ストーカーと食事の誘い
あらすじ: ホトケ!? ホトケ イズ ゴッド!? オッケーイ!
「ユリーグルさん、お手紙ですよ~」
またか……。
モンスターギルドに入ると、カウンターで微笑むヒルメッタに手紙を渡される。
モンスターギルドの新入りとしてまだ半年も経っていないユリーグルだが、
このモンスターギルドでは非常に有名である。
明るくも端麗な容姿の事は勿論、
実力があることも入って2週間弱で知れ渡った。
その容姿と実力に惹かれた、多くのギルド員たちのパーティ勧誘を拒否。
パーティ勧誘を断られて、生意気だと難癖を付けられて暴力を振るわれれば返り討ち。
街の外で大勢で囲まれても返り討ち。
A級パーティのハンターも返り討ち。
そんな女性が有名にならないわけがない。
本人はそんな事まったく存じてないが……。
そんなユリーグルには、未だにパーティ勧誘や食事の誘いが頻繁にくる。
パーティの誘いは断ってはいたものの、
食事の誘いは別段予定がなければ承諾していた。
普段なら直接誘ってくることも多いが、
ユリーグルがギルドを訪れるのは不定期のため、
ギルド嬢にこうしてお誘いの手紙を預けているものもいて、そんなユリーグルはモンスターギルドでも多少顔が広いのだ。
モンスターギルドに来て早々、
ナツメはため息を吐きながらヒルメッタに差し出された手紙を受け取る。
するとヒルメッタは嬉しそうに、
その手紙の差出人を口にした。
「ななななんと!
そのお手紙は勇者様からなんですよ!
ユリーグルさんってば隅に置けませんねぇ~。
勇者様からのお誘いなんて、何やったんですか?
あ、それとギルドに来なかった数ヶ月分の手紙。
これもありますから、後で全部渡しますね!
いい加減、嵩張って邪魔なんです」
勇者様からのお誘いの手紙に目を通しながら、
さらにため息は深くなった。
はぁ……。
まさかあれで勇者に目を付けられるなんてね~。
なんで? 罵倒されたら普通近づかないよね?
ドMなの? 馬鹿なの? 変態なの?
『勇者』ユウシ・ハヤブサ
何処をどう聞いても日本人だ。
この世界に勇者なるものがいると聞いて、
シンシアから話を聞いて知った人物。
一年前に帝国の勇者認定パレードなるものを行ない正式な勇者となったらしい。
この大陸の半分以上を支配し魔人、魔物を司る魔の王。
ゲームに疎い私でもたまに聞く『魔王』。
そいつと戦うために選ばれた、リュード帝国代表の勇者である。
まだ実力はA級程度で今は勇者としての力を付けながら、共に旅をする強い仲間を探しているとか?
まったくもってアホ丸出しである。
自分魔王を倒します。なんて宣言したら、
魔王から狙われるのがオチじゃないの?
それなのにパレードとかしたら国が狙われるだろ!
って思ったり思わなかったりした。
リュード帝国は魔王領から離れているからまだいいけど。そんな挑発するなよな……。まじで。
だがそれはまだいい。
あの勇者、たぶん高校生くらいだろうに、
奴隷を買って仲間にしている。
その奴隷がアホみたいに美少女らしい……。
お前、絶対容姿見てから購入しただろ!
身体目当てのクズヤロウじゃねえか!
何が勇者だよ!? って言いたいわ!
強い仲間ならゴツいオッサンでも買っとけよ!
そのほうが確実だろーが!
どうせ奴隷として逆らえないのを良い事に、
性的な命令を下してるに違いないし。
勇者なら奴隷から解放しろよと言いたい。
そもそも勇者の癖に奴隷なんて買ってんじゃねえよ! 色ボケの変態が!
まぁ要するに、奴隷撲滅派の私としては、
勇者様が今のところ嫌いなんですわ。
リアルで奴隷買うとかマジないわー。
お前本当に日本人の心があるのか?
道徳の時間何してたの?
道徳心ゼロの外道じゃないか!
それに性奴隷を買う奴なんて、絶対に話が合わないわー。
同郷ってばれたら、馴れ馴れしくされそうだし。
そんな奴と同じ日本人とかマジばれたくないから、勇者とは絶対会いたくないんだけど……。
「それで、行くんですか? それ」
勇者が如何に嫌いはを考えていると、
ヒルメッタが勇者の昼食の誘いに行くか行かないか、ニヤニヤしながら問いかけてきた。
残念ねヒルメッタ……。
楽しい展開を期待しているところ悪いけど、
絶対に行く訳がない、天地がひっくり返ってもな!
けど、行かないって言うと勇者という立場を使って
私を呼び寄せるとか有りそうだわぁ……。
勇者ってわりと権威あるからなぁ。
私の名前割れちゃってるしな……。
だいたいあの勇者、マジ自己中感出てるしなぁ。
いい子ちゃんぶってるけど、自分が勇者だから周りのやつらは協力するだろ?
見たいなオーラ出てるし。
ああいうのないわー。
というか私、国に敵対している暗殺者ギルド所属だから協力とかしないけど。
まぁこういう時のお断りの台詞は、こう言うしかないよねぇ……。
「考えておきます」
ナツメは笑顔でそう告げた。
うん、これでもし仮に行かなくても大丈夫ね!
「え、それってどっちなんですか?」
――っておい、聞くなよ!
くそう、ヒルメッタちゃんの分からず屋めー。
というかまったく空気読めないんだから!
まぁそこが可愛いっちゃあ可愛いけど。
仕方ない。少しでも期待させて行かなかったら、
それはそれでヒルメッタちゃんに悪いし……。
ていうか私、明日から依頼で帝国北部に行くし。
「私、明日からこの街を離れるの。
だから行けないわ。
勇者様には謝っておいて」
「むむ?
それはそれは~。
どちらまで行かれるんですか?」
むっ、やっぱり聞いてくるわねー。
目的地を勇者に伝えてついて来る気かしら?
いつから勇者の手先になったのか、この子……。
「ごめんなさい。
それは言いたくないの」
「ん、そうですか。
では勇者様にはそのように伝えておきますね」
あら? あっさり引いたわね?
別に勇者の手先ってほどでもないわけね。
頼まれたから、聞いてみた程度か。安心。
「ありがとう。
それと今日は依頼を受けるのはやめとくわ。
帰って来たらまたご飯に行きましょうね。
それじゃあね、ヒルメッタちゃん」
「ありがとうございます。
ユリーグルさんもお体にお気をつけてくださいね!」
「うん、貴女もね」
勇者が探しているとなると、
悠長に依頼など受けていられない。
見つかる前にさっさと屋敷に戻ろう。
と思ってたんだけど……。
「ユリーグルさんですよね!?
お会いしたかったんです!
これからお暇であればご一緒に昼食をどうでしょうか?」
うん……。
待ち構えていたかのように顔を出しやがったね勇者君?
それに、なぜかおっ三のリーダー(たぶん)のスキンヘッドも一緒。
てか前も一緒だったけどパーティでも組んだの?
よく組めたね。意気投合した?
「勇者様、昨日ぶりですね?
勇者様が一介のギルド員にお声を掛けるなんて。
昼食のお誘い、光栄ではありますけど……。
他の方に嫉妬されちゃうのでお断り致しますね」
さらっとお断りをして帰る。
でも私の前に立って進路を塞いできた!?
うぜぇ……。
「そんなことは仰らずにお願いします。
あなたに確認したいことがあるんです!」
そんな真剣そうな目で見られても困る。
私はあなたと関わる気は毛頭ありませんので。
なんて勇者様に直接言うわけにもいかないので。
「申し訳ないんだけど……。
私なんかと食事したら、あなたの自慢の奴隷ちゃんに嫉妬されちゃいますので……」
どうにか引いて欲しいという思いで、あとついでに勇者を煽ってみる。
そういえばこいつの自慢の美少女性奴隷は何処にいるんだ?
何でこいつおっ三といるんだよ?
トレードしたのか? 奴隷とおっ三を……。
悲しむぞ? お前の奴隷ちゃんが。
「なっ! い、今は僕の仲間の話なんてどうでもいいですよね?
ユリーグルさんには聞きたいことがあるだけで……」
ほう、奴隷と書いて仲間と呼ぶ気か?
何とも大切にしている感出しやがって!
仲間とかいってるけど、どうせ帰ったら奴隷ちゃんに命令してニャンニャンしてんだろ?
そこらへんの変態貴族と変わらないじゃねぇか!
こいつ将来、仲間と書いてハーレムとも呼ぶパーティ作りそうだな……。
「いえ、申し訳ありません。
それでも勇者様と食事などしてしまっては、
勇者様の女ではないかと噂が立つのは必然かと思われます……。
そうなると私にも勇者様にもそのお仲間様にも迷惑が掛かるかと……。
ですので昼食の件は諦めてください」
「そ、そんな噂、僕とミィリアは気にしないですから!」
へぇ、奴隷の子はミィリアっていうのかー。
カワイイ名前ねぇ。
とりあえず一度は見てみたいわね~。
もし可愛過ぎたら奪い取ってやる。
「私は気にしてしまいます。
すいませんが、私はこれで……」
「ユリーグルさん!?
ちょっと待ってください!」
呼び止められると思うてか!
わっはっはー、即逃げやで。超走るぜ。
と思ったら出口を大男が塞いできた。
お、おっ三!? ど、どうして!?
「待て、ユリーグル。どうして逃げる?」
えぇ……。
どうしてってこっちに台詞なんですけど。
どうして道を塞ぐのか……。
おっ三やっぱり勇者の味方かよぉ。
マジで邪魔なんですけども~。
もう一度ザンコクマを嗾けてやろうか?
「何ですか? おっ三?
また私の身体を金で買おうって妄言を吐こうとしているの? 不快だよ?」
「んなわきゃねぇだろ!
お前は俺の仲間を殺した!
だがそれを咎めないでやる。
だから今日は勇者と昼食をとれ」
うわっ! 聞きました?
この人仲間の死をダシに使ってまで私に勇者とご飯を共にしろですって!
何でここまでのことになってんの?
どんだけ私と話がしたいのよ!?
私は勇者と話すことなどまるで無いです!
「嫌です!
大体お仲間さんが死んだのは私のせいじゃない!
あなた達が私の身体目当てで近づいて襲い掛かろうとしたから当然の報いだし、文句を言われる筋合いは無いですから」
「くっ」
おっ三が悔しそうにしているが、出口はまだ塞がれてる。
おっ三、邪魔やで……。
周りで話を聞いていたギルド員が、
なんだか雲行き怪しい場面に困惑し始めている。
関わらないようにこっそりギルドから出たくても、
おっ三に出口が塞がれて困っている。
かわいそうに……。
そんなとき、勇者が何やら戯言を叫んだ。
「待ってユリーグルさん!
そのこともちゃんとした理由があったんだよ!
どうかザンテさんの事を勘違いしないでくれ!」
はぁ? 勇者何言ってんの?
マジでハッピーな頭してるのかしら?
何? おっ三と恋人なの? ホモなの?
別にそういうのは嫌いじゃないけど、
相手は選んでくれ、スキンヘッド中年とのホモは私の許容範囲を超えているぞ。
私の見てないところでやれ。
とりあえず勇者君がウザったいったらないので、
さっさとトンズラしよう。
ついでに今回も勇者様を貶める方向で。
「はぁ、強姦魔として襲った挙句、対処したら誤解だーってよくそんな事……。
って、あっ……。
もしかして勇者様もこの強姦魔の仲間なんじゃ……。
そんな、なんてことなの……!?」
口を手で覆って驚いた顔を作る。
なんかわざとらしいけど、いっかー。
強姦魔と勇者が仲間であることを大声で暴露する。
何も間違ってはいない。
ギルド員もこれには唖然だろう。
誰もがこちらを見て固まっている。
「まさか!
私を昼食と称して誘い出して人気の無いところで……!? な、なんて恐ろしいことを!?
こんな犯罪者の近くになんていられません!
私は帰りますっ! いやぁぁあああ!」
なんて叫びながら、自然な流れでギルドを飛び出した!
やったー! 逃走成功!
後のことは勇者とおっ三に任せて、私は帰路に着く。
いやー、あんな大声で叫んだら、勇者はともかくおっ三は捕まるだろうなー。
すまんなおっ三。
でも元々は援助交際を持ちかけた君が悪いんだぞ。
ちゃんと牢屋の中で反省してなっ!
ナツメさんが自由でいいですね。私もナツメになりたい。




