おっ三と勇者
あらすじ:ゆ、ゆうしゃだってー!?
C級パーティ『ケルベロス』リーダーこと、おっ三。
彼がザンコクマに逃げるのに夢中で、地面に寝転がっていたユウシに気付かず、蹴躓いてしまった。
そのお蔭で、ザンテは勇者ユウシに危機を救って貰えたのだ。
「はっはっはー、ユウシ! てめぇ、貴族の坊ちゃんかと思ったが勇者だったなんてなぁ! 通りで強いわけだ!」
「ありがとうございます。でもあなたも相当有名ですよ? 『ケルベロス』のザンテさん!」
「おっと、こいつぁ驚きだなぁ。俺のことも知ってるたぁ、相当の情報通か?
勇者ってのはC級程度のチームなんざ眼中に無いと思ってたがな」
B級のハンターが複数集まらなければ倒せない魔物を一刀両断した勇者。
ザンテは彼が言った言葉に正直に驚いた。普通C級のパーティというのは、ハンターとしては優秀ではあっても有名ではない。
自ら宣伝をしなければ、あまり知れ渡ることの無いのがC級ハンターなのである。
だが、ハンターの世界ではC級以上が全体の4分の1程度しかおらず、C級のハンターが有名ではなくとも強い地位である。
という認識はこの国では共通の考えだ。
「そんなことは……勇者といっても今はA級下位くらいの実力しかありません。
いずれは魔王も倒して見せますが、今は周りの実力者と肩を並べて街を守っているに過ぎないんです。
だから有名な実力者の事は知っておかないと」
なにやら使命に燃えているらしい青年に、少しばかり感心する。
A級なんてこの国内ではハンターでも数えるほどしか居ない。
B級になったら多少遊んでも余裕のある暮らしができるってのに……。
こいつはA級になっても満足しないらしい。
逆に女を追いかけて返り討ちに会い、仲間まで失った俺はとてもかっこ悪くて無様だろう……。
そう考えると、勇者であるこいつに俺の名前が知られていることが、急に恥ずかしくみっともない事に思えた。
「だが実力者といってもザンコクマ程度で無様に逃げ回っていた俺は、お前から見て実力者には見えなかっただろうな。
悔しいが、俺は力はその程度……わざわざ覚えてもらうに値しないだろう」
自分を卑下するザンテを見て、ユウシは少しばかり驚いた顔をしたが、すぐに「そんなことは無い」と言い張った。
「正直、ザンテさんは実力者ではありますが、あまり良い噂は聞きませんでした。
女を無理やり抱く、とか新人のギルド員を蔑む問題児だとか。
でも、ザンテさんに会ってそれは間違いなんじゃないかと思いました。
ザンテさんみたいな良い人を知れて僕は嬉しいです」
ユウシはニコッと笑いかける。その言葉と表情にザンテは胸を苦しめた。
良い人なんかじゃない、俺は悪い奴だ。
「ちげぇよ……全然ちげぇ。笑っちまうだろうけどなぁ。
俺はついさっきまでお前の言うとおり、新人の女にちょっかい掛ける為にわざわざブレイディア森林まで追いかけた。
執拗にしつこくネチネチとな、それでこの仕打ちさ。
あの女がクマにナイフを放って俺たちを身代わりにして逃げた。
俺たちはザンコクマから逃げたが俺の仲間は二人、途中で死んだ」
「そ、そんな……!?」
勇者は大袈裟だといわんばかりに驚いている。
どうせ身近な死に慣れていないのだろう、その様子にザンテはほんの少しイラつきが沸いた。
こいつが驚く理由は身の回りの者を守れる強さを持っているからだ。
自分自身が強いお蔭で今まで回りに死が無かったのだろう。
死なんざそこら辺に溢れているって言うのによ……。
「いいんだよ! 俺が悪いんだからよ。自業自得だろ?
俺は女を追いかけて返り討ちに合っただけの無様な男だ。
笑っちまうよなぁ。ただ、お前に助けられて運が良かったと思ったよ……」
本当に運が良かった。けどもうこんな事は続けられねぇな……。
「で、でも、ザンテさん! どうしてその女の人を森林まで追いかけて?」
「ああ、そりゃそいつと一発ヤりたかったからに決まって――「嘘ですね、ザンテさん?」
「ああんっ!?」
なんだこいつ、いきなり。なよなよした目つきが急に変わりやがったぞ?
「僕には嘘が分かるんですよ。ザンテさんは自分を悪者に見せようとしている。
理由は分かりませんが……例えば、その女性が身に合わない危険な依頼を受けた。
ザンテさんたちはその女性に危険な依頼をさせたくないからわざわざ邪魔をして、引き返すよう森林まで追いかけた。なんて感じでどうですか?」
くそが、嘘が分かるとか、なんてインチキ能力だよ! これが勇者の力ってか?
こいつには何もかもお見通しって言いたいのかよ?
「ちっ、今更どうこう言った所で意味なんてねぇんだよ!」
「いいんですか? その女の人」
「はぁ?」
「その女の人が心配で、わざわざ追いかけて行ったんでしょ? 危険な魔物から守るために」
「もしそうだとして何だよ?」
「その女の人、このままじゃあ死にますよ?
ザンテさんでも逃げるザンコクマがあの森には今、複数潜んでいる。
ザンテさんの見立てでは、その人はザンコクマには勝てないんでしょう?」
このままだと死ぬ。そりゃそうだろ。
俺の忠告も受けずに一人でザンコクマの居る森に入った。
新入りが何を思ったか知らねぇがザンコクマは一人では無理だ。
せっかく俺が……遠回しにだが危険だと忠告してやって、街まで引き戻そうとしたのにも関わらずな!
「ああ、女はギルドの新人だ。入ってからちょっとは依頼を受けていたらしいが、一ヶ月ほど姿を現さなくなった。
今日突然ギルドに来て、ザンコクマの依頼を受けて一人で行きやがったんだ」
「新人で!? どうして受付嬢は止められなかったのですか!? 普通はありえないでしょう!?」
「知らん! 俺が聞きに行った時にはそいつは居なくてな。
いいから早く出せ! と言っても昼食に行っただとかふざけた事言ってたからな。
仕方なく、あの女を追いかけたんだよ」
本当に受付の奴はふざけてやがる!
なにが「その女性の方とは知り合いだから大丈夫だと言っていた」だぁ?
知り合いなら一人でザンコクマに勝てるなんて思ってるバカか!?
ギルド嬢ってのはギルド員が死なないように、レベルに合ったクエストを提案する必要があるだろうが!
くそっ、くそが!
それを聞くとユウシは少し考え込む顔をしてから顔を上げた。
「とりあえずブレイディア森林に戻りましょう! その人を助けに行って、ザンテさんの誤解を解くんです!」
「行くわけねえだろ! 俺じゃあザンコクマが出てきても足手纏いだしよ。
誤解だって解きたくねぇ、放っておいてくれ!」
今更、「俺の悪びれた態度がお前を守るためだった」なんて言い分、信じられるわけがねぇし。言いたくもねえ! そもそも俺は悪者で居たいんだよ!
「そんなのは関係ありません! 僕が行きたいから行くんです! さあ行きますよ!」
ユウシはザンテの腕を掴むと、走り出す構えを見せる。
「ふざけんな! 一人で勝手に行っ――てぇぇえええ!?」
ユウシがいきなり走り出すと、ザンテの大きな身体は中に浮くように凄い速度で引っ張られて、ユウシと共にブレイディア森林へと向かって行った。
寝る前にもう一個出せます。




