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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第7章 いにしえの大魔王編
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○小魔王メルヴィスの国


 時間は遡り、小魔王メルヴィスの玉座前。


 ファルネーゼがキョウカ討伐に出かける前のこと。

 小魔王メルヴィスからキョウカ討伐を言い渡されたファルネーゼは、すぐに部下へ指示を出し、自身も出撃準備と整えた。


 一通りの準備が終わると、メルヴィスの元へ報告に赴いた。


 そのとき、ファルネーゼはメルヴィスと、最近の出来事のうち、まだ伝えていない話をすることになった。


 報告として大凡の話が終わっているため、残っていたのは細々としたもののみであった。

 それをメルヴィスが興味なさげに聞いていた。


「儂の手記か」

 ファルネーゼの部下が、書庫にある手記を盗んだ話をしたとき、メルヴィスは少しだけ興味を持った声音を出した。


「はい。盗まれたものは一冊のみで……」

 ファルネーゼが詳細を告げると、メルヴィスが「なるほど」と頷いた。


「その一冊には、儂が進化したときの内容を書いたはずだ」

「はい。前後よりそう判断しました」


「そのネヒョルという者は、ヴァンパイア族か」

「仰せの通りです」


 ファルネーゼとしては気が気ではない。

 何度か、メルヴィスの逆鱗に触れて粛清された者を見てきている。


 盗まれたこと自体、自分自身の失態ではないが、部下の不始末である。

 上官が責任を取らされることもありえた。


「ヴァンパイア族が進化するのに必要なものを知っているか?」

 予想に反して、声は穏やかなものだった。


「いえ、寡聞にして知りません」

「そうか……まあ、知ったところで条件を整えるのは難しかろう」


 メルヴィスは現在、魔界にたった一人しかいないエルダーヴァンパイア族である。

 進化条件を知っているのは、手記を盗んだネヒョルを除けば、おそらく一人。


「それはどのようなものでしょう?」

 ファルネーゼとて、興味がないわけではなかった。


「聖気を放出しない生命石せいめいせきがあればよい」

「生命石ですか? ですがあれは、触ると聖気に侵されると聞きますが」


 天界の住人の体内にある生命石。

 魔界の住人が触れば、聖気に直接触れたのと同じような症状が出る。


 ファルネーゼは思い出した。

 聖気を出し切った生命石は、『塩の塊』となって崩れるはずではなかったかと。


「知らぬようだな。天界からの侵攻がなければ、あまり知られることではないからのう」


 メルヴィスが言うには、たしかに生命石は聖気が抜けきると塩の塊へと変化してしまう。

 だがそれは、長い年月で徐々に聖気が抜けた場合であるらしい。


 短時間のうちに聖気を抜いてやると、形を保ったままの生命石が出来上がるのだという。


「儂も偶然発見したが、同程度の『支配のオーブ』を近づけて中和させるのだ。すると聖気と魔素が互いに打ち消し合う。それを体内に取り込むことによって、進化した」

「なんと……そんなことが」


 生命石から聖気を抜くには、必ず同程度の支配のオーブでなければならないという。

 より上位のものを近づければ、生命石が負けて塩の塊になるし、下位ならば変化がない。


 そしてエルダー種に進化するには最低でも魔王級のものが必要であるという。


「その条件を揃えるのは大変であろうな。とくに天界からの侵攻がない今は」

「そうでございますね」


 ネヒョルの目的がエルダー種に進化するというのは分かっていた。

 その手段がいま分かったことになる。


 必要なのは魔王級の生命石と支配のオーブ。

 存在進化できるだけの魔素を備えていれば、それを体内に取り込むだけで進化できる。


「一番手に入れやすいのは、魔王級の支配のオーブであろう」

 メルヴィスだからそう言えるのだ。そうファルネーゼは思った。


 魔王を倒すなど、ファルネーゼにとって、夢のまた夢。

 簡単に魔王を倒せるならば、だれも苦労しない。


(では、ネヒョルはどうやって魔王級の支配のオーブを手に入れようとしているのだ?)


 不思議である。

 小魔王が魔王を倒すのは不可能とは言えないが、かなり難しい。


 相性や条件にもよるが、それを整えたところで勝率は数パーセント。

 かなり分の悪い賭けになる。


「なるほど……だから魔王に成り立てを狙うのか」

 八大魔王のうち、最弱の魔王はだれであるか。


 ファルネーゼには分からないが、それでもネヒョルよりは確実に強い。

 そうではなく、小魔王から魔王へと成り上がった者を倒してもいいのだ。


「魔王を作り出し、それを倒すのであれば、小魔王国が密集したところが狙い目であるな」

 メルヴィスも分かったらしく、そう言った。

 ファルネーゼも頷く。


 魔界に小魔王国はいくつもあるが、密集した場所に限定すればそれほど多くない。

「キョウカを魔王にしてそれを喰う……」


 そう口に出したとき、ファルネーゼは言い表しようもない寒気に襲われた。

 自分が喰うために魔王を作り出す。それはなんとも傲慢な考え方ではなかろうか。


「支配のオーブが手に入ったところで、生命石がなければ無理であろう」

 メルヴィスの言葉につい頷きそうになるが、ファルネーゼはひとつ引っかかりを覚えた。


(そういえば、ゴーランからの報告で、トラルザードの住む町に天界から侵攻があった……)


 なぜか生命石は回収されなかったと。


 魔界の住人は生命石などに触ろうと思わない。

 身体を害するものに興味を示すとは思えないのだ。それが消えたということは……。


「もしかしたらもう、生命石を手に入れているかもしれません」


「だとしても、大した事は出来まい」

 下々のことはどうでもいいと考えるメルヴィスであった。



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