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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第7章 いにしえの大魔王編
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「俺、死にますよね」


 キョウカと一騎打ち。

 負ければ死亡、勝てば……やっぱり死亡。


 その頃にはボロボロだ。

 取り巻きが黙っちゃいない。


「大丈夫だ」

「それ、根拠ないですよね」


 気休めは止してほしい。

 戦場で大将がいる場所なんて、敵陣の真ん中だ。


 どうやっても、死ぬ運命しか見えない。


「話を最後まで聞いてくれ。これはフェリシアの考えた策なのだ」

「むっ……」


 フェリシアは、ファルネーゼ将軍が抱える軍師。

 それが考えた策ならば、最後まで聞いてみる価値はあるか。


「一騎打ちと言っても、決着が付くまで戦ってほしい訳じゃないんだ」


 と言う事は、決闘はフリか。

 だとすると、フェリシアの立てた策を予想すると……。


「キョウカ討伐が目的じゃない?」

 俺がそう伝えると、将軍が目を大きく開いた。


「凄いな。たったこれだけの情報で読み解くか」


「俺じゃキョウカを倒せないですからね。わざわざ策を弄して、俺とキョウカの一騎打ちまで持っていくならば、狙いは足止めですよね。本当の狙いは別にあるでしょう」


「うむ。目的はキョウカ親衛隊の排除だ。……最初から話そう。これまでの調べで、キョウカが勢力を拡大してきた方法が判明した」


 これは言われなくても、だいたい分かる。

 魔界で勢力を『急速に』拡大させる方法はひとつしかない。


「自分と同等か少し格上を続けて撃破していったのでしょう。だとすると、屈服させることは不可能だったはずですね」

「そうだ。つまり、小魔王どうしの戦いでは、相手を殺すしかない」


 よしんば、ギリギリ生かして屈服できたとしよう。強力な配下の誕生だ。

 だが負けた本人は、どう思うか。


 ギリギリならば、次に戦えば勝てたかもしれない。

 そう思って、怪我が回復したら下克上を仕掛けてくる。


 キョウカだって、ほぼ同等の強さを持つ部下の存在は、気が抜けないはずだ。


 自分の座を虎視眈々と狙う存在。獅子身中の虫となってしまう。

 戦争を続ければ、もしキョウカが大怪我をしたとき、配下にした小魔王から下克上を仕掛けられる可能性がある。


 そうしたら終わりだ。

 五分の者を配下にするならば、いつでも、どんな状態からでも、下克上を仕掛けられても退ける力が求められる。


 ほとんどの場合、力の差を見せつければ事は足りる。

 もう敵わない。そう思わせて屈服させればいい。


 もっとも、サイファやベッカなどは、力の差を見せつけても挑んできた……それはおいといて。


 次々と勢力を拡大させてきたキョウカに、そんな余裕があるはずがない。

 つまり、他国の小魔王は、みな殺してきているはずだ。


「そうすると、領土が増えても戦力不足になりますね。とくに、戦争となれば死ぬ部下もいるでしょうし」


「そうだ。だからキョウカ軍はいつでも強力な部下が不足している」

「部下になりたいと言えば、断れない……ですか?」


「そういうこと。ゴーランのような起源オリジン種で膨大な魔素を持っていれば、誰かの部下にするなんて発想はないだろう」


「小魔王キョウカと謁見して、直接魂を繋げるというわけですか」


 直属の部下。将軍クラスになれるんじゃないかということだ。

 将軍の下は軍団長なので、部下の多寡によって微妙なところかもしれないが、それを判断するためにも、一度は謁見する。


 なるほど、たしかに謁見できそうな気がしてきた。


「そこで下克上を申し込んでほしい。そうすれば……」

「キョウカが下克上を受ければ、他は手を出しませんね」


 さすがに下克上を申し込んで、一対一を拒否するとは思えない。

 フェリシア……すげーわ。一対一の決闘まですんなり行けそうだ。


「問題は、一対一でゴーランがキョウカに勝てるかだが、フェリシアはまず無理だと結論を出した」

「俺も同じ意見です」


 魔王直前の小魔王と戦って、勝てるわけがない。


「というわけで、キョウカと真正面から戦うのではなく、引きつけて全力で逃げてくれ。この前聞いた、魔素を足に纏えば時間稼ぎくらいできるのではないか?」


「それはまあ……できますね」


 倒せと言われれば「無理」と答えるが、「逃げろ」と言われればなんとかなる。


「その間にキョウカの親衛隊を全滅させる。これは不退転の決意でいくつもりだ」

「でも、キョウカ軍がいますよ。親衛隊だけと戦うなんて、無理では?」


「だからこそ、ゴーランを追いかけるわけだ。部下たちがゴーランをキョウカ軍に追い込む」

「俺がキョウカ軍に逃げ込むんですよね」


「そう。そしてキョウカ軍がゴーランを追ってきた軍と戦闘になる。遭遇戦だ。適度なところで撤退する」

「全滅させようと追ってきますよ」


「軍と本陣が離れたところを私たちが狙う」

「軍は先に進んだまま。本陣で俺はキョウカと一騎打ち。新たにやってきた部隊の目標は親衛隊……なるほど」


 この作戦には。三つの不確定要素がある。

 俺がキョウカと戦って逃げ切れるのかが一つ。


 ファルネーゼ将軍たちが親衛隊と戦って勝てるのかが二つ。

 三つ目は……。


「他の妨害が入らないですかね」

「ネヒョルか」


 将軍も分かっているらしい。

 神出鬼没のワイルドハント。


 本当にどこでも出てきやがる。

 会ったら殺すが、さすがにキョウカから逃げながらでは、殺せない。


「そうだな。そのことについて、ゴーランにも話しておこう」

「そのこと?」


「ネヒョルの目的だ」

「盗まれた手記には、エルダーヴァンパイアになるための秘技が書かれていた……んでしたよね」


「そう。出陣前に、メルヴィス様からそのことを伺った」

 なるほど。手記を書いた本人が起きているのだから、聞けばいいわけか。


 ヴァンパイア族がエルダー種になるための詳細が分かったのか。

「俺が聞いていいんですか?」


「別に構わないだろう。秘匿するものでもないし。知っても実現不可能だしな」

「なるほど。ではお願いします」


「私がメルヴィス様と謁見したときの話なのだが……」

 そう言って、将軍は語りはじめた。



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