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仮想世界のフォークロア  作者: 黒川零次&同居人
11/15

◇仲間を求めて

 夕食後。

 片付けも終わって一息ついたころ、大広間に集まってみんなが騒いでいる中で大会のことを相談しようと呼びかけてみた。


「大会ねぇ、レイアちゃん行ってきなさい」

「鈴那がいけばいいのに」

「私はお仕事があるからだーめ」


 周りの女子陣営からデートのくせに……なんて声が漏れたのは聞かなかったことにしよう。


「華耶、行って来たら?」

「嫌ですわ」


 うん、俺もちょっとこれはお断りしたい。

 きつい感じのお姉さんだしなんか問題の火種になりそうなキャラな感じがしてならない。

 男子たちに目を向けてみれば、


「あ、俺たちもうチーム組んでるからよそ当たってくれ」


 なんて言われる始末で。

 俺と雅也の男二人、せめて華が一輪欲しいところ。


「あのー……どなたか……ダメですか?」

「うーん……みんな決まってるし……そうだ、桐恵か霧崎君あたりがちょうどいいんじゃないかしらね。確か大会はサポートもよかったはずだから戦えない桐恵でもいけるはずだし、霧崎君ならたぶん一人で誰が相手でも勝っちゃうはずよ」


 霧崎……霧崎アキト。

 俺が覚えている限りはかつて俺、雅也、イチゴ、桐姉ぇ、レイアちゃん、蒼月さんでチームを組んで参加した大会の事故で大爆発の中心部にいて……。

 途中で撃たれて退場して待機エリアから見ていたけど、足場が崩落してできた奈落に落ちていったはずだ。

 死者数は大会に参加した人たちの半分以上だったときいているけど。


「無事、なんですか? その、霧崎先輩は」

「えぇ……あの事故以来……かなり変わっちゃったけど……。ていうか! 皆川君、いっつも呼び出し無視して課題もやらないんだから、参加してあげなさいよ」

「嫌です。面倒くさい……こっちもこっちで今のところ人探ししてるんでそんな暇はありませんね」


 あの不愛想な男子、皆川っていう名前なのか……。


「人探しぃ? まぁたあの子がどっか行っちゃったの?」

「えぇ。あと探してないのは霧崎のプライベートスペースか室井のプライベートスペースですが、正直室井の方には凄まじい防御機構セキュリティが敷かれていますし、霧崎の方はもろに地雷原やオートタレットなどの殺傷兵器が配置されているので入れないんですよ」

「あの二人の私有空間は……」


 鈴那がなにやら苦い顔をしているが、俺には分かる。

 桐姉ぇの私有空間についてはよぉーく分かる。

 混沌極まる破界空間になっているはずだ。

 プログラマーには変態が多いというだろう。

 まあ一般的に言う変態と少し方向性が違うが、桐姉ぇも例にもれずおかしな趣味というか感性をもっているのだ。

 ……入ったら精神的に死ぬようなトラップ満載というのをよく覚えている。


「狼谷、室井のほうに行ってこい。霧崎の方はこれから正面突破を試してみる」

「正面突破って……直接部屋に行けばいいんじゃないんですか」

「あの引き籠もりども、そう簡単に部屋のドアは開けない。しかもこの寮の部屋は物理ロックと電子ロックだ。部屋の中から抑えられたらどうにもできん」


 なーる……。

 ……と、いうことがあって俺は桐姉ぇの部屋に入ってはみたのだが。


「……ゴキブリすら逃げ出す汚さ……とはこのことか」


 感想はそれだけだ。

 レイアちゃんの部屋は近寄ると物理的に、比喩抜きで、確実にケガをする部屋だが、こっちはそう、ただ一言で表せる。


 片付けろよ!!


 いくらなんでも下着とかまで投げっぱなしとかちょっとそのへんどうかと思うよ桐姉ぇ!!

 それでもって部屋の主は椅子に座って寝てい……仮想空間に潜ったまま寝ている。

 さぁーて……どうするか。

 一日の半分を部屋で寝て過ごし、残りの半分を大広間でぐーたらしてすごすこのダメダメだけど超絶天才なお姉さん。

 春休みだからと言ってこれでは新学期から……あぁ、復帰しないな。

 まあ、そこのところは俺に火の粉が飛んでこない限り放っておこう。

 とりあえずここで揺さぶったところで絶対に起きない。

 仮想から怒鳴りつけないと起きない。

 仕方なく俺は入りたくはないけど桐姉ぇのプライベートスペースにログインした。


『ダイブプロセス・ラン。生体データの認証をクリア』


 そんな声と共に仮想空間に潜り込むと、桐姉ぇのセキュリティはまるで俺が存在しないかのように振る舞っていた。

 そしてそのセキュリティと景色を見て、


「うわぁぁ……」


 なんというか、ワンダーランドのようなグチャグチャ感によくわからない抽象画の成分を濃縮してギャグマンガのエキスを混ぜた……というしかないカオス。

 ロジック異常が凄まじく、階段がぐるりと天井まで続いていて上るとさっきまでの天井が床で床が天井に……。

 遠近法も壊れきって感覚が狂う。

 しかも人形の兵隊とホラーゲームから抜け出してきたモンスターに愛らしい人形をくっつけた奇妙な物体や、意味不明なショートカットやアイコンがごみ箱にも入れられずに散乱している。

 これをなんというか。


「…………、」


 なんて言えばいい?

 もうカオスすぎて分からないぞ。

 これは精神的に殺すタイプのビジュアルセキュリティだ。

 パソコンでコマンドを打ってハックだとかクラックだとかする人たちには通用しないけど、仮想に潜って仕掛けてくる人たちには効果覿面だろう。

 たぶん仕掛けたらいきなり目の前にこういうものが表示されるか、逆に侵入するはずのところに引きずり込まれて地獄から脱出することになるか……。

 歩いているうちに古いエリアに入り込んでいた。

 空間の更新がされていない、何年も手の加えられていないエリア。


「……ここって」


 思い出してきた。

 昔よく遊んだ場所だ。

 懐かしいな、残っていたんだ……いや、残されていたのか。

 とはいっても通路パスだけだろう。

 さすがに部屋フォルダ中身データは残っちゃ……。


「あ……開いた」


 あ、あれぇ?

 てっきりエラーか何かで開かないと思っていたのに開いたぞ?

 つまり部屋が残ってるってことだ。

 ドアを押して開けていくと緩やかな風が漏れ出した。

 俺はゆっくりと部屋の中に入っていく。

 そのドアの奥には、どこまでも続く草原と青空が広がっていた。


「桐姉ぇ、居るの?」


 返事はなく風が吹き抜けていくだけ。

 振り返ればただぽつんとドアが立っているだけ。

 どこまでも続く草原を歩いていくと、石畳が見えてきて、それを辿っていくと緩い下りになって。

 そのまま進んでいくと小川があった。

 石畳の道は小川に合流して、川底になっている。

 とくに目印もなく、小川に沿って歩いていくと誰かの姿が見えてきて……。


「――――。」


 その娘たちを見て、息をするのを忘れてしまっていた。

 仮想の草原、小川の隣にその娘たちは座っていた。


「…………にぅ?」

「…………?」


 少女はただ不思議そうに俺を見つめる。

 少女はただ誰だこいつという目で俺を見る。

 二人のさらさらとした長い髪が風に乗って流れる。

 まるで天使のような少女。

 色白の少女。

 なんて綺麗なんだろう。

 でも、なぜだろう、見ていると悲しみが込み上げてくる、胸が締め付けられるように痛くなる。

 どこかで会ったような……いや、俺は確かに一度、会ったことがあるはずだ。


「あ、のぉ……君、たちは?」


 どう声を掛けたものか。

 少女たちは首をかしげて困った表情を作るばかりで答えてくれそうにはないし。


「名前は? 教えてよ」

「なま、え?」


 澄んだ声だけど、その口調は見た目に似合わずこどものようにあどけない。


「俺は影秋、君の名前は?」

「んぅぅぅ……?」


 くるりと視線を動かし、まるで言葉の意味を思い出そうとするかのように首をひねり、もう一人は自らの存在自体を疑問に思うかのように空を見上げて。

 まさか……記憶喪失? いやいやいや、事故か何かで一時的に幼児退行……も、ねえよ!


「……アキ」

「ギクゥゥゥッ!!」


 カナーリヒクイコエデキリネェガハナシカケテキタ。

 恐る恐る、恐れて恐れて後ろを振り返るとそこには不機嫌そうな……ではなく不機嫌そのものの表情で俺を睨む人が。


「勝手に入ったバツ」

「えっ――――っだだだぁ! ごめっ、桐姉ぇ痛いっ! 千切れぇぇぇぇぇぁぁぁあああ!」

「目的は? どうやってここに入った? 答えなさい」


 いつものやる気のないおとなしい声じゃない、まずいぞこれは!

 そう、レイアちゃんのあの戦闘モードと同じぃ!


「桐姉ぇを起こそうと思って……で、歩いてたらドアがあったから開けて……」

パスワードはどうやって?」

「いや、かかってなかったけど」

「…………、」


 いかん、これは以前のように笑って誤魔化せない。

 というか回答を間違えたら……桐姉ぇクラスのウィザードともなると他人のブレインチップに入り込んで瞬間で記憶を部分的に……アカァァァンッ!


「アノ、オネエサマ?」

「……アキ、ここで死ぬ?」

「お断りします! ……そういえばこの娘たちって?」

「誰にも言わないで」

「どうしてさ」

「言えない」


 さて、これ以上深く聞いて全部忘れるか諦めるか。

 後者一択だ。

 そもそもこの空間自体ガチガチのセキュリティでガードされてて俺が入れたのは何かの不具合だろう。

 大人しく引き下がった方が身のためとしか思えない。


「……アキ、理由は言えないけどこの娘の友達になって。ここにいつでも入っていいから、話し相手になってくれると嬉しい」


 向こうから提案があるけど拒否権ないよなこれ。

 なんて思ってる間にも桐姉ぇはキーボードを顕現させてすごい速さでキーをタイプしていく。


「こーしんかんりょー。これでアキ以外が入ったら自慢のトラップで……ふふっ」


 あ、あかん。

 この魔女さんは割と平気で非合法なこともやりそうだ。


「でぇ? その自慢のトラップとやら、いま解除したもので全部なのか?」

「誰!?」


 いつの間にやら草原の向こう側、ドアがあった方から桜都学園の制服を着た男子生徒が向かってきていた。

 特徴がないのが特徴とでもいうような、モブAとしかいいようのないほどに気配のない……。


「政府指定賞金首……、第四世代ネクスト機を師団単位で用意したところで勝ち目はないと知れ」


 ……しょ、賞金首? まじっすか?

 それって出会ったら死ぬっていうあの……仮想空間における最強の……。


「まあ、今回はやりあう気もないし、用があるのはそっちな訳だし……。おいこら、勝手に出歩きやがって、帰るぞ」


 その意識の矛先は二人の少女の片方に向いている。


「えぇー、ミー君まだいーっしょぉ?」

「断るなら力尽くで――」

止まれ(フリーズ)!」

「――えぇぃっ!」


 拘束バインドを……躱した!?

 それも桐姉ぇの、特別級ソーサレスの!?


「はぁ、連戦きついんですが……。つーか無駄な仕事をしたくない訳だが。地雷原走り抜けて、仮想方面隊の基地ストラクチャごと破壊して、ランク1とドローンぶっ潰して……そもそもオーバーワークな訳なのだがな……なにこれ、春休み返上して学生が徹夜で軍事行動? そろそろテンションが変なところに突き抜けるぞおい」


 ……よくみれば目元の隈が酷い。

 まるで徹夜でゲームをし続けた人のようになってる。

 って、いまランク1を潰したって……つまりランク1を超えるパイロットなのか。

 シェルの力は人をそのものを変換するから、もとから身体能力が高いと言えるか。


「桐姉ぇ! ログアウト!」

「ダメ! この娘たちをおいていけない」


 桐姉ぇの周りに無数のウィンドウとキーボードが広がる。

 魔法使い(ウィザード)の本気には遠く及ばないが、低級ウィザードでは到底太刀打ちできない処理能力だぞ。


「潰すぞ、ソーサレス」

『不正処理を検出しました。エリア内の電子体は直ちにログアウトしなさい。繰り返します――』


 AIからの警告が発せられることなんてそうそうないぞ。

 まずい。

 一触即発……そんな雰囲気の中でバゴンッ! といきなり侵入者の男子生徒の後頭部に蹴りを入れた小柄な影が……レイアちゃんが。


「…………。」

「バカ」


 いつかの変態まさやと同じように一撃で撃沈されてしまった。



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