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仮想世界のフォークロア  作者: 黒川零次&同居人
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◆アサルトレゾナンス

 手にした端末に戦域情報を表示させ、刻々と動く戦況と兵員の配置を眺める。


「ケチったのが原因だよな……」

『だろうな……行けると思ったが、案外敵さんの傭兵がやるようだ』

「はぁぁ……やるか。

 ミッション内容を説明する、クオリアリズム社の保有するプログラム"ヴァリアブルオブジェクト"を格納した自立AI機"KR-P-white"を捕獲しプログラムを奪取する。現在こちらの投入したウイルス部隊と敵傭兵の交戦開始により自立AIはすべての命令を遮断する状態で逃走中、最悪大破させて破片だけでもいい、回収しろ」


 回線越しに十一人の声が返ってきて、そして市街エリアを見渡せるほど高い場所にある中立エリアに漆黒の機影が姿を現した。

 シャドウシリーズ。

 黒をベースに血のような赤で装飾を施した軽量二脚機ばかり。基本構成はどれも同じ、追加装備のエンブレイスによってどれもこれもが特徴的な姿をしている。

 あるものは鋭い翼をもつ烏のように、あるものはマントのように浮遊する剣を多数従え、またあるものはレドームを背負い、あるものは機体以上の長さを誇るライフルを抱え。


「今回受け持ったミッションは二つ。もう一つは研究施設から強奪されたサンプルの排除、あちらはどうもAIの処理に直接干渉できるタイプらしい、下手すれば認識と同時にクロックを停止させられて実体と電子体の同期エラーで即死もあり得る」

『で、それが? こちらには生き残らなければならないような駒はいない。アレを除いてすべてが捨て駒だ、いくらでも替えの利くな』

『しかしまあ、表向きは。そういうことだろう?』

「そうだな。表向きは排除部隊として参加、提示された情報は先に述べた通り。が、こちらの本命はマックス&パウルからの救援依頼だ。強奪されたサンプルは――」

『アザレア、コンタクト。エンゲージ』

『マグノリア、エンゲージ』

『話は後にするか……まずは敵の排除が優先だ。お前はどうする?』

「そうだな……少し向こうで遊ぶか」

『遊ぶ? あぁなるほど、盛大に引っ掻き回してやれ』


 ◆◆◆


 恭介たち五人はすでに戦闘状態の市街エリア上空へ向かう輸送ヘリの中にいた。

 ムーブプロセスを使用した瞬間移動が行えないようにアクセス制限の掛けられている戦闘エリアには、隣のエリアでシェルにシフトして長距離を移動するか、航空機から爆弾のように投下してもらうか車両に乗って戦場まで届けてもらうのが一般的だ。

 もっとも搭乗中は無防備な"人"であることに変わりはなく、シフト前に狙撃されたり旧世代の兵器、例えば戦闘機などによって撃墜されることはよくある話。


「えぇーっと今回の任務は……」

「恭介、また寝ていたな?」

「倉木さん? なんか怖いですよ」

「ブリーフィングで寝るお前が悪い。簡単に説明すると制御不能に陥った自立兵器の破壊、及び研究所から強奪されたカプセルの抹消だ。ターゲットはそれぞれ一機と二名、たったこれだけに対して三十人規模のパイロットが募集された意味くらいは分かるよな」

「…………、」

「それだけ厄介な相手だということだ」


 再確認をしているとアラートが鳴り響く。


「ヘリのパイロット! 低空飛行で速度上げ、目標地点付近でハッチを開け。あとは勝手に飛び降りる。皆、シフトプロセス起動準備」

「あの、倉木さん。俺が……」

「きょーすけーお前やっぱ指揮とかそういう方向のリーダーには向かんと思うよ」

「……はーい」


 ガコンッ! と後方のハッチが開くと飛び降りながらシフトしていく。

 足が地面に着き、衝撃が足裏から脳天に突き抜ける。全身を使って衝撃を和らげるように屈伸し、体勢を直して前を見ればすでに半数以上が戦闘不能なまでに破壊され、処理エラーで消えたオブジェクトが歯抜けの市街を不自然に描き出していた。


「酷いな……レーダー、データリンク。散開して索敵を開始だ」

『増援か、見ての通りだ。下の連中は喋ることもできんだろう、位置情報を転送してくれれば狙撃支援を行う用意がある』

「砲台型のシェルか」


 発信源を辿りビルの屋上に目を向けると、機体と同じ長さの長大なライフル砲を構えた傭兵が半壊状態で構えていた。


「行動開始、行こう」

「こーゆーときだけリーダーらしいんだからもう」


 それぞれが索敵モードで行動を開始していく。

 恐ろしいほどに静かで、不気味なまでに動くものが存在しない市街を走り抜ける。

 ステルス状態で敵が潜んでいればまず目視では発見できない、そのため目で見るようなことはせずにレーダーだよりでエリアを洗い出していく。

 恭介は片手間に参加している者のコールを流し見ていると知った名前を見つけた。

 ほとんどが自動で割り振られたフォネティックコードを使っている中で自分の指定コールを使っているものがいなかったからこそ見つけられたのだが。


「こちらデルタ1、来未。聞こえていたら返答を」

『こちらスコール交戦中だ、アウト』

以上終了アウトって、オーバーじゃねえのかよ!」

『黙れ雑魚が。ファーストのヴェセルでセカンドのシェル五機とやりあうのがどれほど危険かわかっているのか』

「はいぁっ!? 一対五ってバカじゃねえのあんた!」

『……そもそも通信規格も全二重、半二重じゃないから昔のようなやりとりは要らんだろうに』


 第一法則か第二法則か。

 どちらを当てはめるにせよ凄まじい性能差がなければそもそも戦闘という形すら取りえていないはずだ。


「おい! 場所教えろ、すぐに援護に行く」

『だぁっくそっ! 口座が空になったか……弾代がなけりゃ――』


 仮想空間での活動にはまず誰もが知るように通信料金がかかる。

 そこに戦闘などの重処理の加算料金、武器を使えば修復処理や再装填処理でさらにさらにかかる。

 加えて高性能な機体は膨大な数のライブラリで構成されているため、単に使うだけで単位秒あたりの料金が酷いことになっている。

 つまるところ、今の時代、仮想戦闘での大前提は"お金"。

 動かすための燃料のようなものだ。

 どれだけ性能のいいエンジンがあったとしても燃料がなければ動かせない。

 そんなもの。


「おいスコール! あんた無茶だろ!? こないだもなんか撃墜されてたよなおい!」

『身代わりルーター噛まして接続しているから死にはせん……チッ、まだ来るか。CP(コマンドポスト)、位置情報は把握しているな? 構わずに迫撃砲を叩き込め』

『どうせ赤字だ、ワルキューレを出撃させる。そのほうがいい』

『……あんまり入り乱れると厄介なのが顔を出すかもしれんが』

『さっさと終わらせてしまえば問題ないさ』


 仮想の空に黒い影が七つ飛び上がり、シフトのエフェクトに包み込まれて姿を変えていく。

 一様に黒系統で整えられた装甲。

 その姿は鋼鉄で形作られていながら女性らしい丸みを帯び、頭部には翼の髪飾りが、首から上腹部は肩を出す形で黒いシルクのようなものに覆われ、腰には鋭い剣をつなぎ合わせたスカートが装備されている。


「恭介! 気を付けて!」

「わぃっ? って、おぅわぁぁ!?」


 声につられて振り向けば、その瞬間に振り下ろされた鋭い爪がクリーンヒットした。

 ギャリギャリと火花を散らし、


「ってぇなこの野郎! スクラッチキャットか!」


 猫をそのまま二足歩行にしたようなシルエットの、どこか無理していそうなその機体にカウンターで振り下ろした体勢の頭に蹴りを入れた。

 続けてウォーハンマーを取り出して道路に叩きつけ、装甲にヒビを入れ路面を砕く。動きが止まったところにニードルガンを使って手足を打ち抜いてエラーでまっ平らになった地面に縫い付ける。


「恭介、こいつどこの所属だろ?」

「さあね。今回のターゲットは自立機とコソ泥だって話、だったら自立機じゃないからコソ泥の方じゃないか? 分かんないけど」

『こちらスコール! シャドウシリーズとコンタクト、エンゲージ。……なるほど、情報にない敵機はこいつらを追って……』

『以外にやる……ワルキューレじゃ無理か』

「……つまり外部の連中? 別任務の作戦域とダブルブッキングした訳ですかい? 倉木さん、ちょい情報プリーズ」

『傭兵斡旋協会……MMAに問い合わせたがそれらしい任務は発行していないとのことだ。それとワルキューレだが賞金首指定のランカーだ、一機墜とせばしばらくは金の心配はしなくていいから、やれ』

「あの、なんか怒ってます?」

『お前が回線開きっぱなしの間に浩太と才木を使ってターゲットを追いかけましていた。分かるだろう? 仕事中に私語は厳禁だ』

「す、すんません」

『こっちで目標は仕留める、お前はワルキューレを撃破するように』


 SOUND ONLYのウィンドウが閉じるとふぅっと息を吐いて。


「やっぱ、俺より倉木さんの方がリーダーに向いてない?」

「んー……でも倉木さんってみんなのリーダーっていうより司令官みたいな感じだよね」

「司令官って、まんまトップじゃねえかよ」

『こちらスコール、シャドウウルフ撃破、シャドウゲイル大破。またターゲット、クオリアリズムのホワイトを補足、位置情報を転送。支援を』

『いま戦場にいる味方はお前を入れて七機、いや、いま一機やられたか……敵行動予測完了、退避しろ! そっちに集中している!』

『折れたブレード二本でどうしろと?』

『周辺の処理にアンカー撃ち込まれてりゃプロセスの起動も無理か……』

「おーい、スコールともう一人誰か知んねえけどさ。ピンチなら助けるぜ?」

『言ったな。いま確かに言ったな』

「な、なんだよおい?」


 疑問で聞き返した途端、近場のビルの壁が内から切り開かれて爆炎と共に不愛想な男が飛び出してきた。

 いや、飛び出したというよりは爆発で吹き飛ばされて、というべきか。

 石切りで投げられた石のように何度も跳ねて向かいの店のガラスを打ち砕いてようやく止まる。


「コックピットのフレーム強化しててよかった……。来未恭介! あとは任せた有人機の六機くらい潰せ!」

「はぃぃっ!? つかあんたまだ動けるのかよ!?」

「しゃべる暇はないぞ、ほぅら来たぁ」


 穿たれた穴から続々と滑り出てくるそれは、シャドウウルフと呼ばれる機体。

 いずれもが出所不明、製作者の署名すらない機体でありパイロットの登録も所属も不明。

 ただ分かっていることは一対一で戦うとまず勝ち目はない強さを持つ、それだけだ。


「あの、スコールさん? あなたまさか一人であんなの潰していたのでせうか?」

「潰したというよりは、わざと挟まれるように動いて同士討ちを狙って自滅させたという方がいいな。正面から挑むのは馬鹿のやること、間に障害物を挟みつつ遅滞防御戦のやり方で削れ」


 置き土産なのか手持ちのスモークをばら撒いて視界を完全に塞ぐと、スコールはレーダーからロストした。


 ◆◆◆


 路地裏に潜んでいた男二人……メインクライアントを見つけた彼は呼びかけながら接近した。

人が一人すっぽりと収まるほどの銀色のカプセルが二つ、運搬用の台座に乗せられているのも気にせず。


「マックス! パウル!」

「くそっ、追ってか!」


 PDWを向けられながらも足を止めず、依頼の受諾証書を二人の眼前にオープンさせる。


「え、援軍!? ようやくか」 

「こちらの手勢は敵を引き付けている最中だ。安全なルートを――」


 その続きは追っての声と銃声に上書きされた。


「見つけた! 撃て、上条!」


 カプセルに当たった弾丸が火花を散らし、パウルと呼ばれた男の体に穴を穿つ。

 入り組んだ路地の奥ということが幸いした。この狭さではシェルの使用はできない。

 それならば人対人の銃撃戦になる。


「二人か、舐められたものだ」


 追っての二人が路地のごみを盾に隠れ、リロードをしている隙に彼はパウルのPDWを拾い上げて撃った。

 貫通力が重視されたそれは容易く障害物を貫いてごみの山を崩す。

 やけになったか、それとも一気に仕留めに来たか、どちらにせよ姿を見せたその二人に二発撃った。

 ヘッドショットを狙ったものではない。首を狙ったものだ。

 頭蓋骨の堅さを甘く見てはいけない、拳銃の弾ならばヒビ程度のダメージを与えられないことすらある。


「ごほっ……」

「がぁっ……」


 勢いそのままに倒れた二人に、ナイフを手にもってトドメを刺した。

 死体となったそれはエラーとして即座にデリートされていく。

 亡骸すらも残らない無慈悲な仮想のルールに従って、飛び散った血も銃撃の痕跡も消えていく。


「おいしっかりしろよぉ! こんなところで死ぬタマかてめえよぉ!」

「いてぇ……いてぇよくそがぁ!」

「騒ぐな、まだヒドゥンモードで一人いる」


 不意に銃口を向けたかと思えば路地の奥に数発撃ち込む。


「倉木、だったか? 優秀なサポートだな。ただまあ、気づかれるような雑な追跡は」

「黙れ」


 反撃は狙いすましたかのような正確な銃撃が一つ。

 彼は体を反らすことで躱し、通り抜けた弾はマックスに当たる。


「よくもあいつらを」

「戦場ではよくあるだろう。誰だって死ぬのさ、いつもいつも生きて帰る、なんてことはありえない」


 互いに銃口を突き付けあい、彼は同時にハンドグレネードを倉木の背後に放り投げた。

 

「引けば死ぬ、進めば死ぬ。どっちがいい?」

「ふざけた真似を!」

 

 そして銃撃が交錯し倉木の体が消えた。

 しかし彼がひらりひらりと躱したいくつかの銃弾は護衛対象に致命の傷を与えていた。


「…………、」

「あ、あんた……」

「報酬のことなら気にはしない。任務失敗だからな」

「へっ、そうかよ……。だったら、これを頼むぜ」

「カプセル? 中身は?」

「見れば分かる。やつらのやったこと、決して……許す……な」


 喋ることもつらくなったのか、しゃくりあげるような呼吸で体の力を抜いて地面に倒れこんだ。

 彼はそんな二人を気にもかけず、カプセルにつけられたプレートを見る。


「C-TYPE"S"と"L"……?」

『シャドウウルフが全滅、そっちに一人向かっている』

「了解。調停者の転送プロセスでアカモートに飛ばしてくれ」


 ふっと視界が霞んで、気づけば海の上を漂う都市の外延部に立っていた。

 もちろん二つのカプセルも一緒に。


「中身はなにかなっと…………」


 カプセルの防御プログラムを、包装紙を破り去るような軽い動きで破壊し、その中身を目にした瞬間に彼はどう対応をするべきかに悩んで少しフリーズした。


「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。」 


 中身は、年端もいかない女の子と高校生くらいの女の子だった。

 培養液らしきものに満たされたそのカプセルの中に生まれたままの姿で浮かんでいたのだ。

 何度か目をパチパチとさせた後で、


「なるほどな。クローンか、あの研究所は確かに……」



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