ストーカーと暗殺依頼
コルンくんハァハァ……!
「孤児院の子供たちと遊んでいた幸せな休日は突如終わりを迎える。ギルドという名の暗殺機関に属しているナツメ。彼女は暗殺業務を強制され、人を殺す機械となるのだ……。ああ! 悲しいナツメ! どうして私はこうなってしまったの!」
「ねぇ……、それって僕に遠まわしに文句言ってるの?」
「いや、すいません。なんかノリで言ってみただけです」
今日は私が所属している探偵ギルドなどではなくなってしまった、暗殺者ギルド「イルスフィア」のマスター。かわいいかわいいコルンくんから、久しぶりにお呼び出しを受けたのだ!
でもあの決起会? から2ヶ月くらいずっと孤児院で遊んでたから、もう仕事する気が起きない……。
そんな私への呼び出し理由はもちろん依頼。暗殺者ギルドの依頼と言ったらもう暗殺しかないよね~。
あぁ、気乗りしないわー……イラつくやつを勝手に殺るのは良いけどさぁ。頼まれるとどうも気乗りしないわー……。
「ナツメ君、君にやっと依頼を頼む日が来たよ。君にとって新生ギルドとなった「イルスフィア」の初依頼だよ! それにこれは君にしか出来ないであろう依頼だ! よろしくね!」
そう言って笑顔でコルンは一枚の依頼書を渡してくる。
うん、いい笑顔! ショタカワイイ! そんなカワイイショタに頼まれちゃったら――。
うん、でも、まだ気乗りしない……。せめて5時間くらいでいいから抱きつかせてくれ。そしたらコルンくんのために何でもやってやる機械になることも吝かではないのに!
そう思いながら、ナツメは渡された依頼書を手に取る。
「うん! 値段のところしか読めない!」
相変わらず文字が読めません……報酬は2500万リュード。凄い高い。
「ナツメ君はここに来て半年くらいだよね、まだ文字は無理だったかな……」
「そうねぇ、所々読めないことは無いけど……依頼書って難しい言葉が多くてね。私が今、お勉強してるのは子供とかが習う系の日常単語とかだから。この依頼書ってば、なんだか血の気も多いしー……。"暗殺"とか"死体"とかそんな怖い言葉習ってませ~ん。ナツメちゃんってばまだまだ可愛らしい女の子なのよ?」
そう言って上目遣いをしてやる。コルンくんが呆れた目で見てくるが、どこもおかしくは無い。
この世界の文字はうちの侍女から習い始めたけど「暗殺対象」とか「○○家の公爵の息子」とか、依頼書に書いてある恐ろしげな単語はまだ読めませんから。私が読めるのって「幼女」とか「揉み揉み」みたいな生活必需用語ですから。
というわけで、依頼書をコルンくんに読んでもらって依頼内容を確認。今回の依頼は、キタルダ家って言う公爵家の息子さん、キタリウス・キタルダさんの暗殺らしい。おーこわ。
どうやらこの人。この国の帝王の娘さん、つまりお姫様との婚約者で、さらに帝国で貴族権利の拡大を狙う派閥に属しているらしい。お姫様と結婚しちゃったら、貴族社会がさらに増長するから結婚は許されないんだって。へぇ~。
それを聞いて、あんまりピンときてないような顔をしていた私。
でも、そこにコルンくんが
「あ、あとその息子は奴隷推奨派で、女の子の奴隷をしょっちゅう仕入れては拷問ばかりするクソ野郎だよ」
って事を付け加えられた。
なんちゅう情報や!?
「うふ、ふふふふ」
うん、完全に私にやる気を出させるために言ってるよねコルンくん? 言っとくけど私そんな事言われたら……、死ぬほど殺る気出すよ? どうなっても知らないよ? 焚きつけたのはコルンくんだからね。ぶっコロだよぶっコロ☆ 即☆悪☆惨! だよ!
「惨」は凄惨に殺すってことで、間違いではない。
「ナ、ナツメ君、大丈夫かい?」
ふふふ、やると決めたら即行動! ナツメちゃんの処世術ならぬ処刑術ですわ! いや、あんまりうまくないわ……ごめん。
「すぐに行ってきますね。確かリュード帝国の北部、キタルダ領でしたよね? さっさと息子さんをぶっコロコロリン、コロコロリンだよ!」
立ち上がってすぐに部屋から出ようとするとコルンくんが止めてきた。
「ま、待って待って! 送迎は僕たちで用意する手筈だから! ちょっと落ち着いて! ね?」
むぅ、そうであったかー……こう、やる気がある時に行かないと、なんかなぁ……。まぁコルンくんの意向ならば仕方あるまい。
「そうですか、分かりました。では限り無く早く用意してくださいね。そうだ、折角の旅行だし、こちらは私と私の家の侍女を連れて行きますから」
北の大地、年中雪が振るほどの場所らしい。それだと私一人ではさすがに厳しいからね。世話役としてシンシアは連れて行かないとね~。
ああ、どうせなら他にも連れて行こうかなぁ。さすがに一人だとシンシアも私のお世話大変そうだしー。
「え? あ、あぁ、侍女のほうは自由にして貰っていいけど……。馬車の日程はこっちで調整するから、それでもいいかな?」
「はい! では、日程が決まったらご連絡を~」
と言ってそそくさと部屋を出た。
「なぁユベ爺……ナツメ君はなんで奴隷のこととなると、あそこまで血の気が多いんだろうな……。いや、僕たちもそれなりに怒りは覚えるけど……彼女は特に異常だ」
「それは、私にも分かりかねます……。しかし、彼女はやると言ったら簡単に達成できてしまう。今回もそうなることでしょう、やはり恐ろしい御方ですな。ほっほっほ」
*************
ナツメがギルドマスターの部屋を出ると、シンシアが綺麗なお辞儀でお出迎え。
「ご予定は?」
そう聞いてくるシンシア。まだ依頼内容を聞いただけで、いつ行くかは決まっていないことを告げると「かしこまりました」とだけ言って、後は私の傍を付いて歩く。屋敷までの馬車に乗り込むと、ナツメはシンシアにお願いをする。
「あ、そうだ今度の依頼はシンシアも付いてきて欲しいわ。場所が帝国の北部らしいから、私一人ではつらいと思うのよ~。雪が降っているらしいわ。ああ、寒そう……」
「はい、かしこまりました。帝国の北部に私とご主人様のみで出発でよろしいですね?」
シンシアはついて行くのは当然であると言わんばかりに、ナツメに返事を返す。そのついでにご主人様と二人だけで行く提案をさり気無く入れてみる。
「ん~、いや、私の世話、シンシア一人だと大変だろうし。あと二人ほど連れて行ったほうが良いよね? たぶん寒いところは色々大変だよ~?」
二人だけで依頼に赴く作戦は失敗した。しかし、ご主人様の言うことも一理ある。どころか私の提案は、下手すればご主人様に不便な思いをさせてしまうかもしれなかった。"侍女長"ともあろう私が、このような利己的で浅ましい提案をしてしまったのが恥ずかしい。
「そうですね、では私のほうから二人選出しておきます。よろしいでしょうか?」
二人の侍女を選出……これは責任重大です。とりあえず護衛能力が高い者と料理が得意な者の選出ですね。
「いいわよ。皆良い子たちだからねー。安月給なのに本当よく働くわよね~。さすがに嫌になりそうなもんだけどなぁ。暗殺者の屋敷の侍女なんて……ねぇ?」
ご、ご主人様はそんなことを考えていらしたのですか!? なんてお優しい! そして気配りの出来る素晴らしい御方! またご主人様の魅力を一つ見つけてしまいました。しかし侍女たちはすでに、とある契約書に契約済みなのですから心配は要りません。ご主人様を裏切る行為をすれば、私が結成した侍女管理委員が直々にお仕置きしてやるという契約書です。
そんなものを結成していると知ると、ご主人様は怒ってしまいますから伝えませんが……。侍女たちに甘い、そんなところもまた素敵です。
「そんなことはありえません。侍女たちは全員すでにご主人様に忠誠を誓っておりますので」
「そうなの? ふふ、嬉しいわ! でも、まあ何かあったら私に言うのよ? 私からではあなたたちの待遇の何が良くて何が悪いかなんて分からないんだからね?」
「はい、かしこまりました」
そう頭を下げて、ご主人様の優しさに感動する。
そんなご主人様に絶対にご迷惑、ご不便を掛けないためにも暗殺依頼に連れて行くための侍女の選別方法を考えるのだった。




