ストーカーと救出
あらすじ:あっさり倒してやりましたが、こんなの分かりきってましたよね!
命乞いをしてきた人攫いから、攫った人間たちの居場所について聞いた。レルとカル以外にも四人も攫っているらしい。また監禁場所だけでなく、攫われた人を売り渡す店やその同業者、誘拐支援業者についてまでも聞き出すことが出来た。私のブラックリストにそいつらは仲間入りだね。
無抵抗にただ聞かれた情報を垂れ流すこの男の言う事には不信感を覚えるが、今は最低でも攫われた人の監禁場所さえ合っていれば問題ない。今は両腕を後ろで縛り、抵抗できないようにしてその監禁場所へ案内させた。
ちなみにシンシアには、人攫いに居た筈のもう一人の女性メンバー(こいつらは"イヅチ"とか呼んでいたけど)を追ってもらっている。実は最初に私が人攫い四人と相対したときには、何を感じ取ったのか、イヅチって女はすぐに逃走を選択していた。ローブにフードをかぶって顔が見えなかったから、まさか女性だとは分からなかったなぁ。仲間にもばれないようにこっそり逃げていたから、気付いた時には仲間は慌てていたけど……。そのお蔭でこっそりと痛めつけて仲間の前に負傷状態で転がして精神を揺さぶるホラーな状況を作るのが、人攫い弟でしか出来なかった……。まぁ効果は十分にあったし油断も誘えたから結果オーライだけどね。でも人攫いだし、逃げるのはユルサナイ。
「ここだ、ここに攫った奴らがいる」
監禁場所に到着。崩れた崖のようになっている岩肌には無数の岩が転がっていたが、それを数個除けると横穴が出てくる。なるほど、その場の気分で人攫いこいつらを殺さなくて正解だった。殺した後に攫われた人を探そうとしたところで、この穴を見つけるのは至難だっただろうし。もし攫った人の中に幼女かショタがいたら世界の損失だからね。
「貴方はここで待ってなさい、あまりお勧めしないけど逃げてもいいわよ。その格好で逃げられたら私もその行動力に免じて追いかけないかもしれないわね」
「冗談言うなよ。こんな手足を縛られて動けねぇ、それに弟も居るんだ、逃げたくても逃げられねぇさ」
人攫いは、自身の手足に繋がれた縄を見ながら言う。彼がここまで案内したときは脚は縛ってなかったが、目的地に到着してから逃げられないように手足を厳重に縛り、重傷の弟の方にも同じように縛ってある。これで彼らは芋虫的移動法しか行えないだろう。必死に逃げる彼らをちょっとは見てみたい気もする。
人攫いを地面に転がした後、横穴に入るとそこまで奥に続いているわけでもなく人攫い共が簡易に設置したのだろう鉄格子があり、その中には四つの人影が見えた。薄暗くて分かりにくいが子供のような小さな姿はなく安心。そして全員がハンターであろう格好をしているのが見えた。おそらくパーティだったりするのだろう。私が入ってきたことに気付いた檻の中の一人が声を荒げた。
「や、やっと戻ってきたな、私たちをどうするつもりだ!」
立ち上がり際にガチャリと鳴らされた全身鎧。そして凛々しさを感じさせながらも怯えを完全には隠し切れていない女声。長くこの中に閉じ込められて、これからの事を悲観していただろうだけに、恐怖が抑えられなかったのだろう。ただ、その女性を見た感想は一つだった。
――リアル女騎士だ……。
そうその姿。囚われた後に色々とやらかされて即落ち2コマシリーズネタによく起用される可哀想な三大種族の一つに似ていた。ちなみに後二つは"姫"と"エルフ"だったりする。
『牢屋に囚われた姫』
『牢屋に囚われたエルフ』
『牢屋に囚われた女騎士』
この三つに勝るパワーワードは中々無いんじゃなかろうか。
「なな、なんだ、貴様! 奴らの仲間か、女だからと惑わされんぞ!」
「落ち着いてリュカ、私この人ギルドで見たことあるわ。あ、あの、貴女はユリーグルさんですよね? あのザンコクマを一人で倒す新人のハンターさん!」
2コマ女騎士さんを抑えながら、黒髪の彼女は私の事を尋ねる。この世界に来てそこまで多くない黒の髪に、自分自身が黒髪であることを忘れて目を奪われた。やはりこの世界では黒髪は目立つようだなと、他人のものを見て初めて理解する。それにしてもこの子……。
「私の事が分かるようね、話が早くて助かるわ。貴方たちを助けに来たのだけど、黒髪の貴女、お名前を伺ってもいいかな?」
囚われていた檻の扉を開いて、彼女たちを檻の外へと連れながら黒髪の少女に問う。
「はい、私はリサ・カラスノと言います。それにしても助けていただいて本当にありがとうございます!」
やっぱり……。彼女も日本からこの世界にやってきた者の一人だろう少女、"烏野リサ"。こんなの所で同郷と会い、奴隷にさせられる間際で彼女を助けられたのはとても喜ばしいことだ。
実のところ話だけだが、この街にもハンターをしている同郷が居ることはシンシアから聞いていた。シンシアが何故その情報を知ったのかは分からないけど……。そのハンターの名前が"烏野リサ"である。同郷であるだけにどのような行動をしているのかは気になっていたけど、ただ本職を暗殺者として生きる私にとっては彼女との接点を持つ気は到底なかったのだ。今はユリーグルの姿をしていて私が同郷である事がばれることは無いだろうが、今後顔見知りになってしまったことで、ばれる可能性がゼロでなくなるのは避けたかった。だがまぁ出会ってしまったのは仕方が無い。今は助けられたことを喜ぶべきだろう。
「リサ・カラスノ、可愛らしい名前ですね。他の方を紹介していただいても?」
「はい! この鎧のお姉さんがリュカさん。元々騎士だったんだけど、色々あって今は一緒にハンターをやってます」
「助けてくれてありがとうユリーグル殿。先ほどは怒鳴ってしまいすまない。命の恩人のため後で何か礼がしたい」
「はい、お礼はお夕飯のご馳走くらいでいいですよ」
「なんと!? 危険を顧みず私たちを助けるだけでなく心も広いとは。街に戻ったらいくらでもご馳走させてくれ」
うん、やはりTHE・女騎士って感じの振る舞いと言葉遣いだね。こういう人を見ると、ファンタジーって気分になるよね。私どちらかというとダークなほうのファンタジーの住民だから新鮮だわ。
「それで次はマウラさん、魔法使いだよ!」
「よろしく、貴女のような凄腕のハンターに助けていただけるなんて思ってもいなかったよ。本当にありがとう」
大人の女って感じで、奴隷一歩手前だったというのに凄く落ち着いてる。
「最後にユリエルちゃん、治癒術師だよ! ほら、隠れてないでお礼言って」
「あ、あの! 助けていただいてありがとうごじゃっ! はわわわわ」
最後に紹介された子はマウラさんの後ろに隠れて出てきた少女。見た目中学生くらいで人見知りなのか私にアワアワしているのが可愛らしい。このくらいの見た目の子でも全然愛でる対象なのでとても愛でたくなる。ほらナデナデ。
「ふふ、慌てなくていいのよ。貴女のように可愛らしい子を助けられてお姉さんは嬉しいわ」
優しく笑いかけると、トマトのように顔を真っ赤にして、はわわ。としか言わない残念な子になった。とっても可愛い、ギュッとしたくなるが我慢だ。
「それにしてもユリーグルさんはよくこの場所が分かりましたね。穴も塞がれて助けに来るのは絶望的かと思ってましたけど……」
女騎士さんがそんなことを聞いてきたが、まぁ外に転がしている人攫いを見せればすぐ理解するだろう。
「ああ、それは洞窟を出れば分かるわ。一先ずここから出ましょう」
「はい、そうですね」
こうして救出した四名を連れて横穴を出る。




