても面倒だし、当分呻ってもらおう。
「おい、ゴーラン。今から決闘するわけだし、もうちょっとだな……」
「いいから来い。広場に行くぞ」
広場は村の中心にある。祭りをやったりする所だ。
そこへサイファとベッカを連れて行く。
「同時でいいぞ。その代わり、後悔するなよ」
「……上等じゃねーか」
「ならあたしも参加する~」
集まったのは、村の連中だけでない。
ヴァンパイア族もまた「何が始まるのか」と顔を覗かせてきた。
そこで俺はやさしく、丁寧に、それでいてしっかりと馬鹿兄妹の相手をした。
全身をまんべんなく痛めつけ……撫でてやって、その日は勘弁することにした。
これなら数日は起き上がれないだろう。
肉体強度の限界を確認できてよかった。うん、後悔はしていない。
「おい、これ、片しといてくれ」
「「「イエッサァーッ!!」」」
ヴァンパイア族が見事な敬礼を見せてくれた。
初めて会ったときからすると、見違えるようだ。
○小魔王ネヒョルの国 ネヒョル
「……というわけでさ、よく分からなかったんだよ。なんだと思う?」
ネヒョルの言葉に、レグラスは首を横に振った。
久し振りに戻ってきたネヒョルの身体は、それはもう酷いものだった。
背中から足にかけて裂傷が幾重にも刻まれており、それが回復しないのだ。
どんな傷でも、魔素を使えばほぼ瞬時に回復させてしまうネヒョルにとって、それはあり得ないことであった。
レグラスは「まさか寿命が?」と心配したが、どうやら強大な魔素を乗せた攻撃を受けたらしく、回復に使う魔素が弾かれているのだという。
「まさかそんな弱点があったとは知りませんでした」
「いや、こんなのボクも初めてだよ。よっぽど相性が悪いのか、相手が上手なのか……それとも強大過ぎる力を持っているのか。でもさ、本当になんだったんだと思う?」
「さて……私には分かりかねますが、大魔王ダールムの国で襲われたのでしたら、ダールム本人か、その側近でしょう」
「普通そう思うよね。だけど、追撃はなかったんだよなぁ……」
ネヒョルは当然ダールムの配下ではないので、その国ではひどく目立つ。
敵と認識されて攻撃を受けたならば、死体の確認くらいされてもおかしくない。
ネヒョルは自由にならない身体を使って、少しずつ地面を這いずり、物陰に隠れたところで傷を癒やした。
何日も追っ手を避けて移動してようやく自国に帰り着いた。
もう少しで傷がすべて塞がるが、余裕が出てきたところで気になったのが、このたびの攻撃である。
明らかに自分を狙ってきた。
つまりネヒョルが気付かないところで誰かに見つかり、敵認定を受けたことになる。
ただし攻撃は一度だけ。
追撃も、死体の確認もなかった。
他国を移動しているのだから、襲われる可能性はいつでもあった。
だから襲撃されたことは想定の範囲内である。
ただ、「誰が」「どうやって」攻撃したのかは不明。
その後も姿を現さなかったことから、謎は深まるばかりである。
「……まあいいや。それでさ、傷が治ったら、ちょっとやりたいことがあるんだけど」
無邪気なネヒョルの言葉に、「またですか?」とレグラスは嫌そうな顔をした。




