ストーカーと過保護
あらすじ:侍女ケモ幼女カワイイ!
コンコン。
晴天に恵まれた朝の日差しを受けながら、部屋に響く音にナツメは目を覚ます。部屋に入ってくる侍女は相変わらず美しい所作で私を起こす。
「おはようございますわ、ナツメ様」
うむぅ……あれ?
シンシアじゃなくてジュエルちゃん? なんで?
眠い目を擦りながら、昨日の事を思い出す。
ああ、シンシアには休暇を与えていたんだったっけ? シンシア以外の人が私を起こしに来るなんてなんだか新鮮ね。
「おはようジュエル、今日も凄いお姫様ヘアーね。
お姫様過ぎて惚れ惚れするわ」
「ふふ、ありがとうございますわ。
これも侍女であるにも関わらずこのような髪をお許しになさったナツメ様のお蔭ですわ」
今日起こしに来てくれたジュエルちゃんは愛おしそうに自分の髪を弄りながら私にお礼を言う。
ジュエルちゃんは元貴族らしく、そう思わせるだけの気品と所作を持ち合わせており、綺麗な金髪がクルクルと一束に纏められ肩から垂れている。
うん、相変わらずめっちゃクルクルされている。朝のセットとか大変そう。でも貴族の女性は髪を弄る習慣があるから、まだそれが抜けきれていないのだろう。でもジュエルちゃんからは貴族たる佇まいを日々学んでいるので、是非貴族然とした態度を貫いて欲しい。
ちなみにジュエルちゃんがなんで奴隷になっちゃっていたのかはまだ聞いてない。
けど元貴族が奴隷に……だなんて悲惨な過去である事は丸分かりであるので、無理して聞く気はないと思い今でも聞かずにいる。
「いいのよ。オシャレは大切だし、私も綺麗な子は好きよ。貴女が隣に居るととても嬉しいわ」
「ナ、ナツメ様、それはやはりナツメさまは……あっ!?」
「どうしたのジュエル?」
私がジュエルちゃんを褒めると、頬を染めながらも意味深に口を押さえる。
何なのだろうか?
なんでもありませんわ、オホホホホ!
だなんて誤魔化すジュエルちゃんは、明らかに可笑しい。というか誤魔化すのヘタッピか! でも可愛いから許さざるを得ない!
でもまぁ、言いたくないのであれば無理には聞かない。重要な事であれば、シンシア伝いで私に耳にも入ってくるだろうから。普段の秘め事の一つや二つ許容しなきゃね。
でも本音がポロっと出そうになる辺り、侍女としてはまだまだねぇ。
「そ、それよりもナツメ様、お着替えを手伝わせていただきますわ」
「そうね、はい、お願い」
とりあえず、朝起きたら着替えだ。
部屋着では屋敷はうろつけないからね。
ベッドから立ち上がって後はジュエルちゃんに身を任せる。ジュエルちゃんは丁寧に私の服を脱がして、用意していた替えの服にササッと着替えさせてくれる。元貴族だったジュエルちゃんにこんなことさせちゃうのは申し訳ない気分になるけど本人は特に気にしていないようで、私がさっきまで身につけていた下着だって気にせずに鷲掴みにして着替えの籠にポイッとするのだ。着替え終わると朝食、ジュエルちゃんが私の体調を確認してくる。
「ナツメ様、これから朝食となりますが体調などは問題ありませんか?」
「ええ、ないわ。
ぐっすり寝たから疲れも取れちゃった」
「ふふふ、それは宜しいことですわ。
では食堂までお連れ致します」
そのような会話を交わして、食堂まで向かった。
あれ、そういえばシンシアに体調を確認された事ってないかも? 私の体調は逐一確認しそうなものだけどなー? んー、今度シンシアに聞いとこう。
*************
「あれ、そういえばカルちゃんは今日は侍女のお仕事じゃないの?」
朝食を終えてから、側に付いているジュエルに声を掛ける。
確か昨日はカルちゃんのお仕事姿を少ししか見れないままだったので、今日は頑張っているカルちゃんの姿をこの目に納めようと画策していたのだ。
しかし何処を見てもカルちゃんの姿はない。
今日は仕事が無いのかな? と思いつつもジュエルに聞いてみる。
「彼女ならレルと共にモンスターギルドへ向かわれましたわ」
「あら、レルちゃんとモンスターギルド?
何か不足してる素材でもあったの?」
何か必要な素材の依頼でもあったかしら?
薬草を切らしちゃったとか?
それとも毛皮関連かな?
モンスターギルドに行くのは何もハンターだけではない、普段市場などで売られていない魔物の素材などが欲しい時などにギルドに依頼するのだ。
普段であれば魔物の素材が必要な時は、私がハンターとして出向き狩って来たりしていたのだが、たぶん今回は私が旅で疲れているから頼むのを遠慮したのだろう。ナツメはそう思ったのだが……。
「ナツメさまがキタルダ領へ依頼に行っていた間にハンターになられたのですよ。それに二人でパーティを組んでいるそうですわ。
ふふ、やっぱり仲が良いと思いませんこと?」
「えっ!?」
ジュエルの言葉にナツメは耳を疑った。
「レルとカルがパーティを組んでいる」
それは即ち、ハンターとして活動しているという事だ。これは由々しき事態である、普通に危ない。
ナツメにとってハンターとは、大人の男性が命を賭けて金銭を稼ぐ危険な仕事であって、幼女二人が遊びに行く感覚ですることではない。それは決してナツメの過保護なんかではなく、それが当たり前なのだ。少なくとも前世ではそうだった。ここは日本ではなく異世界だが、子供が動物に近い化け物と戦うことを許容するなど決して容認できることではない、保護者同伴でもダメだろう。ナツメはそう考えていた。
しかし、それを許容している、というか当たり前のように口にしたジュエルちゃんに驚いた。それとこの部屋に何食わぬ顔で待機している侍女たちにも……だって今の話を聞いても何の反応も示さず、あたかも当たり前のように佇んでいるのだ。幼女がハンターをする事に何も疑問も抱かないの!?
「危ないわ! どうして誰も止めていないの!?」
ナツメは思わず立ち上がりジュエルに問いかける。そりゃあもう大問題だろうに、侍女たちを見るとやはり困惑の顔を隠しきれていない。何故ナツメがここまで取り乱しているかも分かっていないようだ。
くっ! これが文化の違い!
カルチャーショックというものか!?
いやカルチャーギャップ?
いかん、動揺して無意味な事を考えてしまった。
「落ち着けよ、ナツメ」
そんな中、反対側のテーブルからカチャリとナイフとフォークを置いた少女、ハーミィが宥めてきた。
一緒に食事を摂っていたのだが、この数ヶ月で随分とこの貴族的な生活が板についている。慣れって恐ろしい。なんて考えている暇は無い。
「だって、幼……子供たちだけで危険な所に向かわせるなんてダメだわ! 今すぐ連れ戻します、行くわよジュエル!」
「ええ!? わ、分かりましたわ!」
私は早くレルとカルの元に向かわなきゃと急いでジュエルを呼び食堂を出ようとする。だがそこを、ハーミィに肩を掴まれて呼び止められた。
「まあ待てよ、お前が子供をどんだけ甘やかしたいかなんてわかってる。だがな、これはあいつらがやりたいと決めた事だ。ナツメ、お前がよく口にしていたことだが……」
「ええ、分かっているわ、分かっているわよ……」
ハーミィの言いたいことは理解している。
私が日頃から口にしている「子供たちがやりたいこと本気で言ったことに対して、私はダメという事は出来ない」という言葉。つい昨日もカルちゃんの侍女になりたいという想いに対して、そんな気持ちを抱いたものだ。その思いは偽りではない、でも……。
「でも危険よ……少なくとも魔物と戦わせるなんて事はできな――」
「二人はもうすでに魔物の依頼を受けているぞ、
何度もな」
「なんですって――!?」
再び驚愕し、混乱した。
レルとカルが何度も危ない目に遭ってしまっているなんて!?
心配で頭がクラクラしてきた、倒れそうだ。
「ナ、ナツメ様!?」
「おい、大丈夫かよ!?」
ふらっと立ち眩みを起こす私を二人は寄り添って支える。ありがたいけど、今はレルとカルが心配すぎて死にそうです。
「ダ、ダメ……レルとカルが心配すぎて……」
もし二人が大怪我なんかして帰ってきたら……。
なんて考えたくも無いわ……。
「ナツメ様……」
ジュエルがナツメの身を案じる中、ハーミィは大きく溜め息を吐いた。そして提案をする。
「そこまで心配かよ。
はぁ……だったら、あいつらのところに行ってこっそり影から見守るってのはどうだ?」
「み、見守る?」
「ああ、そうだ。魔物との戦闘を見守って、お前が魔物と戦っても大丈夫か確認すりゃあいいだろう? 一応あいつらは私から見ても全然問題なかったけどな」
ハーミィちゃんに問題なしと言われる程なら、二人はそれなりに実力があるのだろうけど、それでも幼女。不安は拭えない。でも二人が選んだ選択を私がダメと潰すようなこともしたくない、ぐぬぬ……。
ナツメは悩み抜いた末、ハーミィの案に乗ることにした。




