勇者の失敗
あらすじ:勇者と一緒に食事をする事になった謎の日本人風女性メディア。
彼女は一体何者なのか……。
僕が咄嗟に、食事にご一緒して欲しいと願ったことで、
メディアと名乗った貴族のお嬢様と昼食をご一緒することになった。
なんと宿の入り口で待機していた、あのツインテールのメイドさんも、
メディアさんの侍女らしく、すぐに食堂にやってきた。
スペリアちゃんというらしい。
後、馬車で待機していたらしいクラリアというメイドさんもわたわたと慌ててやってきた。
でかい!?
小走りでやってきたクラリアさんはその大きな胸をたゆんと揺らしていた。
それになんだかあわあわしていて、挙動がとても可愛らしい。
やばい、頭を撫でたくなってくる。
二人のメイドさんが食堂にやってきて、
僕がメディアさんと一緒に食事する旨を伝えられた二人は、
食事を用意すると言って宿の奥に行ってしまった。
え? このテーブルにある料理ってこの宿の料理じゃないの!?
「その通りです勇者様。
私の食べるものは毎日、全て侍女が作りますので……。
宿の厨房もお借り致しました」
うわー、毎日ってメイドさん大変だなー……。
メディアさんって我侭だったりするのかな?
いや、信頼出来る人が作ったものしか食べないとか?
まぁ毒とか警戒するだろうし、仕方ないのか……な?
一応、話をしながらもメディアさんは目の前の料理を綺麗な所作で食べている。
あまりに綺麗だから少し見惚れてしまいそうだ。
というか、メディアさんは振る舞いも言葉遣いもお嬢様過ぎて、同じ日本人とは思えない。
いや、容姿は日本人にしか見えないのだから、きっと大丈夫。
「それで……。
勇者様は私に何が御用があったのではないですか?
食事にお誘いいただいたのも、私に何かを聞きたいからでは?」
メディアさんの言葉にハッとなる。
そうだった、何も話さずにいたら、食事途中に貴族のお嬢様に声を掛け、
さらに身分を盾に謝らせた最低ナンパ野郎になっちゃう!
僕が聞きたかったのはこの目の前の女性、メディアさんが日本人なのかどうかだ。
「はい、その通りです。メディアさん。
あなたに聞きたいことがありまして……」
そう言いながらユウシはこっそり
『偽り照らす眼』を発動させる。
これで嘘を吐いたとしても僕には判る。
「メディアさん……、あなたは"日本人"なのでしょうか?」
…………。
数秒の沈黙が流れる。
メディアさんは僕を見つめたまま動かない。
僕が沈黙に耐え切れず再び問おうとしたとき、メディアさんが口を開いた。
それは予想だにしなかった言葉。
「勇者様、相手と話すときに魔法を使用するのは如何なものかと思います。
一体、私に何をなさろうとしているのですか?」
――なっ!? 何故ばれた!
今までばれたことはないのに!?
ユウシが驚愕の表情を隠せないでいると、メディアがため息を吐く。
そしてユウシを蔑むように一瞥してから、
周囲の客にも聞こえるような小さくない声で不快感を示す。
「勇者様、このような食事中に相手に魔法を掛けるなど言語道断です。
『静なる魅了』でも使っていらしゃるの?
非常に不愉快です。すぐにお辞め頂きたいですわ」
蔑むような目でユウシを一瞥するメディアと、
その傍であり得ないといわんばかりに目を見開くシンシア。
自分が目の前の人物に、魔法の使用を見破られた事が予想外だったユウシは、
慌てふためきながら、メディアの発言を否定する。
「そ、そんな!?
『静なる魅了』なんて使うわけ無いです!
僕は勇者です! そんな事するはずがありません!
信じてください!」
「そういうなら、さっさと魔法を解いて下さらない?
私、勇者様に誑かされる気はありませんので」
「ち、ちがっ! ほら、解いた! 解いたから!」
もはや慌てふためいた勇者は、周りに客がいることなど忘れて、声を大にする。
それを聞いていた、周りの客たちは密かに驚愕した。
国に認められた勇者たる人物が初めて会ったであろう見目麗しい貴族の女性に、
魅了なのかは知らないが、
そういった秘密裏に発動するような疑わしい魔法を使っていたのだ。
この事実は、勇者という存在を貶めるものにしてしまいかねない。
しかし、ユウシはそれに気付いていない上に、もう訂正は手遅れである……。
「魔法を解除していただき、ありがとうございます。
勇者様は異世界からいらした方ですから、
こちらの世界の常識が分からなくても仕方ないと思ってはいますが……。
初対面の異性の方に隠れて魔法を使うと、魅了を疑われてしまうので、
今後はお気をつけくださいませ。
まぁ、対談時に魔法を使うのもどうかと思いますし、
あなたには国の顔であるという自覚をお持ちいただきたいですわ」
ユウシが異世界から来たことは周知の事実だが、
それでもやって良い事と悪い事がある。
食事中の無防備な淑女に、秘密裏に魔法を掛けるなど、
勇者の地位がなければ即牢屋行きである。
むしろ貴族に向けての魔法など、即打ち首でも文句は言えない。
「も、申し訳ないですメディアさん……。
でも本当に如何わしい事なんてしてないよ」
魔法の使用に関して謝罪をしながらも、
どうにかして自分が無罪であると分かって欲しい勇者。
最後の主張なのか自分の起こしたことの正当性をか細くも主張する。
本来なら聞き流してもいいような、周りから見れば見苦しい言い訳にも見える。
ただ、メディアはその言葉にさらに噛み付いた。
「はて?
では、一体どんな魔法をこっそりと使っていたのでしょうね?」
「あー、それは極秘で……」
メディアの疑問には当然答えられない。
『偽り照らす眼』は対外に知られるわけにはいかない極秘の魔法。
このような場では話せないし、無闇に人に教えられるものでもない。
当然、秘密だと言うのだが、それがまた話を悪い方向に持って行った。
「あらあら~、極秘にしなければならないほどの魔法?
『静なる魅了』よりも強力な催眠系の魔法だったりするのかしら?
ふふ、それとも私を使って魔法の実験ですか?
流石は勇者様、魔法の追求にご熱心ですね」
先ほどから、損ばかりしている勇者にメディアはさらなる追撃する。
皮肉交じりに。しかし周囲の客に聞かせてやるように。
当然メディアの皮肉に、周囲は反応する。
「おい、聞いたか? 強力な催眠だってよ……」
「やべぇな勇者ってそんな奴だったのか?」
「英雄色を好むって言うし、大人しそうな顔して案外やるのね」
「確かにあのお嬢様はお綺麗ですけど、魔法で無理やりだなんて」
話が聞こえてしまった者達は案の定、疑惑の目で勇者を見始めた。
ヒソヒソと小さな声ではあるものの、何人もの客が騒いでいれば、
いくら空気の読めないユウシにも自分に不利な話をしていることは分かる。
周りの客の声にユウシは冷や汗を掻いた。
勇者となって一年以上、常に周りから賞賛や尊敬、羨望の眼差し。
その全てを受けていたユウシは、何故こんな事になったのか頭を抱える。
ただ、目の前の明らかに日本人の顔をした女性。
彼女が意図的にこの状況を作り出したことだけは分かった。
だが、どうして自分にこんな仕打ちをさせるのか理解できない。
「メディアさん!
そんな言い掛かりは止めてください!
僕はただ……、あなたに聞きたいことがあっただけなのに!」
確かに僕は魔法を使った。
けれどそれは、真実を確認するため。
彼女が日本人がどうかを確認するためだった……。
それがこのような状況にまでなるなんてっ!
ユウシは席を立ち、声を荒げてしまった。
その行動自体も褒められたものではない。
端から見ればただの逆ギレだろう。
もうこの場での勇者の評価は最低だ。
「勇者様、申し訳ありませんわ。
ですが勇者様ともあろう者が食事処でこのような騒ぎは頂けません。
自分の理性も制御できない愚か者と罵られても知りませんよ?」
ユウシが怒りを露わにしたことに対して特に怯みもせず、
メディアは溜息交じりの呆れ顔で話を続ける。
「それに勇者様は私にその、ニホンジン? がどうとかをお聞きしたかったようですが……。
それだけのために初対面の方の食事を邪魔しては、迷惑がられるのも当然です。
人の迷惑になる行動を控えるべきと、幼い頃に教えて頂けませんでしたか?
私はあくまであなたへの憤りを鎮めて接していましたが……。
あまりにも貴方の礼儀が悪すぎますわ。
そんな有様では、嫌味の一つも言いたくなるものでしょう?
私はすでに怒りを通り越して呆れておりますの」
そこまで言ってやると、ユウシは固まり酷く青ざめた顔をしている。
だが、それも当然であろう。
自分に非があることに、やっと気付いたのだから。
言われてから自分の状況を理解するのは、
社会人にもなっていなかったユウシにとって必然だろう。
ぼ、僕はなんてことをしてしまったんだろう……。
目の前にいる女性は、明らかに貴族階級レベルの地位にいるはず。
そんなのは容姿や食事、侍女を連れていることからも明らかじゃないか!
僕は勇者であることを利用して近づくことに成功したけど、
勇者だからって何でもしていいわけじゃない。
むしろ勇者なんてぽっと出の特権階級だ。
最初から特権階級にいるであろうメディアさんに良くは思われてはいないはず。
その上、そのぽっと出が食事の邪魔をするなんて、メディアさんからすれば有り得ない!
周囲の目があるから黙っていただけで、僕に怒りを覚えるのも当たり前。
ぼ、僕はなんてことを……!?
「ふふ、その顔はご自分の非を分かっていただけたという事でしょうか?
それならば私がわざわざ伝えた甲斐があるというものですわ。
ああ、それと未だ常識に疎い勇者様に一つだけ、貴族の礼儀をお教え致しますわ……。
こういう時は謝罪の一つでもして、さっさと私の目の前から去りなさい」
表情は笑顔を浮かべているが、
魔法を使われたことに明らかに怒りを垣間見せるメディア。
これにはユウシもたじろぐ。
周りの客からの痛い視線も合わさってすぐにでもこの場から離れたい。
ユウシはこの場ではもう、メディアに言われたとおりに謝罪する他無かった。
「こ、この度、メディア殿に多大な迷惑を掛けてしまったこと、
誠に申し訳ありませんでした!」
ユウシは出来得る限り綺麗に背筋を伸ばすと、
最敬礼を超えた直角に近い状態まで身体を折り頭を下げ続ける。
ただそんなユウシに投げかけられた言葉は赦しではなかった。
「うん、私が赦すどうかは置いておいて……。
さっさとここから去りなさい?
その方が私の心象はまだ良くなるわ」
頭を下げていたため、彼女の表情は分からなかったが、
声色からは、さっさと消えろと言わんばかりだった。
ユウシは頭を上げると、怯えているような情けない返事を一つして、
逃げるように食堂を後にした。
食堂を脱出したユウシは申し訳無さそうに宿の女将さんに、
部屋のキャンセルを伝えて宿を出る。
外に積もった雪を踏みながら、寒さに身を縮める。
結局、彼女が日本人なのか。と言う事をまるで聞けず、
自分の勇者としての株を落としただけだったなと落胆。
しかし、もう今日はメディアさんとは会うことは出来ないなと、
別の宿を探しにいくのだった。




