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ストーカーは異世界でも女暗殺者(ストーカー)やってます☆   作者: 後伸季孝
3章 私ストーカーだけどもう普通に暗殺とか依頼されちゃいます
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レルカルの狩り2

あらすじ:レルと人攫いのフードの男との戦闘。しかし『黒霧に塗れた暗躍術』で視界を奪ってもあらゆる攻撃を防がれる。敵との力の差を知ったレルは一度撤退すべくカルの元へ向かうのだった。




 ちっ! 小賢しい奴です!


 カルは黒い霧の中で仮面の男(ザコ)たちを殴り飛ばしながら舌打ちをする。この霧の中で視界が確保できず狼狽えているだけの人攫いはカルにしてみれば邪魔もいいとこだ。カルは振り切った拳を握りしめたまま、風の切る音に集中する。


 ――右ですっ!


 咄嗟に前に飛びだすと同時に自分のいた場所に矢が突き刺さった。完全には避けられなかったようで、右脚に矢が掠り多少肉が抉れた。


「ぐっ……くそったれ、次はそこです!?」


 痛みに耐え立ち上がると矢が放たれた方向へ突っ込む。


「何度やれば終わるです! いい加減にしろ、です!」


 仮面の男(ザコ)たちを殴り飛ばしては、放たれる矢を避けて弓を持つ髭男(本命)の位置を探る。この行為を先ほどから何度も続けている。しかしこの霧の中で先ほどから見つけるのは仮面の男ばかり。


 目が見えなくとも音と臭いで敵の位置を察知していたカルだが、敵のいる位置は分かってもそれが誰だかまでは判別できないのだ。それを良いことに髭男()は自分の部下(であろう者ども)を身代わりに安全圏からカルを弓で狙い撃っているのだ。それも射るたびに移動しているようで、どの方向から放たれるかは矢が放たれるまでは分からない。


 キィィンッ――!


 背後から刃がぶつかり合う音。

 先ほどから何度か鳴らされているその音から、レルとフードの男が戦闘を続けているのが分かる。

 信じ難いがこのレルだけが見える黒霧の中、攻撃を防ぎきっている。


 それにしてもカルたちを襲っているこの人攫いども、この霧の中で自由に動け過ぎているです……。

 カルを狙うあの髭男も霧の中ので的確に射ているです。まさかカルと同じく音と臭いで居場所を? でも姿も臭いもただの人間にしか思えないです。レルのように魔法で?

 ん、あいつは……?


「ひっ……!? きさ――ばぁはぅう!」


「くそったれ、また外れです! うぐぅ……」


 髭男に接近していたはずが、目の前に現れた人影はまたもや仮面の男(ザコ)。通りすがりに殴り飛ばす。だがそれと同時に目の前から飛んできた矢が肩に突き刺さった。


「だんだん避けられなくなってきてるです……。近いです!」


 髭男の居場所が近いことを察知し向かう。

 カルの身体には矢で傷つけれた傷が数ヵ所あったが、矢が刺さっている箇所は一つもなかった。それはカルが矢が放たれた音を聞き分けて瞬時にその場から退避することでギリギリ避けられていたのだ。しかし今回カルの肩に突き刺さったことから、回避が間に合わない距離にいた。つまり近くまで接近しているということである。


 矢が放たれた方向へ向かい、実際に霧をかき分けて外に出ると、目の前の草むらには弓を構えた髭男がいた。


「やっと見つかっちまったなぁ嬢ちゃん。だが終わりだ!」


 そう宣って構えられた弓矢から矢が放たれる。この距離であれば絶対に避けられない、それほどに近い位置なのだ、しかし。


「見つけたらこっちのもんです!」


 カルは両腕で頭を庇い突進する。

 その突進は避けようとも思っていないほどに直線的なものだった。この至近距離では避けることは難しい、であれば急所に当たらぬよう体勢を作り射貫かれることを覚悟して突進する。危険なのは重々承知。カルはそれを覚悟したのだ。


 髭男はその潔い特攻に動揺するがそれでも獲物は逃さない。突進少女を動けなくするには足だ。冷静に狙いを定めて射貫く。


 ――グサリッ。


「う、ぐっ……、うおおおおおお!」


 こんな……こんな痛みなんて、堪えることができればどうとでもなるです!


 カルの左脚に矢が刺さり貫通するが、激痛を気合だけで耐えて突進を続行する。弓矢は装填に時間がかかる。その間に接近して殴り飛ばせば良い。いわば"捨て身の特攻"であるが、それでも勝ちは勝ちだ。

 髭男はもうすでに目の前、その姿は弓のみを手に持ち装填の様子すらない。完全に棒立ちで固まっていた。いや、カルの振りかぶられた拳を見て、殴られる未来に青ざめていた。そしてカルの拳が振り下ろされる間際には腰を抜かしてしまっていた。


「ひぃ……!?」


「これで終わり……です!」


 後ろに腰を落として震える哀れな男。カルはその目の前の髭男に向かって拳を放った。



 ――グサリッ。



「ぁ……、な、なんで……」



 拳を放った……はずだった。

 

 尋常じゃない痛みと共に右腕が動かない。

 振り下ろすだけのはずだった固く握った拳は激痛で緩む。予想できなかった激痛に耐えられず、髭男への攻撃は空振りに終わり前方へ大きく倒れこんだ。

 痛みの発信源であるカルの細い右腕には血で濡れた矢が突き刺さっていた。



「おいおい、危ないとこだったなぁ。って、兄貴ぃ(・・・)腰抜かしてんのか? ぷぷー」


 矢が放たれたであろう方向、草むらから弓を持つ男が現れた。

 腰を抜かした髭男を見てわざとらしくバカにしたように笑っている。


 くそっ! 仲間がまだ居やがったです! 仲間を囮に使うばかりか、最後まで一対一の戦闘すらしようともしないなんて!


 "卑怯だ"、そういう言葉が思い浮かばれたがこいつらはそもそも人攫い。非道を責めたとて何も響かないだろう。悔しさから立ち上がり暴れてやりたいと思ったが、一度痛みに屈した体はいう事を聞いてくれない。右腕も痛みで拳を作ることすら許してくれないようだ。

 そんなカルを無視して二人の人攫いは話し続ける。


「あ、ああ……レルブか、助かったぜ。あんな恐ろしい捨て身戦法取られちゃ流石に死んだと思ったぞ。だがもうちょっと早めに撃ってくれ!」

「まぁまぁ、俺だってジェイルが白い嬢ちゃんを仕留めるのを手伝うのに夢中だったんだ。許してくれや」


 白い嬢ちゃんって? ま、まさかレルが!?


「それにしてもこの獣人の嬢ちゃんってば怖いもの知らずで困るなぁ。おっ、霧が晴れてきたぞ」


 霧が晴れたってことはレルの魔力が途切れているということです。レルはどうなっているです、無事なのです!?


 レルが放った『黒霧に塗れた暗躍術(アサシンミスト)』はレルが自分から使用を解除するか、意識がなくなることで霧散してしまう。敵を倒していないのに解除することはまず無い。


「ふぅ、やっと見える場所に出てこれたぞ、まったく……真っ暗で何も見えなかったぞ」


 そして新たにまた声が聞こえた。声の主は霧の中から出てきた怪しいフードの男だ。なんと肩にはレルを抱えていて、足に矢が刺さっていてピクリとも動いていない!


「レ、レル! 貴様らレルをどうしたのです!」


「安心しろよ獣人の嬢ちゃん、ただ気絶してるだけだ。嬢ちゃんを助けるためだろうが、なりふり構わず走り出すから狙うのは楽勝だったぜ? って、そんなことよりほら、嬢ちゃんも気絶しな」


 弓の男がカルに近づくと腕を首に回し絞める。


「やめ、あぐっ……ぁ……」


 抵抗を試みるが、痛みと疲労により力を籠めることが敵わず人攫いにされるがまま意識を失った。




*************




 獣人の少女と白髪の少女。二人を簀巻きにして担ぐと機嫌良く今日の収穫について考える。


「ふぅ、これで今日は何人だぁ?」


 髭男は誰に尋ねたわけでもない独り言であったが、フードの男がその言葉を拾い答えを返した。


「六名だ、稼ぎとしては十分過ぎるだろう。それより派手に戦闘してしまったからな、さっさとここから離れるぞ。おいイヅチさっさ回収しろ」


 フードの男はいそいそと動き回る女性に目をやる。イヅチと呼ばれたその女性は、獣人の少女に殴り飛ばされピクリとも動かなくなった仮面たち(人形)から、仮面と衣服を剥ぎ取っている最中だ。


「えぇー、結構な数やられたから集めるの大変だよー! ジェイスもレルブもマルブ手伝ってよー」


 ジェイスと呼ばれたフードの男と、弓を担ぎ大あくびをしている男レルブ、簀巻きの幼女を抱えたマルブに手伝うよう求める。


「面倒だ、それにその仮面は触りたくない。呪われているようで気味が悪い」

「同感だねぇ、いくらイヅチちゃんの魔法だって言われても、その仮面だけは触れたくないなぁ」

「俺も気味がワリィし、二人担いでいるから無理だ」


 手伝うよう要求された二人だが、その回収物である仮面には触れたくないようだ。

 不機嫌に頬を膨らます彼女は「もういいし!」と一人回収作業に戻る。


 イヅチと呼ばれた彼女は、戦闘中は姿を隠し自ら作成した仮面を用いた操作魔法『仮面を剥いだら土塊(マスクドロードーシャ)』によって人形を操り人攫いを補助する魔法使いなのだ。ただし衣服や仮面などは自前で用意したものを着せている。面倒なので自分が着ているものと同じのを複数用意しているのだ。


「ふんっ、俺に指図するなど操作魔法の才能に溺れた愚かな女だ」

「だが、攫うには絶好の魔法だ、数を見せて獲物を投降させられるしな」

「そうだぜ、イヅチのお陰で今日だって俺たちは無傷だしな。俺は死ぬかと思ったが」


「ねぇ! 無駄口叩く暇があったら手伝ってよぉ!」


 弓を扱う兄弟。暗殺者じみたフードの男。そして土塊を操る魔法使い。彼らは最近ブレイディア森林での人攫いを生業とする極悪パーティであった。


 だが、彼らは知らなかった……。




「貴方たち……死ぬ覚悟は出来てるんでしょうね?」



 これから地獄を見ることになる事を。




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