平成レトロ
「令和の若者ですよ。最近、平成レトロが流行っているようですよ。」
「へ、平成、レトロ!!昭和の私って、もう、歴史の人???(;ω;)」
作者が無駄なショックを受けていますが話を続けることにしました。
「はい。近年、動画サイトの発展で、90年代の音楽やファッション、文化が若者に再認識されているようですよ。それに、頑張って今風の若者を作るよりも、Fラン大学の少し変わった懐古趣味の若者の方が描きやすいし、話しやすいのではありませんか?」
私はそう提案して、そして、作者の衣装を90年代のバリキャリのスーツに変えた。
作者は少しだけ驚きながら、諦めたように物語の世界の役を演じる事に決めた。
「それにしても、現在、令和の設定よね?じゃあ、ワンレン・ボディコンは、ないんじゃないかな?そして、こんなボディー・コンシャスな格好させるなら、私も若返らせてくれないかな?なんか、令和の妖怪ばーさんみたいじゃないの?」
作者は恨みがましく長い前髪を揺らして私を見る。ああ、拗ねた顔もなんて愛らしいのでしょう?思わず微笑んでしまいます。
「もう、ふざけないで。」
と作者は少し不機嫌に私を見て自分で姿を変えた。ベージュのパンツと薄紫のタートルネックにカーテガンを羽織り、真珠のネックレスをしていました。
「素敵です。」
「何が素敵よ。もう。でも、WEBの上級小説家って、どんな格好してるのかな?匿名で顔出しNGって感じだから、イメージわかないわよね。」
と、作者は肩をすくめる。そして、ソファーに座って物語の開始を知らせるようにこう宣言する。
「私は今から人気WEB作家ね。で、夏アニメのオファーが来てるのよ。作画はあの、AI鬼塚先生。ふふ。少し恥ずかしいわね。でも、いい気持ち。よし。それで行くわ。時影、アンタは私の秘書、WEBの書籍化作家って秘書とかいるのかな??ま、いいか。あなたは私の秘書よ。」
設定は書籍化した作者のマンションという事になった。都内にあって、小林青年が訪問するところから始まった。
私は作者は喜ぶような都内のマンションに部屋を模様替えする。
90年代、トレンディドラマというものが流行りました。そこでは、どう考えてもOLが住めるわけもない都心のマンションで物語が展開していました。あの若い頃の作者の憧れの世界を一時、楽しんでもらいましょう。
アールヌーボーな雰囲気の仕立てのいい可愛らしいソファ。ガラスのテーブル、華やかな南国の海底のマーメイドとイルカの踊るシルクスクリーン製の大きな絵画を壁に。毛足の長いマットをリビングに敷き詰めて、和紙を思わせる柔らかな光を演出するフロアーライトを配置しました。
お茶を用意しましょうか。こうなると、やはり、茶器も当時の華やかでハイブランドのものを用意したいものです。当時は日本の高級陶磁器が流行りました。少し昔風のオーガニックな絵柄のカップで紅茶を淹れましょう。
お菓子はティラミスでしょうか。なんだか楽しくなって来ました。
私は、やはりベタなタキシード、も、おかしいですね。当時、流行したダブルボタンの肩パット入りの紺のスーツにオールバックにしましょうか。少し、遊びすぎですかね。
ワゴンに飲み物を乗せて少しすまし顔で作者と小林青年の待つリビングの扉を開けました。
少し、落ち着かない小林青年となんだかニヤニヤしている作者。私がカップをテーブルに置いたところから物語が開始されます。
「初め見て小林さん。私が『幽霊作家』の作者の卯月です。よろしく。」
作者はすまし顔を赤面で作りながら小林に挨拶をする。
「初めまして。私は私立調査班、班長の小林芳雄です。よろしくお願いします。」
小林は昭和のセールスマンのようなキビキビした動きてお辞儀をして、名刺を両手を使って作者に渡す。
彼は昭和、平成レトロ系のミューチューバーでもあるのです。年配層のファンも多く、彼らに古着などをもらったり、接したりする彼は昭和・平成男子のマスコット的存在なので、礼儀正しいのです。
作者はその所作に少し戸惑いながら名刺をもらうと少し恥ずかしそうに、
「ごめんなさい。私、名刺なんて持ってないの。」
と、告白する。私の出番のようです。
「申し訳ございません。ここに。」
革のブランドものの名刺ケースを作者に渡した。作者は熟れたトマトのように赤面しながら名刺ケースから名刺を一枚取り出して、それを少し悩みながらケースの上に乗せて小林に渡した。小林はそれをもらって眺めている。
名刺にはシンプルにペンネームと事務所の住所を記しておきました。近年はなんでもSNSで拡散されてしまいますから個人情報は極力記してはいけない気がしました。小林くんは大丈夫でしょうが、フリマアプリで名刺を売られたりされる事も想定する、そんな時代なのですから。
「有難うございます。卯月先生ご本人に会えて光栄です。」
と、微笑む好青年の彼に作者は赤面しながら押され気味です。私がサポートしなくては。
「どうぞ、お座りください。」
私が着席を促して今回の依頼内容を説明しました。




