表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦火の魔眼  作者: 宗
11/21

旅立ちの朝

王都へ行くと決めた翌朝、村はまだ薄暗いうちから動き始めていた。


 空は白み始めたばかり。

 朝靄の残る村に、荷をまとめる音が静かに響く。


 父は肩の傷を庇いながら、荷車へ荷を積んでいた。


 干し肉、布、水袋、替えの服。

 多くは持てない。

 持っていけるのは、本当に必要なものだけだった。


「そんなもんで足りるのか」


 父がぼやく。


 母は布袋を結びながら、小さく笑った。


「足りないなら向こうで揃えるしかないでしょ」


 強がりだった。

 けれど、その声は昨日より少しだけ落ち着いていた。


 王都へ行く。

 それは知らない場所へ向かうということだ。


 不安はある。

 だが、ここに残るよりはましだと、もう分かっていた。


 レインは家の前に立ち、朝の村を見ていた。


 焼け跡はまだ残る。

 焦げた匂いも消えていない。


 けれど村人たちは、手を止めなかった。


 壊れた柵を直し、焼けた家を片付け、畑を見に行く者もいる。


 残る者は残る。

 生きるために。


 出る者は出る。

 守るために。


 その違いだけだった。


「坊主」


 ルークが手を振りながら近づいてくる。


 腰には剣、背には槍。

 今日は完全な行軍装備だった。


「ちゃんと起きてたか」


「おきてる」


「そうかそうか。えらいえらい」


 頭を撫でようとして、母に睨まれて手を引っ込める。


「……怖」


 母が無言でレインを抱き寄せた。


 ルークが苦笑する。


「安心しろって。王都までは俺らがついてる」


「その“俺ら”に息子が狙われたんだけど」


「それはほんとすみません」


 即座に頭を下げて、父に小突かれる。


 少しだけ、空気が和らいだ。


 村外れでは、既に出立の準備が整っていた。


 馬が四頭。

 荷車が一台。

 護衛はガレスの隊から八名、そしてセレスたち王立魔導隊が二名。


 村へは残りの兵が残留し、防衛に当たるらしい。


 ガレスが地図を広げ、兵へ指示を飛ばしていた。


「街道沿いは避ける。西寄りの林道を使う」


「黒狼の斥候がまだ散ってる。見つけ次第、報告優先だ」


「接敵時は荷車を止めるな。止まれば囲まれる」


 厳しい声だった。

 だが、その指示は全て“守るため”のものだった。


 ガレスは地図を畳み、父母の方へ歩いてくる。


「準備はいいか」


 父が短く頷く。


「本当に一緒でいいんだな」


「言っただろう。家族ごと保護だ」


 ガレスは淡々と答える。


「王都までは俺が責任を持つ」


 その言葉は重かった。


 父も、それ以上は何も言わない。


 セレスは少し離れた場所で、馬の手綱を整えていた。


 青銀の外套が朝風に揺れる。


 彼女はちらりとレインを見る。


「道中、何か見えたらすぐ言って」


「……うん」


「あなたの目は、もう護衛全員より役に立つわ」


 褒めているのか、戦力計算なのか分からない言い方だった。


 だが悪意はない。


 レインは小さく頷く。


「せれす」


「なに?」


「みずと、つち」


 セレスが目を細める。


「見えてたのね」


「ふつう、ひとつ」


「ええ。普通は一つ」


 セレスは手綱を引きながら答える。


「一属性持ちが大半。二属性持ちは希少。三属性は王都でも数えるほど」


「せれす、つよい」


「当然」


 迷いなく言い切る。


「王立魔導隊を舐めないで」


 少しだけ口元が緩んでいた。


 その時、村の鐘がひとつ鳴った。


 出立の合図だった。


 村人たちが見送りに集まる。


 多くは何も言わない。

 ただ、静かに見ていた。


 幼いレインが村を出る。

 その意味を、皆なんとなく分かっていた。


 母が小さく頭を下げる。


 父も、無言で一礼する。


 レインは村を振り返る。


 焼けた村。

 小さな家。

 焦げた柵。

 けれど、自分の生まれた場所。


 その景色を、レインは静かに目に焼きつけた。


「行くぞ」


 ガレスの声と共に、隊列が動き出す。


 馬が進む。

 荷車が軋む。

 村が、少しずつ遠ざかっていく。


 こうしてレインは、生まれて初めて村の外へ出た。


 王都へ向かう旅が、始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ