勇者と森林調査隊
あらすじ:キタリウス「襲撃されたけど森林について行きたいんじゃ~!」
勇者「(家で大人しくしてて欲しい……)」
キタルダ伯爵の屋敷に侵入者が襲撃した翌日。
命を狙われているというのに、
それでも勇者の森林調査に同行を強く願うキタリウスの必死の懇願に、
根負けしたユウシは、多くの護衛を付けることを条件に許可した。
モンスターギルドへの依頼によって、急造で出来上がった森林調査隊。
ケーテ森林を良く知るハンターで構成された3パーティ。
合計10名ほどのハンター達と共に赴いたケーテ森林。
そこはやはり、魔物の増加報告がされただけあって、
普段は森林奥地でも見かけないような、
C級の魔物、ホワイトウルフ、モッフルベアなどが、
森林の比較的浅い場所でも多く見られた。
そして現在、ケーテ森林に進入した森林調査隊は魔物に襲われていた。
多く密集する雪の笠を被った樹木の間を縫うように複数の影、
ホワイトウルフがユウシたち森林調査隊に次々と突っ込んでくる。
「くっ、数が多いな」
「こんなに魔物がこのようにうじゃうじゃ居ては、さすがの私も対処できんぞ
『風斧の振り子』!!」
ユウシは振り下ろし、薙ぎ払い等を繰り出し、迫る狼の群れに対処。
周囲の積もる雪を狼の血で赤く染め上げていく。
キタリウスもユウシの背後から、
ホワイトウルフの集団へ得意の風の魔法を使って切り裂く。
風で模った斧が振り子を振り子のように辺りを舞い、
周囲に近づく魔物を減らしていく。
ホワイトウルフは、一個体で見るとあまり強い魔物ではないのだが、
普段から群れを形成しており、
狩りの時にはさらに多くの仲間と共に連携して襲い掛かるため、
厄介と言わざるを得ない。それこそがC級の魔物と呼ばれる所以である。
そんなホワイトウルフに勇者やキタリウスは上手く対処できる力を持っているが、
同行しているハンターたちは別である。
ギルドに無理を言って、
キタルダ街でもトップレベルのハンターを連れてきたつもりではあるが、
高い依頼金で集った彼らもB級パーティが2つが精々で、残り1パーティはC級である。
強い魔物が増加したこの森に入るには少々心許ない。
だがチームワークは中々のようで、
普段から協力して狩りをしているのだろうと、動きからも見て取れる。
互いに支えあっているのだろう。
だが、それも誰か一人が崩れれば終わってしまう。
「きゃぁああ!?」
「ぐっ!」
「おい! 大丈夫かぁ!?」
叫び声を聞いてユウシはそちらを向く。
同じくホワイトウルフに対処していたハンターの一人が負傷したらしい、
どうやら仲間の女性ハンターを庇っての負傷。
中々男らしいやつである。
しかし、そんなパーティに次々とホワイトウルフが襲い掛かるのが見えた。
危ない! くっ、皆の前ではあまり使うなとは言われているけど、
緊急事態だし仕方ないよね?
ユウシは彼の勇気ある行動を無駄にしないためにも、
人前ではあまり使ってはならないと言われている極秘魔法。
勇者だけが扱える"神聖魔法"を唱えた。
「はぁぁぁぁああああ!
『輝き撫ぜる騎士の剣』!!!」
ユウシがホワイトウルフの群れに向かって剣を振り下ろすと、
途端に、刀剣から輝きが漏れ出し、
眩しいほどの光線が周囲の狼たちを照らし動きを大きく抑制した。
「ホワイトウルフの動きを止めました!
今のうちに攻撃を!」
ユウシの剣が光を放ち、それを呆然と見ていてしまったハンターたちは、
そのユウシの声で我に返り、目の前の動きが鈍ったホワイトウルフに相対する。
もはや動かないといっていいほどに無防備な魔物を、
各々剣や槍で突き刺し処理する。
やがて、周囲に大量に居たホワイトウルフの数が数える程度になると、
魔法の効力が切れたのか、狼たちの動きは元に戻り、
そして周りの仲間が成す術なく死んでいることに恐怖し、
森の奥へ逃げ帰っていった。
「ふぅ……、ありがとよ、勇者様!」
「勇者様ありがとう!
でもあの魔法は凄いですね!?
魔物の動きを止める魔法ですか?」
ホワイトウルフが逃げ帰ると、ハンターたちから賞賛の声を貰う。
怪我をしたハンターからも、助けてくれてありがたい。と言ってもらえた。
ユウシは、どういたしまして。と照れながら答えるが、
この魔法について聞かれるのはちょっと困った。
「ごめんなさい。もうちょっと早くこの魔法を使えば、
貴方が怪我をせずに済んだのですが、この魔法には制限がありまして……。
あと、この魔法については秘密らしいので僕の口からは言えません」
「そっかー、それじゃあしょうがないよね!」
「ああ! なんたって勇者様なんだから、
秘密の一つや二つもってるもんだ!」
うん、どうやら分かってもらえたらしい。
神聖魔法については、どの魔法でも帝国でも極秘レベルだ。
僕が見てもチート過ぎる! と思うくらい強すぎる。
今の『輝き撫ぜる騎士の剣』なんて、
魔物限定だけど行動を制限できるとても強い魔法だし。
とにかく僕の魔法はあまり大っぴらに使えないんだけど、
一つ二つ見せるくらいなら大丈夫だろう。
出し惜しみして人が死ぬなんて嫌だしね。
「それよりも、さらに先を進みましょう勇者殿。
まだ予定の半分も進めていませんぞ。
早く行かないと今日中に帰れなくなってしまいます」
ハンターたちがホワイトウルフ討伐の余韻に浸っていると、キタリウスが注意を促す。
確かに今日は魔物の襲撃が多くて予定より進めていない。
「皆さん! キタリウスさんの言うとおり先を急ぎましょう!
喜ぶのは依頼が終わってから。
街に帰ってからにしましょう!」
「おう!」
「はい!」
キタリウスとユウシの一声に、
緊張の表情を取り戻したハンターたちは、すぐに移動を開始する。
この調子であれば、進行速度は遅いがきっとこの依頼も大丈夫だろう。
ユウシはそう考えながら雪の積もった凍える森林を奥へとすすむ。
*************
「止まってください! しゃがんで!」
ホワイトウルフの襲撃以降、魔物との遭遇は少なく、
非常に順調に森林を移動していた森林調査隊だったが、
ユウシの一声によってその歩みを止め、
木の幹や積もった雪などの後ろに身を隠す。
キタリウスがすぐにユウシの傍に寄り、進行停止の理由を聞いた。
「どうしたかね? 勇者殿?」
「はい、少し遠くの方にザンコクマが3体。
恐らく家族ではないかと……」
「ザンコクマ……!?」
「うそっ!? 3体も!?」
ユウシのその言葉にキタリウスを含め調査隊全員、息を呑んだ。
彼らにとってB級の魔物、ザンコクマはハンター人生でも一度目にするかしないかだ。
最近の帝国内でのザンコクマの増加の噂は彼らとて知ってはいたが、
それでも会うことなどほとんど無い。
いくらB級のパーティであるハンターといえど、
彼らにとってはほぼ未知の魔物である"B級"の名に、
緊張が走るのも無理は無いだろう。
だが、そんなハンターたちにユウシは落ち着かせるように言う。
「大丈夫です。
ザンコクマは僕だけで狩るので、皆さんはここで待機していてください。
僕はザンコクマをもう何十も狩っているので一人でも問題はありません。
キタリウスさんもいいですか?」
「ん、ああ。そうだな。
いくら私でもザンコクマを相手にするのは少々恐怖がある。
だが、魔法での援護が必要ないのか?」
「はい、僕なら大丈夫です。
皆さんは僕が戦っている間に周囲を警戒していてください。
他の魔物がいるかもしれませんし、今把握しているザンコクマ以外にも
いるかもしれないので……」
全員、承知した、といった返事をくれたため、
ユウシは一人立ち上がり、ザンコクマの元まで向かった。
「……うん、よし!
やっぱり他には見当たらないよね?
じゃあ早く倒そう!」
見つかるギリギリまで近づき、ザンコクマの数を再度確認。
3体のままで他に気配が無いの確認してから、
ユウシは足元の雪を少し固めて、雪だまを作る。
その雪だまを自分とは反対方向の木の幹に投げつけると共に、剣を抜いた。
トサッ……。
木の幹にぶつかった雪だまに気をとられたザンコクマは2体。
残り一体は物陰から身を乗り出したユウシに気付いた。
「ふっ!」
自分に気付いたザンコクマから先に処理をするため、全力で雪の地面を蹴って走る。
――先手必勝だ!
ユウシはすぐにザンコクマの目の前まで詰めると、
相手が何かの行動を起こす前に、躊躇い無く剣を振り下ろした――。
ナツメ目線だったり、勇者目線だったりが交互に入れ替わってて、読み辛くてすいません。
しかし、この後も何度か続きます。




