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春風は魔女の名をまだ知らない  作者: カエデ
第3章 穏やかならざる遠足

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7/13

第5話 これは放置しておけない。

本作は全話執筆済みです。

完結まで毎日1話ずつ更新する予定ですので、安心してお楽しみください。

 統一暦19年5月11日月曜日


「最終確認ですが、各自救難信号の発信機は持っていますか?あ、そこ、動作確認をしない。

 ここの森は基本的に魔獣は出現しませんが、万が一野生の動物や魔獣に襲われそうになった時は、必ず救難信号を発してください。救難信号を発すると、自動的に防壁結界が作動しますので、その中で救助を待ってください。加えて、防護結界のみの発動もできますので、教師の指示に従って使ってください。

 以上です、何か最後に質問がある人は?…いないようなのですので、それではトレッキング開始です。各自、ルームメイトともに楽しんできてください。」


 今日は校外学習、トレッキングの日。生徒同士の親睦を深めるため、毎年行われている恒例行事だった。ルームメイトを数組合わせて作った班で行動することになっていた。

 爽やかな春風が新緑の葉を揺らし、山道に木漏れ日がさす景色は、夏の訪れを感じさせるものだった。


「たまにはこういうのもいいよね~。」

「えぇ、そうですわね。たまにはこのようにして、自然を満喫することはいいことですわ。」

「だよね~。まあ少し疲れるけどね。」

「…それはあなたの運動不足なのでは?」

「そんなことはない…はずだよ?」

「ではお聞きしますが、休日は普段何を?」

「えっと、論文読んで、たまに新しい魔法の実験をして…」

「えぇ、そうですわね。何しろ、休日にあなたが図書館以外に出かけること、わたくしは一度も見たことがありませんもの。」

「うっ、何も言い返せない…。」

「放課後に軽い散歩をお勧めしますわ。あなたがさぼらないように、折角ですから一緒にやりませんこと?」

「エリーが一緒なら楽しめそう!」

「それでは、明日から始めましょう。今日はトレッキングで十分歩きますから。」


 それから少しして、教師が休憩といった。引率をしているのはアイヒェンベルク先生だった。


「休憩は10分とるぞ。各自、水分補給は欠かすな。けが人とかが出たらいろいろ面倒くさいからな。水稲が空になっているか、なりそうなやつは、水を補充するから俺のもとに来い。水の補給はできれば休憩中にやっておきたいから、次の休憩ポイントまでになくなりそうなやつも来るんだぞ。」


 彼はいつも通り雑なしゃべり方をしていた。彼は貴族ではないので、貴族の子弟が大半を占める第一大学においては、身分差が大きかった。

 故に、彼の粗雑なしゃべり方に対して反感を持つ生徒も少しいたが、「お前が貴族だろうがなかろうが、ここでは生徒だ。」と言い切っていた。


 イリスは水稲の中を覗き込むと、まだ十分な量の水が入っていた。


「私は補充しなくても大丈夫そう。」

「わたくしもですわ。」

「じゃあさ、さっきの散歩の続き!どこ歩く?」

「そうですわね…学校の敷地の周りを歩くのはいかが?」

「えっ、結構な距離ない?」

「慣れれば普通になりますわよ。それにあなたは肌が白すぎます。白い肌が汚いとまでは言いませんが、あなたの場合は不健康な白さをしていますわよ。」

「そこまで言わないでよ~。」

「あなたに必要だと思っているから、言っているのですわ。ですので、少し耳が痛いくらいの方がいいと思いますわ。」

「そこまで完全に言われ…」

「…どうされましたの?」

「ちょっと静かにして、集中してる。」

「…わかりましたわ。」


 イリスは「Ein.」と魔術回路の起動詠唱を唱えると、山全体を探知魔法で見ていた。イリスはふと、森の奥から微かな魔力の揺らぎを感じとったからだった。探知魔法は、魔力を持つものを識別できる魔法だった。


(…魔獣の動きがおかしい。一斉に一方向に動いている。何かから逃げて…いや、この規模で動き出すような存在はいなさそう。じゃあなんで…?

 いや、理由はあと。この集団が向かっている方向の先には…まずい、生徒がいる。)


「アイヒェンベルク先生!」

「ん?どうした、イリス。」

「魔獣の群れが移動しています、このままだと生徒が遭遇します!」

「わかった、本部に連絡を取る。どの班が特に危ないかわかるか?」


 そういいながらアイヒェンベルクは通信機を取り出し、本部へ連絡を入れ始めた。


「こちら第3班アイヒェンベルク。本部、聞こえるか。」

「こちら本部、聞こえています。」

「イリスが魔獣の移動を感知した。」


イリスは、魔力探知でその班を確認した。一つ、見覚えのある魔力をしていた。

 そしてその瞬間、SOS信号を各自の通信機が受信した。


「先生、エリカ殿下の班です!」

「わかった、今すぐ避難させる。」

「この規模だと…護衛と教師では数が足りません。」


「本部、第5班が危険だ。今すぐ避難を指示しろ。引率の護衛と教師だけでは足りないらしい。」

「わかりました、今すぐ伝達します。」

「よろしく頼む。」


 イリスは荷物をまとめて持った。


「イリス、まさかですが助けに行くとでも?」

「うん、これは放置しておけない。王女様の命がかかってる。」


 そしてイリスは、信号が発せられた方に走り始めるのだった。

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