ストーカーと初戦闘
あらすじ:身体にナイフ刺さったなう。
「つ、つう、かくか、い……じょぉ!」
目の前の侵入者が痛みに悶えながらもそう言葉を口にした。すると、まるで体中の痛みが一瞬で消え去ったかのように、苦しみの表情が消え、悲痛な叫びが鳴り止む。
それと同時に侵入者はスッと立ち上がり、刺さっているナイフをスポスポと抜き始める。そして、何事も無かったかのように、抜いたナイフを床に落とし、安堵した様に、ふぅ。と息を漏らした。
目の前の侵入者をもう追い詰めた。殺した、と思っていたナイフの男、ケニーフェは体を強張らせた。先ほどまで、痛みで死ぬんじゃないかというほどに苦しみ悶えていた侵入者。それが、いきなり何事もなかったかのように立ち上がり、体に刺さるナイフを平然と抜き始めたのだ。その光景は異様という他ない。
「なっ!? おい! てめぇ動くんじゃねえよ!」
そういってケニーフェはさらにナイフを複数取り出して投合する。複数のナイフが一直線に飛び出して次々とナツメに突き刺さるのが見えた。そのうち数本は頭や胸など急所に当たる部分。これで確実に死んだだろう。
「ちっ! 手間かけさせんな……って、はあ!?」
投げたナイフが突き刺さるのを見てホッとしたのも束の間、ナツメが前方、ケニーフェのほうに向かって機敏に走って来る!
嘘だろ、あ、あの暗殺者、痛みを感じないのか!? いや普通あれだけ刺さったら、動けなくなるだろ! というか死ねよ! 馬鹿みたいに突撃してやがって、化け物か!? くそっくそっ!
「くそっが!」
ケニーフェはナイフ2本を取り出して両手に持って応戦する。ナツメも突撃しながら短剣をケニーフェに振り下ろす。
「はっ! 短剣の振り方がまったくなってねぇ! 初心者でももうちょっとやるぞ?」
暗殺者にしては人を殺すような太刀筋じゃない。寧ろこれは、剣を持ってまだ一日二日経ってないような素人だろ!? 馬鹿にしてんのかぁ!
ナツメの剣の振りを見てそう感じたが、実際、ナツメは短剣を素振り程度でしか触っておらず、実践で使用するのは初めてなので間違ってはいないだろう。だが、どれだけ傷つけても倒れずに襲ってくるナツメにケニーフェは困惑し、少しばかりの恐怖が浮かんでくる。
なんだこいつ! 切っても切っても倒れねぇ! ゾンビかなにかじゃねえのか!? というかこいつ血が出ねぇし、切った肉の感触も違和感がある……。絶対に人間じゃねぇ……魔物か!?
「くそったれ魔物かよ! いちいち人間様の住む場所に来てんじゃねえよ!」
目の前の闇に溶けそうな黒を纏った人型が魔物だと認識すると、ケニーフェは途端に気が重くなる。
こんだけ切り刻んでも、無傷って面してやがるっ。こいつはたぶん不死系の魔物だろ。しかも人間の言葉を話していたとなりゃあ、完全に上位種の魔物だろ……! くそったれめ! イカレた上位種なんて、俺だけじゃあ止めらんねぇぞ!?
仕方ねぇが、ここは逃げるしかねぇ! さっさとギルドに報告しねーと! 幸い接近戦はゴミカスのようだからな、逃走は容易いだろ。
ケニーフェが背を向けてこの場から離脱を図る。魔物との距離は十分に離れた。この魔物のさっきの走る速さからいって、余裕で逃亡可能だろう。雇い主の奴隷商も連れてさっさとこの屋敷から離れたい。本当ならあの雇い主も無視して逃げ出したい気分だが……。
何度切り刻んでも倒れない魔物に、気持ち悪さと恐怖を覚えてしまったケニーフェは、この場からの離脱に見事成功。
「『必中の投擲』」
する事はなかった。
背後から聞こえる女声と共に、グサリと背に何かが刺さった。
――グサリ……、グサリグサリグサリグサリグサリグサリグサリグサリグサリグサリグサリグサリグサリグサリグサリ。
何本ものナイフが次々とケニーフェの体を貫く。
「かはっ――!?」
ナイフだと!?
こ、こんな量のナイフどこから!?
地に伏せた体を懸命に捩り、震える目で魔物を見る。そこにはまだ何本もナイフを持った魔物がこちらを見つめている。
あれだけの量のナイフ、俺のように隠し持ってなければ……はっ!?
倒れた拍子に自分の体から零れ落ちたナイフに目をやると、すべて理解する。
そりゃいっぱい持ってるだろうなぁ。こりゃあ、俺のじゃねえかよ……。この魔物は俺の投げたナイフを拾って、投げ返したのか。
「あら、まだ生きてたの? しぶといわねぇ……。ふふ、そんなハリネズミみたいな姿にしてごめんなさいね? あなたいきなり逃げるものだから、つい慌てて加減を忘れてしまったの」
足音も立てず、不気味に近づいてくる女の声。目元しか見えないような服を着ているが、眼や声だけでも見目麗しいであろう事は判る。人型の上位種の魔物は、人間を誑かすため美しい男女の姿に成ることが多い事は知っている。やはり、こいつは上位種の魔物であったのだ。とケニーフェは確信する。
魔物の癖に、謝罪だの加減だの……ふざけてやがる。だが、しかたねぇ。こいつは強敵だった。逃げてやられたのは恥だが、普通にやっても勝てなかったのだろう。
ああ、くそっ!
どうせやられるんだったら、ちゃんと戦っとけばよかっ――。
男の首は目の前の魔物に刎ね飛ばされて胴を離れた。
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目の前の男の首を刎ねると、一仕事終わったかのように息を吐いた。
「ふぅ……、この人凄い強かったわー、マジで」
たぶん達人レベルっていうの? ナイフ投げるの凄く上手かったし。接近してのナイフの振りも全然見えなかった。それに私の今日から始めた素振り100回程度の短剣術もぜんぜん当たらなかったなー。こんなにナイフ使いが上手いんだったら、用心棒なんかじゃなくてサーカスの団員にでもなれば良かったのに。
んでも、なんで途中で逃げたんだろ? 結構押されてたんだけども……。めっちゃ切り刻まれてたんだけども。なんか魔物とか言われてたし、勘違いやろか?
そう思いながら、目の前に転がるハリネズミのように背中にナイフが刺さった首なし死体を見る。
まあでも、今のこの体じゃあ死なないし、何も知らないとヤバい魔物とか言われても納得だわ~。あんなにナイフ刺さってて死なないんだし。私でも怪物か幽霊かと思って超逃げるね。うん。しかし、この魔法考えたコルンくんは本当に凄い。
コルンくんから教えてもらった探偵魔法『立体影法師』
自分の分身を作り出して操作する。という忍者なら誰でも頻繁に使ってそうな魔法なんだってばよ。任務のときは必ずこれを使って行くこと! というぐらい探偵にとってはマストらしい。いや、探偵といっても私たちのギルドだけらしいけどさ……。ギルドの重要な秘密の一つで、門外不出の魔法らしい。
これの便利なとこは、分身が本人過ぎて触らないと判別できないし、逆にこっちからは本物と変わりない情報が得られるのだ! 簡単に言えば、分身に五感が備わってるし、声も出せる。私がナイフに刺さって死にそうなときに使った「痛覚解除」とか、いらない機能を停止させることもできるから、痛みを恐れない狂戦士の出来上がりで、逆に本人よりも強いかも! みたいな?
まぁでもデメリットもあって、本人から100メートル程度しか離れられないし、その間、私めっちゃ無防備やねん。座禅して集中高めてる修行僧みたいな状態だし~。
この前コルンくんとやった重要書類を盗む依頼では、分身が潜入してる間はコルンくんが私の身体を余すことなく見ててくれたけども……。で、今本体がいるのは奴隷屋敷の屋根の上。まあ、人はこないだろうから、安全でしょう!
んでは、邪魔者も倒したことだし、さっさと進みましょー! おー!




