第7話 これは少し厄介だね
本作は全話執筆済みです。
完結まで毎日1話ずつ更新する予定ですので、安心してお楽しみください。
イリスは身体強化魔法を使い、森を駆け抜けていた。
(距離はおよそ500m、45秒ほどで到着できる。あの防壁結界なら魔獣の群れ相手に5分は耐えられるはず。内部から強化をすればもっと持つ、これなら何とか間に合う。)
エリーゼは一人残されていた。
(魔獣が相手、死ぬ可能性もある。でも、侯爵家の令嬢として見過ごすことはできませんわ。)
そう思い、エリーゼはイリスを追いかけ始めるのだった。SOS信号の受信端末は自分が持っていたので、それを見ながら向かえば、確実に合流できるはずだった。
アイヒェンベルク先生は、イリスとエリーゼが応援に向かったのを見てあきれていた。
(…イリスは戦力になるからまだいいが、エリーゼは危ないな。だが俺がここを離れたら、残っている生徒を保護できない。念のため防壁に入れておくか。)
「防壁を起動して中に入れ、念のためだ。ここが狙われることはないと思うが、流れ弾が飛んでくるかもしれないからな。」
「先生、イリスさんとエリーゼさんが行きましたけど、大丈夫なんですか?」
「そうだな、イリスなら大丈夫だ。エリーゼも自分を守るくらいならできるはずだ。」
「イリスさん、確かに魔法が得意ですけど、魔獣が相手ですよ!なんでそんな余裕そうなんですか…?」
「え、お前ら、イリスが何者か知らないのか?」
「どういうことですか?」
「あぁ、なるほど。まあ、あいつの実力なら心配はいらん。詳しいことは本人に聞け。」
イリスが信号の発信元につくと、防壁の中に生徒たちが入って防壁を強化していた。
イリスに気が付いたフローラが話す。
「イリスさん、教師の増援には時間がかかります。防壁魔法の維持と強化は私たちがやりますので、魔獣の殲滅をお願いできますか?」
「うん、わかったよ。それでみんなは無事?」
エリカが返答する。
「えぇ、全員無事ですわ。そして、あなたが来てくださったおかげで、私たちの安全が保障されたも同然ですわ。」
「それは過大評価だよ。」
「そうかしら?あなたほどの実力であれば、数百匹程度の魔獣は楽勝ではいらっしゃらなくて?」
「まぁ、そういわれるとそうなんだけど。」
「ですので私たちは、防壁魔法の強化に専念できますわ。遠距離攻撃などは迎撃しなくて結構です。防壁で防ぎきりますわ。あなたは魔獣の殲滅に力を割いてくださいませ。」
「は~い。」
イリスの間延びした声は、間もなく魔獣と接敵しようとしているこの場には、似つかわしくなかった。イリスは魔法収納から杖を取り出す。
魔力探知をし、正確な位置を把握する。そうすると詠唱を始めた。
「熱よ収束せよ、光となりて貫け」
そう詠唱すると、数十もの魔法陣が浮かび上がった。そしてその魔法陣から光線が飛んでいく。光線は魔獣の胴体を貫き、倒れていく。
護衛の3人は、数十もの魔法陣を維持し的確に攻撃をしていく様子を見て愕然としていた。連邦内でここまで魔法を並行できるものはほとんどいない。それを生徒がやって見せたからだった。
イリスはエリカに言われたように、遠距離攻撃は無視していた。尤も、自分に当たりそうなものだけは迎撃していた。
数分が経過しても、イリスの魔法陣は一つとして消えることなく、次々と魔獣を撃ち抜いていた。
その時、茂みからガサゴソと音がした。イリスは探知漏れかと思い、そちらに杖を向けた。そこから出てきたのはエリーゼだった。
エリーゼは、空中に浮かぶ数十もの魔法陣を見て自らの正気を疑った。教師たちは防壁の維持に専念している、つまり、この数十もの魔法陣はイリスが単独で維持しているということだった。
「…イリス、あなた何者ですの。」
「私?イリスだよ。それ以外の何でもない、ただのイリス。」
「…わかりました、今はただのイリスと言いましょう。それで、手伝うことはあるかしら?」
「んーと、特にないかな。迎撃は私一人で事足りるから、防壁の維持に加わってくれると嬉しいかな。」
「わかりましたわ。」
イリスは接近してくる2つの群れを同時に相手していた。探知魔法で魔獣の位置を特定し、それを魔法陣に同期させ、熱線を的確にあてていた。
魔獣の群れは勢いを失っていき、そして最後の1匹が地面に倒れ伏した。
「…これで、終わりかしら。」
「ちょっと待ってね、うち漏らしとか確認する。」
そういって再び探知魔法を起動した。群れの中に動いている魔力の反応は感じられなかった。しかし、大きなものがこちらへ接近してきていた。
「まだお客様がいるみたい、防壁は維持してね。」
周囲が少し暗くなった。イリスは空を見上げる、それにつられてエリーゼたちも空を見上げた。青空を覆うように、巨大な影が横切っていった。
「まさか…」
そうエリーゼがつぶやく。その声に応えるかのように、森に咆哮が響き渡った。
「竜…ですわ…。」
一方、イリスは特に怖がっておらず、面白いものを見ているかのようだった。
(現れるにはタイミングが良すぎるかな。魔力を隠ぺいして、上空に潜んでいたのかな。漁夫の利を得るのが目的だったのかな。)
イリスは再び杖を構える。今度は詠唱なしだった。一つの大きな魔法陣が表れ、そこから熱線が発射される。しかし、竜の鱗にはじかれ、熱線は空の彼方へと飛んで行った。
「…これは少し厄介だね。」
イリスはそういうが、その声には余裕がにじみ出ていた。




