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シン華物語  作者: ゆず華


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第11話 言霊と衣装

翌日、一華とシン、レオナルドとアーリンの四人は、さっそく商品の二重価格リストの作成に取り掛かっていた。


ピンポーン♪


静かな『シン華の家』に、澄んだドアホンの音が響き渡る。

四人は手を止め、レオナルドとアーリンは「何事か」と互いに顔を見合わせた。


シンが即座に立ち上がり、壁のモニターを確認する。映し出されたのは、見慣れた制服を着た配送ドライバーだった。


「宅配便で~す。Amzon(アムゾン)からのお荷物です。ちょっと量が多くて……」


シンは最後まで聞かずに「車庫で受け取ります。今、シャッターを開けます。」と告げ、結界を部分的に緩めた。

配送ドライバーがトラックの荷台を開け、テキパキと荷下ろしを始める。


「レオナルド、車庫で荷物の受け取りだ。ついてきてくれ。」


シンの声にレオナルドは即座に応じ、一華とアーリンもその後に続いた。


シャッターが開ききると、トラックの荷台からは大量のカップ麺のダンボール箱が次々と運び出されていく。

配送ドライバーには箱の中身がバレバレだが、小型トラックの駐車スペースの奥へと、一緒に注文した保冷剤やクーラーボックスなどが整然と積み上げられていった。


(注文した翌日に届くなんて、人間界の物流、恐るべし……。)


一華が内心で感嘆している間に、シンは注文内容と個数を確認し、配送トラックを見送った。そして、ふと昨日の黒い車が今日も同じ位置に停まっていることに気づく。


「レオナルド、昨日の車が今日も同じ場所にいるぞ。」


レオナルドが車庫の外へ出て確認し、その整った顔立ちを険しく歪めて鋭い眼光を向けた。


「どうなさいますか? 始末しますか?」


「ちょ、ちょっと、レオナルド! まだ何も犯罪者と決まったわけじゃないんだから。」


一華が慌てて制止するが、アーリンまでもが護衛モードの険しい表情になっている。


「ですが、どう見ても不自然です。」


一華はシンたちに人間界での物騒なトラブルを避けてほしいと願いつつも、どう対処すべきか頭を悩ませていた。しかし、シンは至って冷静に告げた。


「一華、これではいつ家に押し込まれてもおかしくない。……警察に依頼する。不審車両として直接確認してもらおう。」


シンは一切の躊躇なく行動を移した。車庫のシャッターを閉めて家の結界を再び強化すると、屋上へ上がり、不審車両のナンバーなどを確認したうえで警察に通報した。




数分後、静寂を破るように覆面パトカーが到着し、不審車両を前後に挟み込んで鮮やかな手際で職務質問が始まる。

シンが遠聴の魔力を解放すると、免許証の提示を求める声や、おかしな駐車の理由をしどろもどろに言い訳する声が脳内にハッキリと届いてきた。

車内からは目出し帽やバールなどの凶器が見つかり、案の定、闇バイトで指示を受けていた強盗グループだとすぐに判明した。


通報を受けた警察官が『シン華の家』のドアホンを押す。シンがスマートフォンで丁寧に応対して結界を少し緩め、玄関へとテレポートして鍵を開けた。


「通報ありがとうございます。おかげで大きな事件が起きる前に逮捕できました。」


「こちらこそ助かりました。ずっと監視されているようで気味が悪かったので、これで安心して暮らせます。」


礼を交わして警察官を見送ったあと、シンはしっかりと玄関の鍵をかけ、再び強固な結界を張り直した。


「一華、もう安心しろ。連中は全員逮捕されたぞ。」


「ほんと? よかったぁ。みんなが直接手を出さなくて……。」


「ん? そっちの心配か? てっきり、闇バイトの連中に襲われるかもしれない恐怖で怯えているのかと思ったんだが……。」


「もちろん怖いのは怖いよ! でも、魔界人が手を出したらただじゃ済まないでしょ? ウォーターパークの時だって、加減を間違えたら骨が砕けそうだったし。人間界の法に反しない解決方法はないの?」


「なら、車を故障させるとか、ハンドル操作を操るとか、いくらでもやりようはあるだろ! そのまま警察署まで向かわせれば、逮捕も容易だ。」


「ははは、コントみたい。でも、他人事だと思っていたけど、まさか自分のすぐ近くであんな事件が起きるなんて……やっぱり怖いね。」


「恐らく、以前からマークされていたか、この地域を狙った下見の張り込みだったんだろうな。」


「これからどうすれば防げれるかな? 知らない番号からの電話には絶対出ないとか、SNSは現実で対面した人とだけとしか繋がらないようにするとか……?」


「だが、一華の納車が決まったら、知らない電話番号が表示されるぞ。」


「知らない電話に出る時は自分から名乗らずに、まず相手に名乗らせる! 変な電話に出ちゃった時は、すぐ切って着信拒否する! それぐらいの自衛はちゃんとやってるよ!?」


「なるほどな。もし不審な電話がかかってきたら、すべて俺に代われ。今使っている端末ごと爆破してやる。」


「こ、怖いってば!」


「冗談だ。命までは取らん。代わりに警察を向かわせれば一網打尽だろ。」


「でも、ほとんどが海外拠点だから、国内の実行犯を捕まえてもきりがないんだよ?」


「根絶やしにすれば、実行犯もいなくなる。」


「そう思うでしょ。違うんだよ。指示役が捕まっても、逃げおおせた別の誰かが味を占めて、また同じ手口を真似して繰り返すんだよ。だから永遠に終わらないの、いたちごっごなんだよ。」


一華がふと零した言葉に、シンは真剣な眼差しを向けた。


「……だったら、一華がその悪意をすべて浄化してしまえばいい。」


「はっ? 私にそんなことできるわけがないでしょ? この前のお偉いさんたちの件ですら疲労困憊だったのに、しかも不特定多数の悪意なんて……。」


「俺が魔力を増幅させてやる。」


「えっ? そんなことできるの?」


「あぁ」


「……だったら、あの時手伝ってほしかったよ!」


一華が半目でシンを睨みつけると、シンは少し気まずそうに視線を泳がせた。


「あの……一華様は、伝説の『浄化の魔力』が使えるのですか?」


アーリンが目をキラキラと輝かせて尋ねてくる。


「そうみたいなんだけど、自分ではいまいち効果を実感できなくて半信半疑なんだよね。」


「古くから伝わる『月の賢者(ルナ・セージ)』、別名『全知の乙女』と呼ばれる月の女神様の再来でしょうか……!」


アーリンに続き、レオナルドも真剣な表情でうなずく。


「魔王家の王女様にしか宿らないと聞いたことがあります。しかも、魔王家に王女様がお生まれになるのは非常に稀で、その方だけが穢れを払う純粋な浄化の魔力を司るとお聞きしたことが……。」


「私なんてそんな大層なものじゃないよ。全然全知でもないし。」


「だが、純粋な共感と浄化の魔力を扱えるのはお前だけだ。」


シンが優しく諭すように言う。


「今はちょうど上弦の月だが、次の下弦の月の夜に魔力を全開で解放すれば、より多くの人々の心にその力が届くはずだ。」


「ふふ、なんだか不思議な気分。魔界人が人間を浄化するなんて。パパなんか人間界じゃ『悪魔(サタン)』って恐れられているのに。」


「一華は俺たちのことを全然怖がってないじゃないか!?」


「だってー、みんな全然怖くないもん。魔力の有無だけで、中身は人間と変わらないし、考えることだって人間とそう変わらないよね。」



他愛のない会話のあと、話題は自然と次回のガーデンパーティーへと移っていった。


「今度のガーデンパーティーの場で、その浄化のパワーをこっそり試してみないか?」


「どうやって?」


「一華が来訪者の前に立って、癒しのパワーと称して『みんなカップ麺が猛烈に食べたくなってくる』ように脳内に送り込むとか。」


「シン様……それは少し方向性が違いませんか?」


レオナルドが思わず絶句する。


「シン、脳内がすっかり悪魔になってるよ。」


一華が苦笑しつつも「まぁ、カップ麺の洗脳は抜きにして、純粋に癒しのパワーと称して来訪者を浄化するのは有りかもね?」と提案すると、アーリンが「さすが一華様、素晴らしいお考えです!」と激しく同意した。


「でも、どうやってやるの? ただ目の前に立っているだけで何も発しないし、魔法のステッキなんか持ってないし。」


「それなら、月のモチーフがついたステッキを作ろう。」


シンがさらりと魔力を解放すると、光の粒子が集まり、先端に美しい月のモチーフがあしらわれた上品なステッキを鮮やかに具現化した。


「私に、アニメの魔法少女の真似事をしろと?」


「あぁ。で、その時に唱える呪文はどうするんだ?」


一華はパソコンの検索画面を開き、浄化や魔術に使われる言霊をいくつか調べ始めた。


「いくつか候補があるね。

『祓え給い、清め給え(はらえたまい、きよめたまえ)』は神社での参拝や、お祓いで使われる基本の祝詞(フレーズ)で『心身の穢れ(けがれ)や邪気を祓う』。

『トホカミエミタメ』は、古神道に伝わる言霊の一つで、『強力な浄化と開運』。

『オン・サンマヤ・サトバン』は、仏教の真言で、『心身を清浄に保つ』。

『オン・アロリキャ・ソワカ』は、観世音菩薩の真言で、『慈悲の心をもたらし、心に溜まった怒りや不安を清める』。

最後に『アブラカダブラ』は、人間界では手品や魔法の掛け声として有名だけど、もともとは『私が言う通りになる』という意味があったり、災いや嫌なことを『この言葉のように消し去る』というおまじないとしても使われてるんだって。」


「この中だと……『アブラカダブラ』か『トホカミエミタメ』だな。両方とも短くて言いやすい。」


「じゃ、聞いたことのある『アブラカダブラ』にする。」


「ただ、それだと一華様の声が後ろの方までは届きません。」


レオナルドの指摘に対して、一華は人間界のマイクとスピーカーを提案したが、シンには「人間界の機械仕掛けに頼って耳に届けさせたところで、人の脳内深くまで魔力は響かない。却下だ。」とバッサリ切り捨てられた。


その後は、一華の衣装チェンジの魔法を使って当日の衣装決めへと話が弾んでいった。


一華は衣装チェンジの魔力を解放し、キラキラとした光の粒子に包まれると、強い閃光ののち、シフォン素材を贅沢に使った優雅で華やかな漢服風のドレスへと衣装チェンジした。

続いてシンは淡い紫色の気品漂う大袖漢服へ、レオナルドとアーリンは涼やかなブルーのグラデーションがかった藍色系漢服へと、お揃いのペアルックの衣装にチェンジさせられる。


「うんうん。すごく似合ってる! いいねぇ。……あ、あとはパパとママの分も衣装チェンジさせれば完璧じゃない!」


「義父上と義母上もするのか?」


「もしかして、パパとママは除け者にするの?」


「いや、そういうわけじゃないが……。」


「じゃぁ、パパとママにも今すぐ連絡して聞いてみようよ!?」


一華はハオとアズサに向けて、さっそくメッセージアプリで呼び出しをかけた。


ピコン♪


『今からそちらに向かう』


程なくして現れたハオとアズサ。一華たちがすでに完璧な衣装をまとっている光景を見ると、二人は目を丸くして驚き、口々に絶賛した


「まぁ、素敵ね! 四人ともとっても似合ってるわよ。」


シンが次回のガーデンパーティーで一華が浄化の魔力を試す計画を説明し、ハオとアズサにもお揃いでコスプレ衣装を着用するか確認するために呼んだのだと付け加えた。


「面白い趣向だな。儂たちもぜひ混ぜてくれ。」


ハオは一華の目論見通り、面白がって快諾した。アズサも隣で優しく微笑みながら頷いている。


「じゃあ、パパとママは思い切って婚礼衣装なんてどう? ペアルックだし、すごく豪華に見えるよ!」


一華が再び魔力を解放すると、二人の体がキラキラとした光の粒子に包まれると、強い閃光ののち、鮮やかな赤地をベースに金糸や銀糸で繊細な刺繍が施された、息を呑むほど豪華な漢服へと衣装チェンジした。


「どう? ママはともかく、パパは赤なんて着用しないでしょ? 嫌なら変えるけど?」


「確かに見事な代物だが、今更、婚礼衣装というのも少し気恥ずかしい。もう少し落ち着いた色合いにできないか?」


ハオの照れくさそうなリクエストに応じ、一華が改めて魔力を込めると、ハオの衣装はシックな黒を、アズサの衣装は深みのある赤を基調としたデザインへと変化した。どちらも金糸や銀糸で、鳳凰のようなフェニックスのような伝説の鳥と蓮の花が緻密に刺繍されており、圧倒的な気品を放っている。


「おぅ、これは素晴らしい。袖にも背中にも鳳凰の刺繍が入っていて、儂たちにピッタリだ。」


ハオは大絶賛して自分の姿に満足げだ。アズサも上品に微笑みながら満足そうに頷いている。


「よし、これで全員の衣装は決定だね!」


一華は満足感に浸りながら、スマートフォンを取り出してドレスアップした一人ひとりの全身写真をパシャパシャと楽しそうに収めていった。

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