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ストーカーは異世界でも女暗殺者(ストーカー)やってます☆   作者: 後伸季孝
3章 私ストーカーだけどもう普通に暗殺とか依頼されちゃいます
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ストーカーの逆襲

あらすじ:レルカルを攫いご機嫌な人攫い集団を前に謎の女が!






 不意に現れた青髪の女に人攫いのフードの男、ジェイスは身構えた。数居る要注意人物の一人、人攫いに際して手を出す相手を間違えないようにとあらゆる強者の情報を頭に叩き込んでいるジェイスは、運が悪いと小さく舌打ちをする。目の前の女は最早ニシルダ領のハンターでは知らない者も少ないほどのハンターなのだ。


「貴様、ユリーグルだな……」


「私が誰であっても関係ないわ。これから死ぬ貴方たちにはね」


 ジェイスの問いに対して、挑発的な言葉を吐き捨てるユリーグルという女。しかしそれ以上にその女は"怒り"の感情で支配されているのだと、この場の誰もが感じるのは容易かった。


 たった一人で現れたその存在に対して気を緩めることはしない。この人数に対して真正面から現れるような敵など、頭がおかしい正義者か相当な実力者ぐらいだ。そしてユリーグルは後者であることをジェイスは理解しており、余裕すら見せられないほどに集中する、臨戦態勢とも呼べる姿で身構え戦闘に備える。そんなジェイスを見て、他の者たちも油断してはならない相手だと瞬時に悟る。


 人攫いたちが瞬時に陣形を形成し、ジェイスがユリーグルと呼んだ存在を睨みつける。そんなジェイスに両腕に子供を抱えたマルブが耳打ちするように問いかけた。


「……強いのか?」

「ああ……ソロのクマ殺し、A級に到達し得る新人のハンターだ」


「クマ殺し……、森の暴虐者(ザンコクマ)か。俺たちが束になっても勝てるかってレベルだぞ、それを一人で?」


 目の前の女はその暴虐者を一人で狩るハンター、威圧的な表情にはいくつもの修羅場を潜ってきた歴戦を思わせられる。あれで新人ハンターとは笑わせる。


「相談事は終わったかしら、だったらさっさとその二人を返してくれる? そうすれば貴方たちは苦しまずに死ぬことが出来るわ。ふふっ、感謝しても構わないのよ? でも、返さないというのなら……」


 ユリーグル。A級に到達し得るとハンターと言われる女は、こちらの返答を待っているようだ。俺の傍にはジェイスが武器を構えいつでも襲いかかれる用意が出来ている。しかし、普段は才能がどうだなどと言う恨み口が緊張で閉ざされている所を見ると、このユリーグルという女は余程、本物(・・)らしい。


「……返さないなら、どうするってんだ」


 俺の言葉に女はつまらなさそうな顔を見せた。分かりきったことを聞くなと言いたげだ。だが今この女が求めている子供二人、それは俺が抱えていて紛れもなく人質で、この女がその事を理解していないはずがない。俺がこの二人の命を握っているに等しいはずなのに、あの女から受ける怒りの感情にはどこか余裕が見える。激怒はしているが、今の状態は簡単に打開できる取るに足らない状況であり、相対する敵をどう料理するかを悩む獅子のようだ。その獅子は悠然と口を開く。


「ふーん、その質問はつまり、返さない気が少しでもあるって事よねぇ? それはいけないわ。その気があるってことはこの状況から逃れられると思っていて、私は舐められているということだもの。だとすれば、その足りない頭にも分かりやすい現実を見せてあげないといけないようね」



 ――それならば見ていなさい。見られるものならばね……。



 こちらに有無を言わさずに、言いたいことだけを吐き捨ててユリーグルはその言葉を最後に姿を消す。しかし、驚くべきは姿を消した事。隠れた、逃げただとかそういう事ではなく言葉通りに姿が消えたのだ。どこかへ移動した形跡も無く、足跡もなし、実は元々そこには居らず、幻想、幻覚、夢の類だったのではないかと思わせるほど突然に。


「んなっ!? ジェイス、あの女はどこいった!」


 常に警戒態勢に入っていたジェイスに尋ねる。こういう時にはジェイスの知識と感覚が頼りだ。姿を消す魔法、認識を阻害する魔法、おそらく何かの魔法を使用されたのだろうが、ジェイスならば目の前で起こった何かを知っているのではないか。もしくは何か掴み取れているのではないか。そういう期待を込めた言葉だ。


「分からない。消えた後の痕跡も気配もない。元々そこに居なかったかのようだ……」


 だがしかし、ジェイスの察知能力を持ってしても分からない。


「恐らくだがこの周辺から離れた可能性は高い、周囲には気配が無いからな。一度撤退して待ち伏せ、我々が移動を始めてからどこかで襲い掛かるつもりなのだろう。厄介な事になった」


 数年前、帝都を震え上がらせた謎の暗殺部隊。その部隊に所属していたジェイスの言葉だ、信じないわけが無い。あの不気味な女、ユリーグルがどう攻めてくるのかは不明だが、ジェイスの気配察知能力で近付く敵を察知出来ない訳が無いのだ。


「じゃあ、俺たちがすることは警戒しながらこの森を脱出ってとこかぁ? まったく、人攫いが襲われる立場になるたぁ、世の中分からんもんだぜ。なぁレルブ」


 軽口を叩きながらも弟に目を向ける。あの女と相対している間、珍しく無口になっていたようだったので、恐怖で口も聞けなくなったのかと嫌味でも言ってやろうかと思ったのだ。だが……。


「あぁ? あいつ何処行きやがった」


 ――いない。

 そんなはずは無いのだが、この緊急事態に何処に行ったのかと眉を顰める。ジェイスも同様だ。


「おい、イヅチも何処に行った。あの口うるさい女がこんなに静かに居なくなるわけが無い」


 そう、何故二人が居ないことに今頃気付いたのか。気配察知能力の高いジェイスでも気付けなかった? あり得ない。その言葉が頭の中をぐるぐると回り始めるが、実際に起きてしまっているのだ。不穏な状況に少しばかり寒気を覚える。


「……ユリーグル、あの女の仕業か?」


「わからねぇ、だがあの女は俺たちに言った。俺たちとの実力さを足りない頭に分からせてやるってな。これがあの女の仕業か? それなら俺たちはとんでもない化け物に喧嘩を売ったことになる……」


 この状況があの女が仕業だとして、いや、そうとしか考えられない状況だが、今居なくなった二人はもうこの世に居ないかもしれない。あの女は言っていた、俺の抱えている子供を返せば苦しまずに死ねると。つまり返したところで俺たちを殺すことは確定か。そうでなくとも手厚い報復を受けることは確実で、この場から姿を消した二人はその報復を受けていて、俺たちはただ報復が来る順番を棒立ちして待っているだけ。それがこの今の状況なのではないか。そんな嫌な思考が過ぎった。


 しんと静まり返った木々を通り抜ける風がやけに冷たく感じる。暑くも無いのに全身から汗が止まらない。自身を支えている脚が震えているような感覚。"恐怖"。敵はそれをものの見事に俺たちに与えているのだ、これが狙いならば見事というほか無い。ジェイスに目をやると、俺よりは幾分かマシな様だがそれでも恐怖というものを知らしめられている様子。余裕の無い表情と尋常ではない汗の量と荒い呼吸、普段以上に強く細剣を握り締める姿からそれは感じ取れた。


 そんな中、微かに聞こえる呻き声があった。そう遠くは無い草陰でガサリと音も鳴る。恐怖を煽るその声に肩をビクつかせてから数秒。ようやくジェイスから口を開く。


「……聞こえたな」

「あ、ああ……」


 だが、マルブはそれ以上にその声に不安が募った。


 心がいやに震える。今の呻き声は誰のものなのか、それが分かってしまったのだ。生意気にも俺なんかよりも優れた弟。いつの間にか姿を消した相棒。嫌な予感、いや確信を持って声の聞こえるほうへ進む。草を踏む音すらも煩く感じるほどに緊張している。



「……っな!? レ、レルブ、いったい何が!」


 目の前に広がるのは血に塗れた弟の姿。身体の全身が真っ赤な血で濡れていて、出欠から見るに傷口は恐らく数箇所あるようだ。口にはぐしゃぐしゃの布らしきものが突っ込まれており、声も出すことは叶わずに痛めつけられていたのだろう。


 しかし、何の奇跡か胸部の浮き沈みが微かに見えた、呼吸だ。弟は生きている。マルブは抱えていた子供の人質二人を放り出してすぐさま駆け寄る。すぐに応急処置をすれば助かる可能性がある。そんな希望が頭に過ぎったのだ。


 ――キィィイイイン!


 不意に背後で金属の重なり合う音が鳴った。


「ご主人様! このフードは私が押さえました。レルとカルを!」

「ぐぅっ! もう一人居た、だと。この俺が気付けないとは貴様ら何者だ!」


「ナイスよ! あらら、二人とも大怪我しちゃってるわ。早く帰って治療しなきゃ!」


 鳴り響いた音の正体は、ジェイスとまたもや謎の侍女服の女。そして侍女にご主人様と呼ばれた女、ユリーグルはマルブの手放した人質をあっさりと奪取した。


「でもまずはクズ共を地獄に叩き落してからね! 『瞬く間の暴風(エアボム)』『複製刃呪(ホーストエッジ)』」


 ユリーグルの放った魔法により、瞬間的に強風が発生、周囲の草葉は舞い上がり視界いっぱいに拡がる。そう認識した時には、空間に舞っていたそれらは鋭利な刃へと変化しジェイスとそれに相対する謎の侍女へと降り注ぐ。避けきれない程に刃に包囲されたジェイスはその身に幾つもの刺突を受ける。相対していた侍女へも降り注ぐが彼女には避ける気すらないのかそのままジェイスへ斬りかかる。当然、侍女には無数の刃が突き刺さっているが苦痛の表情も見せず、痛みに堪えるジェイスを切り裂いた。


「ぐっぅぅうう!? ばけ……ものめ……」


「これで終わりですね。はっ!」


 無数の刃が突き刺さりよろめいたジェイスの身体に、容赦の無い侍女の一太刀。ジェイスが膝をつき前のめりに倒れる。マルブはその異常な光景に開いた口が塞がらない。ユリーグルと呼んでいた女が放った周囲を囲う刃の魔法は、ジェイスと同じく無差別に無数の刃を侍女へと浴びせていた。しかしジェイスの血飛沫を全身に浴びて、数十本の刃が突き刺さっていても表情を変えることの無い侍女の姿に、そして仲間と思える者への容赦なく刃を浴びせたユリーグルというハンター。マルブは悪魔が目の前に顕現したのかと大きく震えた。


「シンシア、レルとカルを診ておいて。私はもう一人を片付けてくるから」

「はい、かしこまりました。お気をつけていってらっしゃいませ」


 目の前で話し合う二人の悪魔。足元の弟に意識を向けながらも二人での逃走は無謀だと悟り始めていた。弟を置いて一人で逃げる、というのも難しいだろうと考える。つまり、この状況での選択肢など一つしかない、懸命に許しを乞い悪魔の慈悲を祈るのだ。マルブは大きな体格とは裏腹に遠距離戦を得意とするアーチャー。悪魔とは十数歩程度の距離しか離れていないこの場に置いては弓など何の役にも立たないのだ。護身用に短剣を腰に潜ませているが相手はA級間近のハンター、勝ち目は微塵も無い。


 ユリーグルがマルブにゆっくりと歩を進める。この後の結末など予想するまでもなく"死"だ。マルブは思案した、目の前の悪魔から命を剥奪されない方法を、しかし結局はたったの一つしか思い浮かばない。震えた声で震えた身体でマルブは慈悲を乞う。悪魔に慈悲を。


「す、すまなかった。何でも言う事を聞く、街に戻ったら自首もする。だからせめて弟だけは助けてくれないか」


 敵意が無いことを精一杯に示すためにも、あらゆる武器を地に投げ捨てて降伏する。手のひらを空へと向けて抵抗すら出来ないことも忘れない。


 マルブの言葉に嘘は無かった、ただ自首したところで奴隷の卸し先の貴族の権力(ちから)でまた釈放してもらうことになるが。それにハンターであれば、犯罪者を生きて捕まえれば報酬を得る。お互いに損は無い提案のはずだ。それに相手は今、人質も手元に戻り怒りもある程度は沈んだはずだ。いや、そうであることを願う他無い。これは命を賭けた交渉なのだ。



「……そうねぇ。まぁ、私が知りたいことを貴方が全て話すのなら命を助けてあげるわ。そうすれば尋問の手間も省けるし、弟さんも貴方が応急処置するのであれば勝手にすればいいわ」


 ――どうやら賭けは俺の勝ちだったようだ。


 案外すんなりと行ったことには拍子抜けだが、やはり殺すと宣言していたものの無抵抗な相手には手を出し辛いのだろうが甘いな。俺がいう事ではないが、人攫いを仕出かす様な悪人はすぐに殺すか抵抗されないように四肢の一つや二つ奪っておくべきなのだ。しかし経験の浅い新人ハンターは、そんなことは知らない。負けを認め、謝罪を受け入れ、素直に自首をする俺を信じて反抗を疑わない。確かに今は大人しく捕まって連行されてやるが、お前たちの目の届かないところで再度人攫いとして復活してやるさ。


「た、助かった、何でも答える。抵抗もしない」


「じゃあ、今から聞くことを全部答えなさい。いいわね?」


「ああ、わかった」


 本当なら、もし出来るのなら、ジェイスやレルブ、あと姿がまだ見えないが、イヅルの仇も取ってやりたい。しかしそれは今することではないし、それに森の暴虐者(ザンコクマ)を一人で殺すようなキチガイは相手にするだけ損しかない。つまり今後も仇を理由にこいつをどうにかしようなどとは思えない。俺を臆病者と罵る者は多くいるが、命あってのものなのだ。今は如何にして弟レルブとこの場を生き延びるか、それだけを考えるべき時だ。


 一先ず、深手を負っているレルブに簡易にでも手当てをする。ユリーグルからも先に質問の前に最低限の手当てぐらいは、という申し出を許してもらった。こいつらは負けを認めた敵にどれだけ甘いのか。思わず笑いそうになるのを舌を軽く噛んで痛みで誤魔化した。


「ひでぇ傷だな、レルブ……」


 これからどのように立ち回るべきか。それを考えながらもレルブの手当てに集中するマルブは、自身の背後で手当てが終わるのを待つ女の表情を伺うことが出来ていなかった。それを見ればまだユリーグルの中の怒りがほんの少しも収まっていない事に気付けたかもしれないというのに。




たぶん4,5ヶ月ぶりに続きを書きました。別に離れるつもりはなかったんですが、そもそも、そんな話だったか一から読み直してたのですが、思ったより読みやすいですねこの小説(自画自賛)。ただ、どこらかしこに「ん?」ってなる場面あったので直したいですが、そこすら何処か忘れてしまったアホです。

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