レルカルの狩り
あらすじ:レルちゃんとカルちゃんはフェルウルフを簡単に屠る幼女でした。
「レル、これでラストです!」
「わかってる……私もこいつで最後」
二人はそれぞれの目の前のフェルウルフに狙いを定め迫撃。か細い悲鳴をあげてフェルウルフは地に倒れ動かなくなった。最後のフェルウルフに止めを刺した彼女たちの周囲には、フェルウルフだった残骸が無数に横たわり、血の色が散乱し草花を塗りたくっている。
当然レルとカルも血塗れだが、怪我は少しも負っていない。
二人は気付けばブレイディア森林の浅層部でも、中級ハンターでも近寄らないフェルウルフの縄張りに足を踏み入れ、襲い掛かるフェルウルフを片っ端から倒していた。次々に襲い掛かってきていたフェルウルフたちだったが、援軍ももう来ないようだ。
「はふぅ~、終わったです」
「さすがに……つかれた」
二人とも連戦が続き疲労が溜まってしまったため、周囲が魔物の死体だらけの近くの小さな岩に腰掛けて座り込むカルと、地面に倒れるように寝転がるレル。
途中で何度か休憩を入れたとはいえ、毎回4~7体のフェルウルフの群れに遭遇し戦闘を続けてきた。どれだけの間、戦闘していたかなんて分からない。
はふぅ……もうクタクタです。
それに全身が血だらけ……。
今日はちょっと頑張りすぎちゃったです。
さっさと帰ってお風呂入りたいです。
レルをチラリと見ると目が合った。
少し休んだら帰ろう、と言いたげな目をしている。カルだって早く帰りたいのだから、きっと同じような疲れた顔をしているだろう。少しはしゃぎ過ぎてしまったと後悔する。
「少しだけ、休憩してから帰るです」
「賛成……つかれた」
パートナーの同意を得て休憩を取るカル。
だが休憩中でも周囲の警戒を怠らない、こういった時に油断をしてこそ、脅威は襲い掛かってくるものなのだ。レルだってごろごろと地面に寝転がっているが、警戒はしているはず……。
二人が休憩をして数分、周囲への警戒を続けていた中でカルは、微かな視線を認識した。
――不意の一矢。
向けられた視線に一瞬気付いたカルはその場を瞬時に退く、その回避によって胸元を横切ったのは明らかに自身を狙ったものと思われる一筋の矢だった。カルの眼前を通り過ぎて奥の樹木に突き刺さり、近くに弓を使う存在が居る事を認識した。
「誰ですっ!」
自分に矢が放たれたその方向に向けて吠える。すると草陰から複数の影が現れたのが見えた。
「おいおい、仕留め損なっちまったなぁ? ほんとにガキかありゃあ?」
「獣人か……やはり第六感とやらが優れているのだろう。身体能力も高いな。才能に恵まれた化物め」
声のする方、そこには今穿ったのであろう弓を持った髭の男。そしてフードを被りほとんど肌すら見せない長身の男。そしてその背後には複数の仮面を被り顔を隠した男たちが複数人ぞろぞろと現れた。見たところ10名、見るからに不審、そして明らかに敵だ。
「レル、不審者です!」
「ん……わかってる」
寝転がっていたレルもいつの間にか片手に短剣を構えて戦闘態勢。血に濡れたままの幼女二人、カルは獣の如き威圧を、レルは冷徹な暗殺者の様な眼差しで敵と相対する。
そんな中、緊張感の無い声で弓の髭男は口を開いた。
「不審者とは傷ついちゃうなぁ、俺たちゃ真っ当な人攫いだって言うのによぉ」
「まったく……これだから才能のある奴は嫌いだ。怪しい奴は全員不審者扱いだとは……」
ちっ、こいつら人攫いなのです……。
こんな大勢で囲むなんて卑怯者なクソ野郎ども。
それに、この喋っている二人はたぶん他の仮面のリーダーっぽいです。きっと強い……ならば最初に倒すです!
「カルたちを簡単に攫えると思うな、です! レル!」
「分かってる……『黒霧に塗れた暗躍術』『熱視線への懐柔』」
何かをされる前に先手を打つ。
カルの合図でレルが魔法を唱えると、背後から黒い霧が勢いよく辺りを蹂躙し視界を塞ぐ。
「おいおい、なんだ?」
「ちっ、黒い霧か、見えんぞ!」
小さい子供と思って油断したのか人攫いどもの弱そうな奴らはその場で動かず慌てている。
前の二人、弓使いとフードの男が冷静なのは少し気になるが、それなりの実力者なのだと認識する。
しかしこの黒い霧の中で自由に動けるのは『熱視線への懐柔』の魔法を使い、敵の体温を視認できるレルだけである。
「隙だらけ……今のうち」
レルは短剣を構えて接近、棒立ちのフードの男に斬りかかった。
*************
キィィンッ――!
「むっ……」
金属がぶつかり合う音、暗闇の霧の中さらに背後の死角から斬りかかったはずの短剣は、フードの男がいつの間にか握られていた細い剣に受け止められた。フードからチラリと覗く口元はニヤリと歪んでいる。
見えていないくせに剣を止めた?
こいつ……強い。
「魔法で目を暗まして死角から抉るなど、そんなありふれた手は俺だって使う。攻め手には才能が無いようだな……」
「ちっ……」
一度距離をとって黒い霧に隠れる。
追って来ない所を見ると、やはりこちらの居場所を掴めている訳ではない様だ。それでも不意打ちを防がれたのは、奴が相当な実力者か。それもこのような不意打ちに慣れている、もしくはこのフードの男自身もそういった戦闘スタイルであるために、攻め方を知っているからだろう。
レルは牽制として投擲用のナイフを数度放つが、この霧の中でも少ない動きで回避しているのが見える。その回避先へ追うように再び接近しつつ、魔法を唱える。
「『氷界の如き緩動視』」
目に映る者の動きが鈍り、放ったナイフを避けるフードの男の進行方向に向けて再びナイフを放つ。
数瞬後、金属同士がぶつかり合う高い音が鳴り響き、投擲したナイフが剣によって弾かれたのだと知らせてくれる。フードの男はナイフを弾き飛ばした所為ですぐに動けるような姿勢ではない。
レルはそのまま敵に接近し続けて、背後に回りレルは短剣を振るった。
――ふんっ、今まで弱いやつとしか戦ってこなかったのか?
攻撃の瞬間、そんな言葉が聞こえた気がした。
短剣を振り抜いた先には男の姿は無い。
背後に冷やりとした殺気を感じて、確認する間もなく咄嗟に前転でその場から離れた。
その背後から地面を抉り突き刺さるような音が鳴る。すぐに振り向くと、フードの男は細い剣を地面に突き刺してた。刺さった場所は直前までレルが居た場所。
避けずにいればあの細い剣に貫かれて……。
「危機を察知する能力はあるようだな。だがやはり攻撃が拙い、搦め手も何も無い教科書のような暗殺方法だ」
「むぅ……」
こいつ……本物の暗殺者? 実力はあっちが上?
不意打ちすらも効かない相手、それは実力が離れすぎているという事だ。
『氷界の如き緩動視』を使って、霧の中からの攻撃も躱されてしまうのでは勝ち目は無いだろう。そして『黒霧に塗れた暗躍術』の霧が晴れてしまったら……。
悔しいけど、ここは一度カルと合流するべき……。
きっとカルの戦ってるもう一人の髭の男も強い。
こいつらとは今は戦うべきではない。逃走が最優先。
レルは一度フードの男への攻撃を諦めて、一度カルとの合流し霧に身を隠して逃走を試みる。きっとそれが今の最善だ。こいつらは人攫い、きっと逃走されることを良しとしない、ならばこちらの思惑がばれないように振舞う必要がある。
レルは短剣を投げつけてフードの男が攻勢に出ないように牽制しながら、徐々にカルの元へ向かう。カルのいるほうをチラリと見ると、どうやら回りに居た仮面の下っ端は全員地面に転がっていて、カルは黒霧から脱出しようとしている。髭の男も見当たらないがきっと黒霧の外に脱出しているのだろう。カルはそれを追っていると思われる。
――カル……早まらないで!
黒霧から出たら逃走が困難になってしまう。
急いでカルの元に駆けつけて引き止めなければ!
カルが髭の男を追いかけるスピードでは、もう黒霧から脱出してしまうだろうが、それでも霧の中に引き戻せばまだ逃走のチャンスはある。カルが負けるとは思っていないが、今引き止めないと嫌な予感がするのだ。
レルはカルに向かって全速力で走り出した。
一ヶ月くらい投稿してなかったけど、見てくれている人がいてよかったです。




