表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦火の魔眼  作者: 宗
10/21

属性と選択

森の奥から放たれた矢は、真っ直ぐ父の喉を狙っていた。


 速い。

 村人には見えない。

 兵でも反応は間に合わない。


 だが、レインには見えていた。


 黒い線。


 空気を裂き、父の喉へ突き刺さる死の軌道。


「とーさま、みぎ」


 小さな声だった。

 けれど父の身体は、ほとんど反射で動いた。


 肩を引く。


 矢が喉を外れ、頬を掠めて背後の柵へ突き刺さる。


 乾いた音が響いた。


「伏せろ!」


 ガレスの怒声が飛ぶ。


 同時に兵たちが動いた。

 剣が抜かれ、盾が上がり、村人たちが地へ伏せる。


「北森、弓兵!」


「数、五――いや七!」


 見張り台の兵が叫ぶ。


 森の黒が増えていた。


 黒狼の斥候。

 ただの偵察ではない。


 村の防備、王都の人間、そしてレイン。

 その全てを測りに来ている。


「ルーク、村人を下げろ!」


「了解!」


「セレス!」


「分かってる!」


 セレスが一歩前へ出る。


 細い杖を抜いた瞬間、レインの目に魔力の流れが見えた。


 空気中の魔力が、青白く集束していく。


 冷たく、澄んだ流れ。


 水だ。


 この世界の魔法には“属性”がある。


 火、水、風、土。


 それが基本四属性。


 人は生まれつき、どれか一つに最も強く適性を持つ。

 多くの魔法使いは、その一属性だけを磨いて戦う。


 だが稀に、二つ。

 さらに稀に、三つ扱う者もいる。


 それが“強者”と呼ばれる。


 そしてセレスの魔力は、水属性。


 澄んだ青が、空気中で鋭く組み上がる。


「《氷壁》」


 短い詠唱と同時に、村の前方へ青白い壁が走った。


 地面からせり上がる半透明の氷壁。


 水を氷へ変える派生――水属性上位術式。


 直後、森から放たれた矢が次々と叩きつけられる。


 甲高い音。


 矢は氷壁に弾かれ、地面へ落ちた。


 村人たちが息を呑む。


「すご……」


 母が思わず漏らす。


 セレスは杖を構えたまま言う。


「感心してる場合じゃないわ。伏せて」


 ガレスが剣を抜く。


「前へ出るな。森際で止める!」


 兵たちが駆ける。


 黒狼の斥候が森から姿を現した。


 七人。


 黒布を纏い、短弓と曲刀を持つ軽装兵。


 数は少ない。

 だが、全員が“殺すため”の動きだった。


 その先頭に、ひとりだけ魔力の濃い影がいる。


 斥候長だ。


 黒い魔力に混じり、赤と風の流れが見えた。


 火と風。


 二属性持ち。


 火で撃ち、風で軌道を変える。

 単純だが厄介な型だ。


 レインの目が細くなる。


「セレス、ひだり」


 セレスの目がわずかに見開く。


 次の瞬間、左側面の木陰から火矢が走った。


 斥候長の火属性術式。


 だが風を纏っている。

 軌道が途中で曲がる。


 普通なら読めない。


 だがレインには、風の線まで見えていた。


 セレスは即座に杖を払う。


 青い魔力が火を包み、空中で霧散させる。


「……今の、見えたの?」


 セレスが一瞬だけレインを見る。


 レインは答えない。


 その間にも戦いは始まっていた。


 ガレスが黒狼兵へ踏み込む。


 速い。


 魔法ではない。

 純粋な剣技。


 一太刀で一人の腕を落とし、返す刃で二人目の足を裂く。


 兵たちもそれに続く。


 黒狼は強い。

 だが数が少ない。


 真正面からなら押し切れる。


 ――斥候長さえ落とせば。


 レインには見えていた。


 あの男だけ、兵ではなく、自分を見ている。


 黒い目が、真っ直ぐレインを捉える。


 その瞬間、斥候長の魔力が一点に収束する。


 赤と風。


 火球を風で圧縮し、貫通力を上げる。


 狙いは、母の腕の中。


 レイン。


「かーさま、した!」


 母が反射で身を伏せる。


 直後、圧縮火弾が頭上を掠め、背後の壁を撃ち砕いた。


 木片が飛び散る。


 母の顔が青ざめる。


 セレスの表情が変わる。


「……狙いが分かった」


 低く呟く。


 次の瞬間、セレスの魔力が変質した。


 青だけではない。


 足元の土が、わずかに持ち上がる。


 茶色の線。


 土属性。


 レインの目が見開く。


 二属性。


 水と土。


 だから氷壁だけじゃない。


「ガレス、あれを落とす!」


「任せろ!」


 セレスが杖を振る。


「《泥縛》」


 斥候長の足元の地面が一気に沈み、泥濘へ変わる。


 土属性派生。拘束術。


 斥候長の足が沈む。


 体勢が止まる。


 その一瞬で十分だった。


 ガレスが駆ける。


 軍剣が振り下ろされる。


 斥候長は短刀で受けるが、押し負ける。


 体勢が崩れた瞬間、ガレスの蹴りが鳩尾へ突き刺さった。


 斥候長が吹き飛び、地を転がる。


 ガレスが喉元へ剣を突きつける。


「終わりだ」


 斥候長は血を吐きながら、それでも笑った。


 黒く濁った目が、レインを見る。


「……いたな」


 背筋が冷える。


「黒狼は、もう見つけた」


 次の瞬間、自ら舌を噛み切った。


 血を噴き、絶命する。


 沈黙が落ちた。


 セレスがゆっくりレインを見る。


「水と土を見て、驚いた顔をしたわね」


 レインは黙る。


 セレスの青い目が細くなる。


「……本当に見えてるのね」


 ガレスが剣を下ろし、父母を見る。


「もう決めろ」


 父も母も、答えは分かっていた。


 この村に残れば、次はもっと多くが来る。


 狙われるのは、レインだ。


 父が息を吐く。

 母がレインを抱きしめる。


 そして二人は、同じ答えを口にした。


「……王都へ行く」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ