ストーカーと食事
あらすじ:侍女とイチャついてたら街に到着した。
「へぇ……ここがキタルダ領の一番栄えている街?
思ったより人が少ないようだけど」
ナツメたちはキタルダ領を牛耳るキタルダ家の屋敷のある街。キタルダ街に入る。
キタルダ街は雪の積もる土地ながら、他の領でも耳に入るほど有名な「雪祭り通り」という年中商店が建ち並び、人が年中ごった返す通りがあるらしい。
しかしナツメが訪れたそこは、人の往来はあるものの想像していたほどではなく、活気も失われている様に見て取れた。
そんな「雪祭り通り」を見て呟くナツメに、シンシアが訳知り顔で答える。
「先ほど門の兵士から聞きましたが、なにやらこの街では魔物の被害が多発しているようです。
近くの森林で強い魔物が出たらしく、その森林から住処を追われた魔物たちが街の近くまで寄ってくるらしいです」
「ふーん、じゃあもしかしたら私たちも道中魔物に襲われてたのかもねー。危ない危ない」
「いえ、心配には及ばないかと……。
自分の住処も守れず逃げ出すような魔物など、恐るるに足りません。
ご主人様が手を煩わせることも無いよう、私たちで処理いたしますので」
シンシアがそう言うと、
スペリアとクラリアも同意するようにナツメに視線を向けて首を縦に振る。
な、なんて優秀な侍女たちなのかしら……。
というか貴女たち、魔物とか狩った事あるの?
一応、屋敷の侍女たちは、私に隠れて特訓しているようだけど……流石に魔物を狩りに行っているとか、そういうのは無いよね?
そういうわけで、うちの侍女さんたちは魔物討伐の経験は少ないと思う。
なので魔物とか出てきたら、私に任せて欲しいんだけど……。
でもシンシアは無駄に過保護だし、一度言ったら聞かないからなぁ。
侍女なのに私の護衛みたいにもなろうとしているし……。
まぁ、怪我しないようにだけ注意してくれれば何も言わないんだけどさ。
もし怪我しちゃったら、危ないことは止めさせる方針で行けばいいかな?
「でも魔物の被害が多いからって言っても、モンスターギルドの人とかが何とかするんじゃない?」
「いえ、実は帝国北部では寒い環境と近場の魔物の弱さから、ハンターとして生きていくのは難しいとされています。そのためハンターの職を選ぶものは少なく、また優秀なハンターは帝国東部や西部に移動してしまうのです」
「近場は弱いけど、遠くなら強くて金になる良い魔物がいるの?」
「はい、シルバーキャット、ホワイトウルフ、モルッフベアなどですね。いずれもC級の魔物で森林の奥深くに生息しており、素材は高額で買い取られます。しかし森の深くまで足を踏み入れると、遭難したり魔物に囲まれたりとC級程度のギルド員では歯が立ちません。
つまり、魔物を狩って金を稼ぐにはハイリスク過ぎる土地なのです」
まあ、凍えるほど寒い上に強い魔物に囲まれる土地での狩りなんて、普通命がいくつあっても足りないからね。それにC級の魔物もなかなか手強いっちゃあ手強いし、囲まれたら大変だろうなー。
「でも今はそのC級の魔物たちが街の近くにやってきたりするってことだよね?」
「はい、なのであまり外に出ないよう街から注意喚起が出ているそうです」
そうかー、人があまり外に出ないんだったら暗殺とかもやりやすいかなー。
誰かに目撃されて指名手配とか困るし。
とりあえず、さっさと終わらせて帰りたいなー。
早く皆と会いたいよぉ!
と考えていたところでカタカタと馬車が止まった。
「ご主人様、お疲れ様です。
本日宿泊する予定の宿に到着致しました。
どうぞ私のお手をお取り下さいませ。足元は雪で滑りますので」
先に馬車から降りたシンシアが手を差し出して私に声を掛ける。
シンシアに掴まり馬車を降りると、冷たい空気がすぐに身を襲い凍えるような寒さに体を縮ませた。
「ああ、やっぱり外って寒いわ……早く宿に入りましょう」
旅の間、馬車の中ではクラリアの得意な炎魔法『火糸鉄駆』を馬車に纏わせる事で車内の温度を上げて寒さを凌いでいた。
だが外ではその魔法が使えず、仕方なく馬車から出るとそれはそれは寒いのだ!
うん、やっぱり私も是非覚えようかな、その魔法。
ただ、便利に感じるこの魔法に一つ欠点があるとすれば車内が程よい暖かさになったために、私が侍女たちとイチャつくとまぁまぁ暑苦しかったことだ。
少し肌寒い中お互いの身体や肢体を寄せ合い、肌と肌を暖めう機会を失ったのは非常に残念でならない。
なんて事を旅の途中で口走ったらスペリアちゃんとの距離が気持ち少し離れたし、逆にシンシアが目を輝かせながら座る距離を縮めてきたり、クラリアちゃんがただただ熱さ調節に奮闘していたりで一悶着あった。
クラリアちゃんには帰りの馬車までに是非とも、温度調節の技能を向上させていて欲しいものだ。
「ご主人様、今は丁度昼食のお時間ですので宿のお食事を頂きましょうか?」
「そうだね、お腹も空いたしそうしよっか」
「かしこまりました。
クラリア、昼食の用意が出来るまでご主人様を頼みますね」
シンシアがクラリアちゃんに私の世話を任せる。
クラリアちゃんも多少慌てながらも「ひゃいっ!」と可愛い噛み返事をする。
それで噛んだことに慌ててしまい顔を赤くするのも、私の中で評価が高過ぎる。
なんて可愛いんだうちの侍女は!
クラリアちゃんにはロリ時代に出会いたかった。
それだけが非常に悔やまれる。
時を戻す魔法とか無いんでしょうかね?
あったら屋敷の侍女全員幼女にしますけど。うわぁ、何その天国。
なんて考えている間にクラリアちゃんが宿の手続きを済ませてくれて、一緒に食堂へ向かう。
「ナ、ナツメ様、では空いているお席へ案内致します。いいです……よね?」
「うん、お願いね」
クラリアちゃんが私を席に誘導すると、椅子を引いてくれて私は着席した。
その後、懐からサッとナプキンを取り出して、素早く私の膝に掛けてくれる。
そして何処から取り出したのか、小箱をテーブルに置き開く。
その中には、魔銀(料理に毒や魔法が掛かっていると反応するらしい金属)で作られた、食器とフォークとナイフ、スプーン、あと箸(私が作らせた)を私の目の前に綺麗に配置。
そして準備は完了したとばかりに、私の横で綺麗な姿勢で立ったまま料理を待つ。
はい、いつもながらに素晴らしい所作です。
屋敷のどの侍女もこれをやるから凄いわほんと……。
教育をしているシンシアには頭が上がらないね。
「ありがとねクラリアちゃん」
「い、いえ、当然のことをしたた!
……したまでですから」
あんなに素早くテキパキ食事の準備をしていたまさにプロの侍女にしか見えなかったクラリアちゃんも、話しかけるといつも通り吃る。
……うん、愛でたい。
吃って顔が赤いのを指摘してさらに赤くなるのを愛でてさらに赤くなって……。
っていう無限ループの中で暮らしていきたい。
なんて考えながら、待つこと十分ちょっと。
宿の厨房からシンシアとスペリアちゃんが出てきた。
私が食べると思われる料理も両手に携えている。
私のために作ってきてくれたのだ。
テーブルに料理が並べられると、周りの客からは「おぉ……」とか「すげぇ……」見たいな声が聞こえてきた。
そうでしょうそうでしょう、だって君たちが今食べているだろうものとは出てきた料理が全然違うんですもの。正直私には名前が分からない肉のステーキやら、丁寧に盛り付けられた崩し難い魚のポワレとか様々並びテーブルを彩っていて凄い。
テーブルに並べ終えると、シンシアが料理の名前を一つ一つ教えてくれて(よく分からんから半分聞いてないが)説明が終わるといつも通りシンシアが私の傍に陣取り、スペリアが宿の玄関を警戒、クラリアが馬車の駐車へと戻る。
そうすると私の食事が始まるのだ。
周りの客からはチラチラ注目されているが仕方ない。
この世界に来て侍女を屋敷に雇ってからは、外食はずっとこれなのでもう慣れました。はい。
外食に行きたいというと、シンシアがその店の調理場を占領して店のメニューに沿いながらも私好みに改良して出してくる。
外食に行く意味が無い気がする……。
店に迷惑が掛かりまくる行為であるため止めたいのだが、シンシアが「他人が作った料理がご主人様の口に入るなど言語道断!」と言ってやめる気はまるで無い。
だから最近は外食に出てなかったのだけど、旅行だとこうなることも仕方ないのだ。
仕方ないよね……?
まぁもう余計な事は考えず、今は目の前の食事を楽しむべし!
ステーキにナイフを入れて一口サイズに、なんだか上品なソースを絡めてパクッと口へと運ぶ。
うん! いつもながらマジで美味い!
料理漫画だったら余裕で服脱げてるわ。
「とっても美味しいわシンシア、私のためにありがとね」
作ってくれたシンシアにお礼を言うことも忘れない。
一緒に作ってくれていたであろうスペリアにも後でちゃんとお礼を言う所存。
「ご主人様が喜んで頂けるなら、私はどんなことでも致します。
今はお食事を存分にお楽しみください」
はーい。言われなくてもちゃんと綺麗な所作でパクパク食べるぞ!
はぁ~、幸せ。
なんて思ってたのに……。
食堂に入ってきた人物を不意に視界の端に捕らえてしまい、溜息を漏らす。
なんでお前がここにいるんだよ? 勇者様?




