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春風は魔女の名をまだ知らない  作者: カエデ
第2章 魔女の常識、学園の非常識

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4/13

第3話 要するに思い込みだ

本作は全話執筆済みです。

完結まで毎日1話ずつ更新する予定ですので、安心してお楽しみください。

 統一暦19年4月3日金曜日


「それでは、魔法史の授業を始めるぞ。魔法史の講師を務めるアイヒェンベルクだ、一年間よろしく。まず最初に確認しておくが、魔法史の教科書は19年度発行のものになっているか?18年度のものと大きく内容が変わってるから、もし昨年度のを持っている奴がいるなら、前に教科書の予備があるから取りに来い。…よし、いないようだな、それじゃあ始めて行くぞ。」


 魔法史、これまでの魔術の発展を学んでいく授業。この学校では選択必修科目となっていた。


「教科書が大きく変わった点について、最初に説明をしておく。ざっくり言えば、統一魔法理論がカリキュラムに入ったことだ。お前らが中学生のころはまだカリキュラムに入っていないはずだから、知っていなくても問題ない。何しろ、15年に発表された新理論だからな。

 今日の講義では、統一魔法理論が何を変えたのかを中心にみていく。おそらくだがお前たちが中学生のころは、属性を習ったと思う。だが今はそれは否定された。それに代わって主流となっているのが統一魔法理論だ。」


 そういうと、アイヒェンベルクはまずコップに水を魔法で入れた。そのあとに、指先で火を魔法で起こした。どれも単純な魔法だった。


「昔でいえば、水属性だったり火属性だったり言われていたこれらの魔法、だがこの説明では、矛盾する事例も見られた。例えば、適性がないとされている属性の魔法を時々使えること。ほかには、同じ属性でも得意不得意がみられること。」


 アイヒェンベルクはろうそくに火をつけると、風を魔法で引き起こした。火は揺れるだけで消えはしなかった。


「俺は学生のころ、風属性は適性なしと言われた。だが見てのとおり、少しだけなら風を起こせる。もちろん、ろうそくの火すら消せないほどだがな。」


 少し、教室に笑いが広まる。


「つまりだ、属性やらそれの適性やら、その説明には問題点があった。そこで疑問が思い浮かぶだろう、適性とは何ぞやと。」


 少し間が空く、とある生徒が想像できるかどうかと答える。アイヒェンベルクは満足そうにうなずき、話をつづけた。


「今言った通り、魔法の発動には、その現象を明確に想像できるかどうかが重要だ。そもそも想像できなければ、魔法を発動させること自体が難しい。だが、想像できれば何でもできるというわけでもない。魔力の量や変換効率によって、実現できる規模や精度は変わってくる。

 魔法には確かなイメージが大事だ。自分ができないと思い込めば、適切なイメージができなくて苦手になっていく。要するに思い込みだ。かつて属性適性と呼ばれていたものには、こうした実際の能力差と、本人の思い込みによる制約が混在していたわけだ。」


「さて、このように従来の説明には矛盾点があった。そして15年になって新たな理論が提唱された。それが統一魔法理論だ。簡単に言えば、魔法とは魔力を熱や光、運動などに変換することで、様々な現象を引き起こすものだという理論だ。火や水といった属性は、現象を分類するための便宜的な呼び方にすぎず、魔法の発動原理そのものではない、というわけだ。」


(あ、教室がざわついてる。まあ当然だよね、属性とかをこれまで学んできたのに、そんなの存在しないって言われたわけだから。)


「さて、この統一魔法理論だが誰が提唱したか知ってるやつはいるか?」


 イリスはそう言われて少し体をびくっとさせた。尤も、それに気が付いたものはいなかったが。

 少し間を開けてアイヒェンベルクが答えを言う。


「ファルケンハイン宮中伯だ。当時12歳、驚きの若さだ。聞く限り、御父上も宮中伯だったらしい。2代次いでの宮中伯だ、まあ天才なんだろうな。

 で、肝心の理論だが15年に発表された当時は懐疑的に受け取られた。だが注目を浴びたため、反証実験が多くなされた。そして17年頃には学会の主流派となっていた。ファルケンハイン宮中伯は17年にその功績から宮中伯に叙せられた。覚えられる奴は、17年も覚えたらいいぞ。あ、15年とファルケンハイン宮中伯の名前は絶対覚えるんだぞ、テストに出すからな。」


(えっ…私の名前テストに出るの!?なんか変な気分…)


「属性という概念はおよそ200年前に誕生したといわれている。それからつい最近まで、矛盾を抱えながらも学会の中心だった。だが今や、その考えを否定する研究も多く出てきている。

 要するにな、15年は魔術の歴史が変わった年だ。ここ数年の魔法研究は、統一魔法理論が中心となっている。最初は理論が正しいのかどうかだった。だが現在では、統一魔法理論を前提とした研究が増えている。属性は過去の概念となったわけだ。」


「さてこれが、最新の魔法理論だ。基礎魔法や応用魔法の授業も今年から統一魔法理論に基づいて行われることになった。まさか生きている間にパラダイムシフトを目撃することになるとは俺も思ってなかったな。

 駆け足に進んできたが質問があるやつはいるか?…大丈夫そうだな。今日の授業で重要な点は、15年に統一魔法理論が出て魔術の前提がひっくり返ったことだ。もちろんこの理論だって将来ひっくり返されるかもしれん。今日の常識が明日の常識とは限らん。

 さて、明日からは属性の概念が誕生するまでを見ていく。1学期で属性の概念の誕生まで、2学期で属性の概念が主流だった200年間、3学期で統一魔法理論とここ数年の研究を中心にみていく。

 これで今日の授業は終了だ、質問のあるやつはこの後来るように。では解散。」

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― 新着の感想 ―
結構作り込まれた世界観なのに、するすると頭の中に入ってきました。とても読みやすかったです。
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