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仮想世界のフォークロア  作者: 黒川零次&同居人
14/15

◆アサルトレゾナント

 傭兵斡旋協会(MMA)の経営する医療施設に彼らはいた。


「完全に舐められてたな」

「あぁ……」

「さっき、協会所属の傭兵に通達が来ていた」

「倉木さん、才木、浩太。ごめん、俺がしっかりやってれば」

「言うな言うな。完治まで一月の幻痛と体のマヒで済んだだけよかったじゃないか」

「んだぜ、謝るなら一発殴りに行ってこい」

「…………倉木さん、何か提案はありますか」

「提案、か。だったら情報だけ渡す、今回はお前が作戦を立てて朱里と動け。朱里、もし恭介が暴走したら後ろから股座蹴り上げてやれ。以上だ」

「あ、あのそれ俺が死にますよ!? 朱里の蹴りって脚部ブースター使ったやつじゃないっすか!」

「分っかりました倉木さん。恭介がキレそうになったら、でいいんですよね?」

「そうだな、それでいいだろう。見たところだが、恐らくやつはアカモート関連のミッションには確実に姿を見せる、やるならその時だ」

「俺を蹴る話はさらっと確定で流していくんですかい……」

「ほら、行った行った。どのみち動けるのはお前たち二人、食い扶持と医療費を稼ぐのは任せた」

「……倉木さん、あんた確かウィザード資格持ってましたよね? プログラミングで稼いでくださいよ」

「一つ書き上げるのに時間がかかりすぎる。それに作ってもクライアントが納得しなければ金が入らんからなぁ」


 そんなこんなで来未恭介と木南朱里の二人は傭兵斡旋協会の受付で、


「だっからなんでダメなんですか!?」

「安全上の問題です」

「その問題がなんなのか教えてくださいよ! なんでスールー海に」

「仮想空間における東南アジア空間(SAS)、及び周辺リンクエリアワンブロックでの作戦行動は禁止されています」

「なぜですか!」

「安全上の問題です」


 何度も繰り返される回答にミッションの受注を諦め、隣のカフェテリアに退避した。


「安全上安全上って、なんなんだよもう」

「軍の作戦行動があるってことかな?」

「でもそうだとすれば向こうから通達が出てるはずだしな……。もしかしてあのアカモートってところでなにか……」

「てかきょーすけ。スコールって人に文句言うよりお金稼がないと」

「ほーい振り出しにもどりやしたよ朱里さんや。今の俺たちに現実リアルでの仕事は無理、んでもって仮想ネットでの仕事は倉木さんの資料で費用対効果を見ると俺たちだと赤字確定なものばっかり。そのへん考えるとウイルス排除系だけど……」

「それのミッションエリアが封鎖中……ってことだよね」

「いっそ封鎖エリア突っ切ってアカモートのデータでも売るか」

「…………、」

「あ、朱里さん? なんで夏塩蹴りの構えをとるんですかね?」

「だってたったいま倉木さんが無茶なことをしそうになっても蹴れって」

「なに!? なんでそんなに俺を蹴りたがるのねえ!? 俺何かした!? アカモートに忍び込むのそんなにダメ!?」

「うるせーぞお前!」


 一つ二つとビールジョッキを避けてバゴンッ! と最後に金属製のコップが恭介に命中し、


「す、すんませんした……」


 こちらを睨んでくる傭兵たちに謝った。

 あちらもあちらでミッションを受けられなかった者たちが苛立っているのだ。

 実力に見合ったものを受けなければ死ぬのは自分、食費とネットの使用料を稼げなければそもそものミッションも受けられなくなる。


「つかおい、ビールジョッキは当たったら死ぬって……壁へこんでるし……人に当たってるしぃ!?」


 後頭部にクリティカルヒットを受けたその男はのそりと立ち上がると、おもむろに懐から拳銃とコンバットナイフを抜き、


「いま俺に当てたのは誰だ? 撃たれるか斬られるか、選ばせてやる」


 数的不利は明らかだというのに、投げつけた傭兵たちが妙な恐怖を覚えて逃げ出した。

 形だけの脅しではなく、確実にやるという気配がしたからか。


「まったく……日本の傭兵は臆病者ばかりか?」

「いや、いきなりあんたが銃なんかだすからだろ……」

「ステイツじゃこれが当たり前なんだけどな」


 困った顔で銃とナイフを片付けて、やれやれといった様子で席についた。


「なあ、お前さっきアカモートに忍び込むって言ってたよな」

「いやありゃぁ冗談で本気じゃない……」

「金は出す、付き合えよ」

「えぇっと……」

「任務内容と報酬によります。それと私たちは二人だけで戦闘もできるほうではありませんけど」


 恭介が答えないと見るや、朱里がすかさず最低限言うべきことを言う。

 よく分からずに引き受けたり確認せずに承諾して損害を被るという例は少なくない。


「やっぱそうくるか。俺はクロヴィス・クライス。サポートはクレアンヌ・クライス。名前でわかるだろうけどクライスインダストリーの所属だ」

「え、その見た目とふっつーの日本語で外国人!?」

「現地で問題に巻き込まれないためには服装、言葉、、見た目、行動パターンを合わせる。だから結構驚かれるんだよ」

「お、おおぅ……つか顔つきも髪の色ももろに……もしかして日系人?」

「ははっ。さ、どうだろうな? それよりそっちのお嬢さんの方に答えないとな」

「今の流れで言わないつもりだったんじゃないですか」

「相手によるな、それは。ま、任務内容はアカモート周辺の統合軍の排除、及びアカモートへの強行偵察。アカモートの戦力次第ではそのまま押し切って人質の奪還を行う。報酬は五百万、敵の状況と撃破数に応じて追加は出すし戦闘にかかる費用はすべてこちらで持つ。準備に金が要るならある程度までは出す」


 金額はいいとして、任務内容がメチャクチャだと恭介は思う。

 軍を相手にやりあうということはよくあるが、おそらく今回は連戦でしかも敵増援の数も生半可なものではない。


「具体的な戦力は、当然私たちとあなたたちだけじゃないんですよね」

「残念ながら……。他はみんなそんな危ないことできるかって断った。確定しているこちらの戦力は有人機六十二、無人機二百、敵は未知数だ。頼む、受けてくれないか」

「……その、人質って」

現実リアル仮想ネットからの同時攻撃で施設を襲われてな、そのときに大勢さらわれたこどもたちだ。俺の兄妹も……な。仮想の足取りはアカモート付近で途切れているから、もしかしたらって思ってな」


 ◆◆◆


「アカモートの騎士団か、揃いも揃って軽量二脚で盾持ちやがって……こちらスコール、侵入はしたが数が多い、しかも堅い」

『ミディエイターとワルキューレが正面でほとんどを引き付けている、二、三千機くらいはなんとかしろ』

『今更なんだけどさ、アカモートの戦力ってどんだけあんの?』

『さあな。質も数もあるが、なぜか一気には仕掛けてこないから各個撃破で対応できているが……』

「味方五機のロストを確認、別ルートから侵入した部隊もシグナルロスト。くそ、抑えきれん、離脱する!」


 人型の真っ白な機体に包囲されたスコールは転送ムーブプロセスを起動し、アカモート近海に飛び出した。

 外から見ればアカモートを包囲する二千もの機影とランク1ミディエイターとそれが率いるワルキューレたち

 、相対するアカモートの防衛部隊との凄まじい戦闘が見て取れた。

 念には念をと総勢一万四千もの大部隊で攻勢を掛けたはいいが、ものの数分でいまの有様だ。


「あーあぁ面倒な……」

『これ以上はきついな……。全軍反転、包囲網を構築している統合軍を排除、その後人質の奪還を再開する。スコール、そっち方向に例の新型が、なんとかしろ』

「ふざけたことをいうなまったく……まあやるだけやったらぁ。敵の人質は始末していいな?」


 ◆◆◆


 大型輸送ヘリに吊られてシェルにシフトした彼ら四人は仮想空間の海上を飛んでいた。


「早速で悪いが敵だ。第二世代機ネクスト、シャドウウルフを撃破しろ」

「こっちのレーダーには九機も映ってますけど?」

「俺とクレアで四機ずつ受け持つ、そちらで――っ、来るっ!」


 ヘリからの切り離しを待たずして水平線の向こうから砲撃を受け、ヘリもろとも水没してしまう。

 通常の機体であればそれで永遠の海に飲み込まれて消えていくが、


「対策済みだよそりゃあ!」


 激しい水柱を上げて四機が飛び上がる。


「ひゅぅ、さすがお高いウィングユニットは水の中でも起動できるんだな……ってみんなどこ行った?」


 見渡せば収まりつつある水柱だけで他に機影が見当たらない。

 確かに今、一緒に浮上したはずなのに。


『こちらスコール、それ以上接近するようであれば人質の命はないと思え』

『統合軍を舐めおって、それが貴様のやり方か……卑怯な』

『卑怯? 勝つためには手段を選ばんだけのことだ。……あ? ぜんめ……クライスか!』


 オープンチャンネルに乗った戦闘の音は通常戦闘のそれではなかった。

 爆発の如き音を轟かせながら空気を押しのけ、弾丸の速度を超えて動く戦いだ。


『不明機の接近を感知、なんだあいつは? 一機でここまでやるか……』

『何が起きた?』

『いきなりジャミング範囲内にムーブして秒速でやりやがった』

『来たか……アザレア、人質のエリアを爆破。ミラ、防衛を手伝え』

「もしもーし。あの、俺は置いてけぼりっすか?」


 なんてぼやきながらブースターを吹かして、静かでだだっ広い海に白い波を作りながら飛んで行った。

 最大出力で飛ばしているとふと視界に朱里からのコールが表示される。

 それに意識を向けるとシェルとなった朱里の姿が眼前に出現した。


『やっとつながった、どこにいるの』

「知らねえよ。海ばっかだから目印もねえし。朱里こそどこにいんだよ?」


 ブレインチップ経由で相手の網膜に自分の姿を投影するこのシステムは、後期の電脳化処置を受けた世代に備わっている。

 これのおかげで激しい動きで何かを蹴り飛ばしている朱里の姿が見て取れる。


『分かんないよ。白い街みたいなとこだけど、襲って来る人たちが――』


 ぷつんっと通信が切れる。

 向こうがジャマーの範囲に入ったか、こちらがジャマーの範囲に入ったか、それとも遮断障壁が展開されたか。


『クレアンヌです、先ほどの砲撃はランダム転移を引き起こすものだったようで現在個別に襲われています。気を付けてください、そちらに見たことのない機体が飛んでいきました』

『あの女……蹴り技ばかり使いやがって!』

『おいスコールお前も蹴り技主体だろうが押し返せ』

『無茶言う、ブースターを併用した蹴りだぞ? ヴェセルじゃ反応だけで手一杯だ』

『しばらく耐えろ、支援に向かう』

『そうはさせんぞ貴様ら』

『通信に割り込むな雑魚軍どもが。BとACか……なにがしたいんだ、その組み合わせは』

『敵AC(ガンシップ)、レーダーロスト。続けて進路上の不明機を補足した模様』


 受信状態にしたままで飛んでいると様々な声が響いてくるが、こちらに何か来ると分かると途端に武装リストを展開してすぐさま戦闘を開始できるように構える。


『ヴァルキリー? 展示機か、存在意義のない爆撃機が』

『第二中隊全滅! 撤退支援求む!』

『超音速特攻機だな、ありゃ。翼にぶら下がってるオブジェクト、形こそ燃料タンクだが内部処理は爆弾だ』

『第二包囲部隊、陣形を立て直せ!』

『無理ですやつら単機で包囲を食い破って――』

『まぁた面倒なのを……マイクロミサイルが尽きるぞこれで』

『十二時方向敵F、AHCを確認』

『旧世代とてまだ打撃力では現役だ!』

『三時方向AC二機感知、迎撃ミサイルロスト。エンジェリックフレアを装備している模様』

『フレアつってもそりゃ数撒いて物理的にミサイルにぶつけて破壊するあれだろ?』


 耳に響く入り乱れた声に混じって空気を押しのける衝撃波、ソニックブームが轟く。

 ふと視界の隅を白い何かが過ぎ去ったかと思えば、次の瞬間には体を引き裂かれそうなほどの衝撃に吹き飛ばされ、海を切り分けるかのような水の壁が立ち上っていた。

 まるで水切り石のように何度も海面に叩きつけられ、ウィングユニットが破損し装甲がひしゃげ、赤いオイルが飛び散るほどの大ダメージを受けてようやく動きが止まった。

 万が一に備えて装着していたシェル用カポックのお陰で水没は免れているが、動けない。


「な、なんだいまのは……」


 巻き上げられた海水の壁を目で追っていくと、その先に真っ白な機体……というよりは飛行戦艦というべきか、そんなものがあった。

 見るからに重装甲で、四枚の翼とⅩ字型にエネルギーを放出する機体後部のブースター、各部の小型ブースター、スラスター、装備されているものは大型機向けの装備や、戦艦向けのローレンツカノンやエネルギー兵器ばかり。


「…………こちら、来未。不明機にやられて動けない」

『余波でやられたか、だらしない』

「その声スコールか! お前よくもあいつらを」

『殺されなかっただけマシと思え。仕事である以上は私情を挟まないようにな……さて、やるか』

「やるって、まさかさっきの白い機体を?」

『当たり前だ。ランク1を体当たりだけで大破させた化け物だが、放っておけば被害がデカすぎるからな』

「そんなやつ相手にしたらあんた死ぬぞ!」

『だろうな。だけどな、やらんといかんのだよ。人質を奪還するためにはな』

「人質? 人質を取ってたのはあんたらじゃないのかよ」

『一つの方向ではなく多方向から事象を観測しろ。今回は統合軍の施設から非合法な人体実験に使われていた子供たちを攫った連中が誤魔化しの為にほかのところからも子供らを攫ってきた。それの巻き添え食らったこちら側が手を出したら仲間を取られたから奪還の為に動きはしたが、軍も軍でそんなものを見られたくないからとすべての情報と接近を遮断して全員を抹殺。そのうえで誘拐犯たちに罪を擦り付けてはい全部終わりましたってことにしたいんだと。だからまあ、こちらも兵士を人質にして交換条件だそうかともしたが……向こうはそれでも応じない。という訳だ、統合に付いて何も知らずに悪事の片棒担ぐもよし、ただし後で殺しに行くが。もしくはこちらと協力するもよし、この場合は冗談抜きに世界を敵に回すということになるな。あとはクライス側について勝手にやるもよし、邪魔になるようなら殺しに行くが』

「……ながながとあんがとさんこんちくしょー!! 俺たちの明るい未来が見えねえんですけどねぇ!!」

『知るか、運がなかっただけだろうが』

「んだとこの野郎」

『生きていたら話はあとで聞く。コールサイン・スコール、ホワイトウルフと交戦開始エンゲージ


 レーダーのモードを広域に切り替えて、視界に投影される戦況を眺めると軍機のシグナルが一直線に消えていき、その方向を眺めると巻き上げられた海水の壁だけがある。


『やはり速いな。ミサイルも弾丸も追いつけない、か』

『大破前提でブレードを正面から構えろ。あれだけの速度だ、勝手に貫通して破壊できるだろうさ』

了解ヤー、あとは頼む』

『任せておけ。骨を拾う気も墓を立ててやる気もないからな』


 暗にそれは、生きて帰って来いという無茶な意味を込めてのことか。

 レーダーを頼りにスコールの搭乗するヴェセルを見つけると、どうなるのかを見届けた。

 一瞬で終わった。

 ブレードは硬い装甲にぶつかって折れて弾け飛び、スコールの機体は爆発する間もなく文字通り微塵になって消えていった。

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