ストーカーと侵入
あらすじ:私、暗殺者になります!(清清しいほどの決意表明)
人っ子一人も見当たらない娼館通りの真夜中。
娼館通りならまだ賑わっていてもいい時間だと思っていたが、この世界ではそうではないらしい。
どの建物も真っ暗で夜道は月明かりだけが照らして建物の影はもはや何も見えない闇と化している。
娼館通りの建物の間の小道を通って奥へと進むと、ナツメが夕刻ほどに訪れていた奴隷屋敷が暗く潜むように佇んでいた。だが、その小窓からうっすらと明りが零れているのが見て取れる。
あの奴隷商人がまだ起きているのだろう。ナツメは奴隷屋敷襲撃のための準備を始めた。
「やっぱり、見張り雇ってるんだ……」
ナツメが誰にも見つかることなく訪れた奴隷屋敷の前には、厳つい顔の筋肉ダルマが二人、扉の前で突っ立っている。眠そうに欠伸していたり、壁にもたれ掛ってウトウトしている、奴隷屋敷とはいえ、夜中に店に見張りがいることに少し驚いた。真面目では無さそうだけど。しかし、人間の見張りなどナツメにとってはいないのと同じことだ。足音を立てぬようにスルスルと奴隷屋敷に近づく。
私が今回することは、私という襲撃者が目撃されずに、奴隷の子たちを全員連れて帰ること。
そのためには気が乗らないけど……。
――ドサッ
何かが地面に落ちる音。
それを聞いて見張りの一人がそちらを向く。
「なん――」
――ドサッ
またもや何かが地面に落ちた。しかし、今度はその音を聞いて疑問を抱くものはいなかった。奴隷屋敷の扉の前では、首を裂かれた二つの死体が出来上がっていたのだ。
「ふぅ、やっぱりここまで気付かれないと私自身恐ろしいわね。一応横からこっそりと近づいて首を刈っただけだけど、いくら真っ暗でも近づいた事に気づかないなんて」
ナツメは横たわった死体の一人が着ている服を掴んで、手に持っている短剣の血を服で拭う。
よし、これで綺麗に元通り。血が付いたままだと、奴隷ちゃんたちが見たときに怖がるかもしれないからね! じゃあ屋敷に潜入だい!
ナツメは扉に手をかけ、ノブを回す。しかし、ノブは回らず扉を開けることができない。
んあ? ああ、鍵魔法掛けてるのね。見張りもいるのに魔法も掛けて厳重だなぁ。普通の店なら、鍵魔法を掛けたら見張りなんていらないはずだけど。
普通は扉に鍵魔法を掛けることができる場合、鍵魔法自体が強力なためほとんどそこから進入されることはほとんどない。なので鍵魔法が掛けられた扉に見張りは必要ないのだ。つまりこの状況は無駄だと言わざるを得ない。見張りを置くなら別の場所にすべきだ。とナツメはコルンとの個人レッスンで学んだのだが……。
一応コルンくんでも鍵魔法は解けないし、私もそれはできない。まあ、でもこういう時のためにコルンくんから探偵の極意を学んだのだけど。
「ふっふっふー、『粘質なる炎熱』」
そう、私がコルンくんから学んだもの! それは魔法! 体中の魔力なるものを用いて奇異な現象を引き起こす! これで私も魔法少女だ! とはしゃいだものよ。いや少女じゃないだろうだって? 忘れたか! この世界では私はハーミィちゃんより若く見えるのだ! 少女と名乗っても何の問題もあるまい。
……いえ、すいません。私自身が恥ずかしいから名乗りません。
ちなみに『粘質なる炎熱』は火属性の中級魔法。あらゆる物質にドロリと纏わりつき、焼き溶かし尽くす! 音もあまり出ないし、消費魔力も多くない! 良い事尽くめのコルンくん直伝『探偵魔法』らしい。これの何処に探偵要素が……?
そんなドロッとした炎を扉に向かって撃つべし! 撃つべし! ってやると泥団子をぶつけられた壁のようにベチャっと扉に付着。それを数回やってしまえば木製の扉は穴が開いて貫通。炎の固まりは重力に引きずられて下に落ち、ゆっくりと扉をボロボロに焼け焦がす。
「おおー、これが木製の扉を無力化する探偵必須の魔法かー。ってこれ探偵魔法ってより泥棒魔法だとおもうんですけどね……。あいかわらずこの世界の探偵ってワカラナイ」
ナツメは目の前でボロボロに焼けた扉の穴を短剣を使ってバキバキと広げて、人一人入れる大きさの穴を作る。お邪魔します。と小声で言いながら進入成功。魔法を使ってから進入まで2分程度しか経ってない。見張りの排除と合わせても4分も経たずに潜入したことになる。
はやい! 圧倒的潜入スピードや! ルパン○世も怪盗キ○ドもビックリ。
でもこの世界の探偵ってやっぱりスパイみたいなものよね? 浮気調査とかペット探しとかしないのかしら? いや、別にしたくは無いからいいけどさ。
なんてことを考えながら屋敷内を探索しようと足を踏み入れた。すると、ナツメの鼻先にナイフが掠めて壁に突き刺さった。
「おい、動くんじゃねぇぞコソドロがぁ……」
そう聞こえて振り向くと暗い廊下の向こうからギラッと鈍く光るナイフを両手に何本も持った男が歩いてくる。そして、その男は何を言うでもなく、手に持つナイフを複数投擲する。
「ぎゃっ――くぅ……!?」
ナツメは向かって投げられたナイフ8本が、正確にそれぞれ左胸、両手足、太股、腹に刺さった。
いったぁぁあああ!?
痛い痛い痛い痛いっ!
死ぬぅって!? これは死ぬってぇ!?
ナツメはナイフが刺さったと認識して、あまりの痛みに悶え転がるように床に倒れた。
それを見て、暗闇から出てきた男が悪態を吐く。
「ちっ、この程度が避けられないザコがよく侵入なんてしやがったな? 俺たちも舐められたもんだぜ……。ったく、見張りのやつらはなにしてんだか……」
「ぐぐぐぐぐぅううう……っ! つ、つう……」
「あん? なんか言いてえことでもあんのかよ?」
痛い痛い痛い! お願いぃ、マジで痛い!
早く、早く早く解除しなきゃぁあ!
「つ、つう、かくか、い……じょぉ!」




