ストーカーとペコ
あらすじ:ユルユちゃんを保護した。
「酷い話ね。
そんなことだったら、そのキタリウスにもっと痛い目を遭わせてから殺すべきだったわ」
本当に、何が魔法の研究なのかしら……。
そんなの自分自身をモルモットに研究しなさいよって感じだわ。
あー、ほんと気分悪い。
シンシアの館での話を聞いたナツメは、大きく顔を顰めた。
そして話を聞いている間、常にシンシアの腕に抱き着いていたユルユを見る。
怖い思いをしたのだろう。
こうやって助けてくれたシンシアにくっついて、震えていてるユルユちゃんは見ていてとても愛ら……可哀想だ。
こんなに可愛い子にこんな顔をさせるなんてキタリウスは本当に救いようがないわね。
絶対にこの子は幸せにしてあげなきゃダメよね。
ちなみにユルユちゃんはもう奴隷ではない。
私が誓約書を破り捨てて奴隷の契約を破棄し、奴隷の首輪も取れている。
けれど独り立ちできる年齢になるまで、ユルユちゃんは我が家の子どもとして、家族として迎え入れる事になったのだ!
というか勝手に決めた。
だってこんなに可愛らしいユルユちゃんを、極寒の北国、鬼畜のキタリウスの生みの親が領主であるキタルダ領に置いておくなんて、普通の人間の良心があるなら出来っこない!
つまり、ユルユちゃんを我が家へ連れて行くのは、善良な心を持つ私の、子供を見捨てて置けないという慈愛に溢れた行動なのだ。
だから森で遭難していたペコちゃんも一緒に我が家に連れて行くのは当たり前である。
え? ペコちゃんは食べ物で釣って連れてきただろって?
道端で子供をお菓子で釣って誘拐する奴と同じだって?
久しぶりに「イカのおすし」という防犯フレーズを思い出した?
……そ、そそそんなわけ!
私は空腹で倒れた子供を助けない鬼畜ではない!
それにか弱い子供を、あんな魔物だらけの森に置いておくのは人でなしの行為でしょう?
そこらへんの誘拐犯と同じだと思わないで欲しい!
まぁ、ペコちゃんは私を一瞬で消せるほど強い魔法を使うわけだけどさ。
たぶん今までも森で暮らしていたっぽいけどさ。
それに魔物とかも従えてたし、というか産んでたし。
なな、なんと! 私、見ちゃったのです!
幼女の貴重な産卵シーン!
こんな私のお膝に乗っちゃうような小さな子が、卵をあ、あんな風に……。
幼女が産卵するシーンって早々見れませんから、思わず私、あの呼吸法をしちゃいましたよ。
ヒッヒッフー。ヒッヒッフー。
「くすぐったい」
「あ、あら、ごめんなさい」
どうやら抱っこしているペコちゃんの首元に息が吹きかかってしまったようだ。
ピクリと少し反応したのが可愛い。
ペコちゃんは相変わらず口数が少なく、黙々と目の前の切り分けられたリンゴをモグモグ食べている。
先ほどまでシンシアたちが作った夕食も目を輝かせながら夢中で頬張っていたが、まだまだ食べていたいようだ。というか目の前に食べ物を置いておくと永遠に食べていられるだろう。
ただ、ペコちゃんは食べるのに夢中すぎて気付かないのか、それとももうすでに私に心を許しているのか、私が何処を触ろうと、撫でようと、まるで抵抗せずに私の膝にちょこんと座りモグモグしている。
けれど、時折くすぐったいのかピクリと動くのがなんともいえない! 我慢しているのかな? それとも無意識かな? なんだとしても可愛い!
さわさわ……ぴくん。
ぐへへ、ここがええんか? うん? ここが好きなんか?
「ご主人様……、お楽しみ中失礼しますが、明日の予定はどのように致しましょうか?
この街に長居は無用だと思いますが」
「え? うーん、そうねぇ」
シンシアにお楽しみを中断されて、いつニシルダ領の私の屋敷に帰るか。
それに思考を巡らせる。このキタルダ街からすぐに出て行かなければならない理由。
この街には勇者がいる。あの森に放置してきたけど、たぶんもう街に帰ってきているだろう。
勇者には私の"ナツメ"の姿も"ユリーグル"の姿も、今回新しく作った"ラヴ"の姿まで目撃されている。
つまりどの私であっても、出会ってしまえばそれなりに面倒な事になるだろう。
だとすればキタルダ街などさっさと出て行ったほうがいい。
他にも色々事件を起こしているし……。ここに長く居て良い事なんて無いわね。
「そうね、面倒な事になりそうだし、明日ニシルダ領に帰りましょう。
ああ、でも準備がいるわよね?」
ここに来た時には私と侍女三名の四名旅だったけど、今はペコちゃんにユルユちゃん、アイちゃんとフィリスがいる。
キタルダ領に来た時の倍の八名だ。
ここからニシルダ領の私の屋敷までは、2週間掛かるし、今回は人数が多いので旅の準備が大変そうだ。
まぁ、準備するのはシンシアたちだから、私は何もしないんだけど……。
「ご主人様、明日私たちが旅の支度を致しますので、昼頃からの出発であれば可能です」
うん、準備早くない?
さすがシンシアだと言いたいところだけど、今回は人数が増えているのだけど?
明日の朝で準備できるのかしら?
「そう? 私たち八名になるけど、馬車に入らないんじゃないかしら?
荷物とかも沢山買って乗せなきゃいけないし」
「確かにそうなります。なので今の馬車ではなく、もう一回り大きな馬車に買い換えてまいります。
全ての準備は昼には終わりますので、ご安心ください」
うーん、シンシアがそこまで言うのなら、特に心配事は無いわね。
旅の準備なんて私はしたこと無いし、分かる人に、というかシンシアに全て任せましょう。
本当に何でも出来すぎて本当に私シンシアがいなくなったら生きていけなさそう……。
まぁそれでもいいかな。
「うん、シンシアに全部任せるわ。
じゃあ私はペコちゃんと体を洗ってくるわね!」
お風呂なんて高尚な物はこの宿には無いので、大きな桶にお湯を張って、布巾で汚れを拭き取る。
幼女の体を洗うのは、屋敷でも私の仕事だ。誰にもこの役目は譲る気は無い!
「あっ……」
私がペコちゃんを抱っこして立ち上がると、リンゴから離されたペコちゃんがこちらを恨みがましそうな目で私を見る。
「リンゴは一旦お休み。身体をキレイキレイしてからまた食べましょう?」
宥める様に頭を撫でて、場所を変える。
別に私としては身体を洗っている最中でも、食べてて貰っていいんだけど、シンシアが行儀が悪いです。と怒りそうなのでペコちゃんには少し我慢してもらおう。
「ペコちゃん、どうかしら?
かゆいところは無い~?」
そして現在、私はペコちゃんの身体を余すところ無く堪能している!
というのは大袈裟だけど、お互いに一糸纏わぬ姿に成り、私はペコちゃんの身体を濡れた布巾で丁寧にふきふきしている。
だぼだぼの真っ黒な服を脱ぎ去ったペコの身体は、何処もかしこも雪のように白く、アルビノを思わせる絹のような肌だが、腰まで伸びきった長髪はナツメと同じ黒。
彼女は"上位種"と呼ばれる魔物らしいのだが、丸みを帯びた体つきがどう見ても幼気で愛くるしさしかなく、やはり普通の幼女にしか見えない。
いや……、普通の幼女なんて優に超えていて、まさに天使!
って私ほとんどの子供に天使って言ってるから一緒じゃないか!
いや天使は天使なんだから仕方ないんだけどね。
ペコちゃんは確か魔物だから、天使の逆で悪魔? いやさらにその上の……"魔王"ね!
そんなしょうもない事を考えながら、お湯につけた布巾でペコちゃんのフニフニスベスベな肌を優しく撫でる。
この世界の布巾は少し肌に優しくないように思うので、ゴシゴシと拭いてはいけない。
ペコちゃんは魔物を産む魔物。人間の姿をしている事から、"上位種"の魔物に分類されるらしいので、肌が弱いなんて事は無いとは思うけど、念のためだ!
それにしても、やはり石鹸が欲しい。屋敷に戻ればあるのだが、この宿には無かった。
石鹸があれば直接手で触れても隅々まで身体を洗えて、アワアワなペコちゃんの肌が思う存分堪能出来るのに……。
布巾なんかじゃあ生殺しだぁ!
だったら布巾なんか捨てて、素手でお触りすればいいじゃないか!
とは思ってはいるのだけど、私自身もアイちゃんに身体を洗われているので、下手な真似は出来ない。
シンシアが明日の準備をするため、宿を出て行ったので、私のお世話の練習としてアイちゃんが私を洗っている。
幼女に一生懸命に洗われるなんて最高じゃ~。
だが、今はアイちゃんに、私が率先して子供たちのお世話をしようとしているのを見て、子供好きで世話好きなご主人様というイメージが付いているのだろう。
しかし、今布巾を投げ捨てて、ペコちゃんの柔肌に直にお触りするような下品な行動をとってしまえば、ただのロリコン主人だったんだと落胆してしまうだろう。もしくは自分自身の身に危険を感じてしまうんじゃなかろうか。
屋敷についてからならそう思われてもいい。
だけど今居るのはキタルダ領。彼女が私の痴態を見て、やはり仕えるべき主人を間違えた。私の所で働くのは止めよう。などと思われないためにも、私のイメージダウンは避けなければならない!
だから私はこの幼女の身体を拭いて、幼女に身体を拭かれている天国的な状況に置いても、自我を保つ必要があるのだ!
だからここは我慢なのだ!
「よし、これくらいでいいかな。ペコちゃん、他に拭いて欲しいところはない?」
「ない」
ふきふきしている間、目を瞑って割と気持ち良さそうだったので「もっとやって欲しい」と言って欲しかった。
まぁまだ出会って一日目だし、これからもっと仲良くなれるよね!
とりあえず屋敷についてたら(私の)思う存分お風呂に一緒に入ろうね!




