ストーカーと森林調査隊2
あらすじ:……ラヴの霊圧が……、消えた……!?
上位種と思われる魔物ラヴ、ロオリィの周囲を囲っていた煙幕が晴れると、
彼女の姿は無く、キタリウスたちは同様を隠せない。
「い、いないぞ!?」
「どこにいった!?」
必死に周囲を見渡すキタリウスとハンターたち。
だが、相対していたはずの魔物の気配は消え失せていた。
どれだけ物音一つ逃さぬよう警戒しようと、
聞こえるのは木々や葉の揺れる音が響くだけである。
「もしかして、やった……のか?」
「に、逃げちゃったのかも……?」
「撃退したって事?」
ハンターたちは魔物がこの場に居なくなった理由を口にする。
死体が残っていないため、倒したとは考えにくい……。
それにあれだけ自分の実力に自身のあるような言い回し、逃げたとも思えん。
どうにも腑に落ちないキタリウス。
姿を見せない魔物に彼らの警戒が一層強まり、
締め付けられるような緊張を伴った。
しかし、その時一つの考えがキタリウスの頭を過ぎった。
どうして私は奴を魔物だと思った?
昨日の侵入者のあの魔法……アレを使えば!
あの魔法は、推測だが「魔力の塊を限り無く精巧な人間に見せて、
思うままに動かす魔法」であるはず!
もし魔力によって作られた身体に槍が刺さっても、
痛みなど感じず、生命活動も止まることなく、
それこそ不死の如く動く事が出来るんじゃないのか?
ああ! その可能性は非常に高い!
なんでこんな事を見逃していたのだ!?
むしろ何故最初で気付かなかったのだろうか……。
私ともあろう者が、この危険な森の中での緊張に飲まれていたのか?
命の危険が迫ると、こうも思考が限定されてしまうのか。
だがこの情報に気付いたのは大きい!
であるならば今私たちが警戒している姿を消した敵は、"上位種"などではなく、
昨夜、屋敷に侵入した魔力の塊と同じもの!
あの魔法で出来た人型がどれほどの強さかは知らないが、
上位種よりは強くないだろう。
ならば勝ち目もある。
そうやって、一人意気込むキタリウス。
だが、襲撃者が消えてから数分、一向に現れることなく、
遂には勇者が帰ってきたのだった。
「皆さん! 大丈夫ですか!?」
鋼の鎧を身に纏った勇者。息を切らしているようだ。
きっと先ほどの襲撃者との戦闘で発生した、
魔法の衝撃に気付いて焦ってやってきたのだろう。
やはり勇者なだけあって危険に駆けつけるのが速い!
これで、またあのラヴとかいう襲撃者が襲い掛かってきても問題はない。
「ゆ、勇者殿!
私は大丈夫ですが、ザンコクマは退治できたので!?」
「はい! 大丈夫です!
皆さんも敵襲があったようですが……?」
勇者がザンコクマとの戦闘から戻ってきた。
キタリウスは先ほどの緊張が解かれて安心した。
彼が戻って来たのなら大丈夫だ、と。
「いや、私たちでどうにか対処できたが、
まだ襲ってくる可能性もある。
それに戦死者が……、一名だ」
そう言って倒れたハンターの一人を見やる。
「そうでしたか……。
でも、大丈夫です。もう終わりますから!」
そう言って勇者はキタリウスに歩み寄る。
ん? 大丈夫? もう終わる?
一体何が? それに勇者殿の腰に下げていたはずの剣は……?
「あ、あの勇者殿、あなたの剣はどうしました?
それにもう終わる、とは?」
「ん? ああ、剣ですか?
それは流石に用意できませんでした。
小物に関しては今後の課題ですかね。
ああ、それと"終わる"というのはこういうことです」
そう言って勇者は懐から、小さな短剣を取り出す。
口元に笑みを浮かべながら、不自然なほどに笑顔だ。
「ん、用意? 小物とはいったイッ――!?」
――ナ、ぜ!? まさか……! こいつ、ラ、ヴ……。
キタリウスは疑問を投げ掛けた瞬間。
勇者は手に持った短剣でキタリウスの首を刈った。
あまりに不意に起こった出来事、抵抗する間もなく喉を切り裂かれた。
ドサリと糸が切れたように雪の積もる地面に横たわると、
首元から流れ出した赤いものが地面の雪を染め上げる。
キタリウス・キタルダ。
名のある魔法の研究者であり、
元B級の魔術師ハンターであったはずの彼の人生はそこで途絶えてしまった。
*************
勇者の姿に変身して、キタリウスを殺害することに成功したナツメは、
やっと終わったー! と安堵する。
流石にこの魔物だらけの森。
ケーテ森林では、ナツメは森林調査隊についていっただけといっても、
ナツメ自身も多くの魔物に襲われた。
前を進む彼らより魔物の数は少ないものの、
実質ナツメ一人で彼らの背後を守っていたようなものだ。
暗殺するために暗殺対象を守る行動をするという矛盾。
普通に魔物を嗾けた方が良かったんじゃないかと思ったりしたが、
相手には勇者がいるので、周辺の魔物程度ではキタリウスを始末する程ではない。
結果、彼らに襲い掛かる予定であっただろう後方から来る魔物を
せっせと倒す作業をこなして、軽く疲れたしウンザリしていた。
しかし勇者がやっと暗殺対象から離れてくれたお蔭で、その作業も終わりである。
うむ、ちょー頑張ったなー私。
「ふぅ、これでマスターの依頼も達成ね~。
おっと、こいつの血を採らないといけないんだったわ!」
ナツメは小瓶を取り出して、死んでいるキタリウスの、
切り裂いた首元に瓶の口をつけて流れ出す血液を採取する。
「ゆ、勇者様! どうして!?」
「ん?」
後は帰るだけね~。と考えていたナツメに対して声が掛かる。
声のするほうには、さっきまでナツメがラヴとして、
戦っていたハンターたちが、驚愕の表情でこちらを見ていた。
どうやら私が勇者の姿でいるため、まだ彼らは気付いていないようだ。
この目の前の勇者様がさっきの相対した敵であることに……。
そのまま放置して逃げ帰ってもいいのだけど、
勇者が護衛対象を殺したという噂が広まるのは流石に拙い。
勇者は嫌いだが、あいつにはこの帝国の勇者で居て貰わなくてはならないのだ。
という訳で彼らには、優しい私からネタばらしをしてあげる。
ドッキリ大成功!! 的な感じで?
「ふふ、とくと見よー! 『物真似師の戯れ』」
ナツメが魔法を唱えると、勇者の姿がたちまち先ほどのラヴの姿に変わる。
『物真似師の戯れ』は、変身した後も、
上書きしての変身が可能なので、変身後に一度ナツメ本人に戻る。などをしないでいい。
うむ、非常に便利である。
「じゃーん! 実は勇者様ではないのでしたー!」
現状を理解できていないハンターたちのために、
ラヴの姿に戻ってやると、彼らはさらに驚愕した。
そして、化け物を見るかのような目で、私に向かって武器を構える。
ただ襲ってくるような気配は無い。
どうやら様子を見ている感じだ。
「なに? やる気なの?
さっきも言ったけど、逃げるんなら追わないし、
貴方たちの雇い主もこれで死んじゃったよ?
さっさと勇者と合流して一緒に逃げたら?」
「ぐっ、しかし……」
どうやらハンターとしての意地? プライド?
そういうのが邪魔をして逃げられないようだ。
命あっての物種なのに……。
しょうがないにゃあ……、私から引いてやろう。
「まぁ私がわざわざ貴方たちの相手をすることも、する意味もないし。
貴方たちもそうやって棒立ちしているだけなら、私はもう帰りますね?」
そう言って、キタリウスの血が入った小瓶に蓋をすると、
そのまま、さよならー。と手を振りながら、
彼らハンターが居る方とは逆の方向に歩き出す。
ハンターたちは背を向けた彼女に対して動くことが出来ず、
森の奥へ去っていくのを黙って見守るしかなかった。
そうして、二人の死者を出しながらも、
ハンターたちは襲撃者からやり過ごす事が出来たのであった。
それが幸運なのか悲運なのかは、誰にも分からなかった。




