勇者とケルベロス
あらすじ:勇者VS伝説の魔物ケルベロス な、なんてこった! 勝てるわけが無い!
「ケルベロスッ! お前の相手はこの僕だっ!」
そう言ってケルベロスは目の前に立ちはだかる人間。しかしケルベロスは無視して、逃げ惑うハンターの追い掛け回した。
動かない人間より、動き回る人間に惹かれるのは仕方の無いことだ。
少しだけ遊んでもいいだろう。
ケルベロスは己が進む道に邪魔な木々を避けることなどしない。進行を塞ぐ木々に対して少し力を加えてやると、二、三本纏めて折れた。それを見て人間たちは震えだす。恐怖に支配されているのだ。
これだけで人間は怯えるのだから可笑しい。少し近づいてやると、無様によろけて尻から倒れる。
実に愉快、実に無様である!
先ほど啖呵を切った鎧の男を無視して、ケルベロスはハンターたちを玩ぶ。
一匹、二匹。耳障りな叫びを上げる愚か者から殺いでいく。生まれたばかりのケルベロスにとってこれは遊び、人間という矮小な生物を玩具にした単なる遊びだ。
「おい! やめろ! お前の相手は僕だと言っただろう!」
不意に横から剣戟が喰らわされた。
ああ、"不意に"とは言ったが、我にとっては避けるのは容易い。
大きな身体でひらりと剣を避けると、少し下がって邪魔者を見てやると、生意気にも剣を構えて我を睨みつけている。
どうやら先ほどにも我の前に立ちはだかろうとした不届き者だ。
我の遊びを邪魔した罪は重い。
どう遊んで殺してやろうか……。
ああ、そういえば偉大なる母様からは命じられた事があったはずだ。
確か、この鎧を纏った人間。こいつだけは絶対に殺せと言われていたな。どうやら母様から逃げ果せたらしいが……。
確かにたかが一匹だけで我の前に立ち、しかし我に怯えぬ生意気な態度だ。
うむ、不愉快だ! 万死に値する。
よし決めた。丸焼きだ!
灰すら残らないほどに焼いてやろう。
丸焼きにする。
そう決めてケルベロスは口を開くと、黒炎を吐き出した。
その火焔は辺りの木々を焼き尽くし、地に積もった雪を瞬時に溶け失せ、水滴一つとて残らない。
黒炎が燃え広がると、目の前は焼け焦げた土ばかりとなったのだ。
しかし、一緒に焼いた筈の人間がいない。
まぁ、人間など脆い。我の炎で炭も残らず朽ちたのだろう。がっはっは!
では次は、我に怯え逃げ去ったあの人間共を焼き尽くしに行こうではないか!
この世に産まれたばかりだが、もう我は何者にも勝るほどの力を得ている。これならば、どのような相手であろうと圧倒的であろうな!
まぁ、偉大なる母様には逆立ちしても敵わぬだろうが……。
ケルベロスは自身を最強と疑わない。
ただ、自分を産み落とした母様にだけは適わないだろう。そして母様の上など存在しない。
しかし、母様が自分と戦うことなど無いだろう。
故に自身より強者など存在しないことど同義である。
ケルベロスは生まれながらに傲慢で独善的な思考に浸っていた。
問題あるまい!
あまり支配に興味が薄い母様に変わって、
我がこの世界の魔物を統べる"魔王"となろうではないか!
しかしケルベロスがそう考え愉悦に浸るのも束の間、彼の目の前に再び立ちはだかるその男に、実に不快な気分になるのだった。
「なんて危険な炎……。
これは当たるわけにはいかないな」
なに? こいつ……、我の黒炎を避けたのか?
ふむ、人間風情は逃げることに掛けては中々出来るらしい。ならば普通に嬲り殺してやろう!
グヴォォオオオ!
ガルゥウ!
ヴワォォオ!
ケルベロスの三つ頭がそれぞれ鳴き声を上げながら、目の前の男に襲い掛かる。
「うん、伝説の魔物がどんなものかと思ったけど……。これなら大丈夫そうだね」
――キャン!?
目の前の男を襲ったはずが、ケルベロスの聞きなれぬ声。
三つ頭の怪物は目を丸くして固まる。
何が起こった……?
何故我の頭が消えている?!
ケルベロスは自身の一部、右の頭があった場所を見やる。
しかし、そこにあるべきはずの頭が消えていた。そして切り口からは赤黒い血が噴出している。
「ふぅ、君は危険過ぎるね……。上位種とまではいかないけど、危険な存在だ。
僕もそろそろ余力が無いから一気にいかせて貰うよ! 『限界突破の臨界点』『輝き撫ぜる騎士の剣』!」
急に目の前の人間の身体が光に包まれ溢れ出した。
二つの魔法により身体と剣から発せられる強力な光がケルベロスに直射する。
くっ!? 目が眩む!
酷く眩しい。見えん!
これは一度退避するべきか!?
早く逃げ――なっ!?
身体が!? 身体も動かんっ!
何故、どうし――。
*************
ユウシの目の前に横たわる首の無い大きな魔物。流石に戦闘をし過ぎたらしく、ユウシの体は立つ事がやっとでどうも歩くことも困難らしい。
しかし、ケルベロスは倒した。
その安堵感にユウシは焼け焦げた地に腰を下ろして、もう一歩も動けない。と心の中で呟く。
「勇者様! 大丈夫ですか!」
「あ、ああ。ユデロさん。まだ逃げてなかったんですか?」
ユウシが地面に座り込むとガサッと後ろから草が鳴り、ハンターの一人、ユデロが顔を出した。
どうやら隠れていたらしい。
「ええ、どうせ勇者様がケルベロスを止められなければ、我々が逃げても追いつかれて終わり。
ならば近くで隠れて、勇者様が勝つのを願おうと」
ユデロがそういうと、ぞろぞろとハンターたちが集まってくる。
「凄いです勇者様! ケルベロスまで倒すなんて!」
「勇者の実力は本物だったってことね!」
ハンターたちは口々にユウシを褒め称えるが、今はそれどころではない。
「皆さん、すいません。僕は魔力を使い過ぎてちょっと動けないんですが……。
助けて貰ってもいいですか?」
「あ、ああ!
勇者様は荷車に乗ってくれ! あなたは俺たちの命の恩人!
何が何でも街まで送って帰る! 行くぞお前ら!」
「「おー!」」
彼らはユウシを担ぎ上げて、荷車に乗せ、足早にその場から去る。
ケルベロスの最初の襲撃により、ハンターたちは数を減らして6名。
同行していたC級の3人組パーティは全滅、B級のパーティ2組も数名を仲間を失った。
そしてキタリウスの護衛という依頼も失敗に終わり、生き延びたものの、結果は散々な調査依頼となったのである。
このように勇者君は非常にチート臭い強さを持っています。
なんたって勇者ですから。
にしても、ちょっと勇者視点が長すぎましたね。すいません。
次回からはストーカー視点に戻ります。やったぜ!




