侍女幹部とお茶会2
前話の続きです。
「あなた達! こんなところで何をサボっているの!?」
侍女幹部三名。白いテーブルを囲んで談笑するこの中庭に、不意に聞き慣れた声が響いた。その声に三人は条件反射のように硬直する。そして首をぎこちなく声のする方へ向けると、三名の予想通りそこには侍女長シンシアが立っていた。
「じ、侍女長!?」
「今日は私たち非番だったはずですが……もしかして勘違いだったでしょうか!?」
「い、いや、そんなことはないはずやで!?」
さ、さぼり!? いや、今日はうちらは休みだったはずやで! というか侍女長は今日、ナツメ様の護衛をしてるんじゃあ……。何故一人でこんなところに?
三名はサボり、と言われた事に酷く動揺した。今日は休日、仕事は無いはずである。しかし、シンシアは困った顔をして現れている。
「あら、あなた達に仕事をお願いしたはずだけれど? まさか、忘れていたなんて言わないわよねぇ?」
「あ、そ、それは……」
「い、え、そんなことは……」
「せ、せや! うちはそんなの聞いてへんで!?」
慌てふためく侍女幹部たちは互いに顔を合わせて困惑する。実際、休日である日に仕事をお願いされることなど少ない。それゆえに、お願いされたら覚えていないわけがないのだ。しかし侍女長が間違えているとも思えない。
「ふふふ、いいのかしら? 侍女長である私にそんな口聞いちゃって?」
しかしそんな緊張の走る場面で、シンシアの三名を挑発するような言葉。
それを聞いたルルーとリリエラの目つきが変わり一瞬。リリエラは懐からナイフを取り出し侍女長の首元へ。ルルーは瞬時に両手を拘束した。
「あらあら? 何をするのかしら? 痛いわよ?」
侍女幹部の二人が侍女長を拘束する。謀反を思わせるその光景にレーナはただあたふたしているだけだが、他の二人はとっくに気付いている。
「あんた、何者や?」
「そうです、侍女長が自分の立場を使って僕たちを脅迫、なんてありえませんね。それに言葉もどこか変ですね? 僕らをあまり舐めないほうがいいです。さっさと正体を見せてください? 侵入者さん」
ふん、ルルーの言う通りやで! どんな魔法か知らんけど、よりにもよって侍女長を装うなんて間抜けもいいとこや! いきなり現れたから戸惑ってしまったけど、良く見れば丸分かり、言葉遣いも立ち振る舞いもなって無さ過ぎるで。侍女長の真似が出来るのは侍女長しかおらんのや!
「侵入者」そう聞いて驚いたのはレーナただ一人だった。彼女は孤児院担当のためほとんど屋敷に居らず、シンシアとの接点が少ないため気付かなかった。しかし、ルルーとリリエラは違う。
シンシアの容姿をした侵入者は、二人に拘束されながらも笑みを零した。そして「諦めた」と降参の旨を伝える。
「ふふ、ふふふ、降参よ、騙してごめんなさい。変身を解くから手を離して欲しいわ」
「む、その手には乗らないよ? 手を自由にすれば、それだけ逃げられる確率が上がっちゃうからね」
「せやで? 誰の差し金や? 早めに楽になったほうがええで?」
「あらあら、これじゃあ変身が解けないわ……困ったわ、どうしましょう」
拘束されて変身が解けず困り果てる侵入者。ルルーとリリエラはとりあえず、屋敷の地下にある牢に放り込んで置こう、ということで一致する。そんな時、侍女服の女性が中庭に現れ、ルルーとリリエラに声を掛ける。
「あなた達、この騒ぎは一体なんです?」
「「「侍女長!」」」
中庭の入り口から声を掛けたのは、本物と思われる侍女長。立ち振る舞いも口調も侍女長そのものだ。彼女を見て侍女幹部の三人はホッと息を吐いて、状況を説明すべく捕らえた侵入者を目の前に晒す。
「侍女長! この怪しい奴が侍女長の姿を――」
「ご主人様? 居ないと思ったらこんなところに? お戯れもいいですが……その様子だと侍女たちの反乱、でしょうか?」
シンシアが自分と同じ姿をした侵入者を見た後、ルルーとリリエラを一睨みしながら、目の前の偽侍女長に問いかけた。その言葉に二人は冷や汗が流れ出した。この捕まえた人物に対してシンシアは「ご主人様」と言った。そして案の定、侵入者はシンシアにも砕けた口調で話し始める。
「違う違う~。ちょっとシンシアの姿で悪戯してみたら、こうなっちゃって~。てへっ! シンシア、助けて頂戴?」
「はい……ご主人様。あなた達! さっさとご主人様を離しなさい。今なら三時間の正座程度で許してあげます」
そのシンシアの言葉に、力が抜けるように不審者を放すルルーとリリエラ。そして自由になった侍女長の偽者。彼女はすぐに手を顔に被せ魔法を一言。
「『物真似師の休日』!」
そう唱えると、毎日見るこの屋敷の主の顔に変わる。
「じゃじゃ~ん、私でした~! どう、ビックリした??? ねぇねぇ! 意外と分からないもんでしょ? シンシアがすぐに私って見破るから自信なかったんだよね~」
「申し訳ありませんご主人様。自分の仕える主と気付かず、拘束して刃物を向けるなど……。後でちゃんと言い聞かせておきますので」
「ひっ……!?」
悪戯が成功して嬉しそうにするナツメに、勘弁してくれ、と内心感じ、シンシアの言葉に恐怖する侍女幹部たち。冷や汗が背中を流れ、この後のシンシアの処罰を恐れるように震える。気付かなかったとはいえ自分の主に手を出したのだ。穏便に済むとは思えない。
「まぁまぁシンシア、今のは私の魔法の実験のせいで私が全部悪いからさ。怒らないであげて。ね? それに私の魔法が有用なのも分かったし! 寧ろ褒めてあげて頂戴!」
「ですが……、いえ、そうですね! ただ、ご主人様と気付かないのは問題です。少しだけ言い聞かせるだけで済ませますので」
「むっ、ほどほどにしてあげてよ? この子たちもせっかくのお休みが最悪な気分になっちゃうからね~。というわけで、皆騙してごめーんね☆ 今度美味しい物作ってあげるから。それで許してちょ!」
そういってナツメはそそくさと去って行った。まるで嵐のように去っていったナツメを3名は呆然と見届けていると、シンシアがコホンと咳を一つして、3名を睨む。
「さて、あなた達?」
「ひゃい!?」
「はい!?」
「なんや!」
「ふふ、そう硬くならないでいいですよ。今のはあなた達のせいでないことは、私の目から見ても明らかですから。まったく、ご主人様のお茶目な悪戯もほどほどにして頂かないと……」
シンシアの優しい顔と言葉に一同、ホッとした表情を見せる。
「ですが、やはりご主人様と見破れなかったことはとても不安です。そこでこれからは、ご主人様の特徴と魅力、体型、などについて勉強してもらいます」
「え゛っ?」
「私も、このお茶会に参加させていただきますので……」
いきなりのお茶会参加宣言。呆然としている侍女幹部たちを他所に、どこから持ってきたのか自分が座る用の椅子を設置し、綺麗な姿勢で着席。
「あなたたちも遠慮せずに座りなさい。今日はお茶会をしながらご主人様の魅力。ご主人様が如何に素晴らしい人物であるかを、余すことなく教授したしますので」
用意されたティーを一口して、シンシアはそう言った。その言葉で侍女幹部たちは悟ったという。
あぁ、今日の休日潰れたわぁ……。




