第10話 副会長やります。
本作は全話執筆済みです。
完結まで毎日1話ずつ更新する予定ですので、安心してお楽しみください。
統一暦19年6月12日金曜日
6月第2金曜日、今日この日は生徒総会会長選挙の日だった。第一大学附属高等学校の生徒総会役員は、生徒の自治が強いこの学校において非常に大きな権力を持っていた。
とはいっても選挙の結果は決まり切っていた。複数人が立候補したが、その中にアルテンブルク王国第1王子ヴィルヘルム・プリンツ・フォン・アルテンブルクがいたからだった。前期の会長でもあり、彼が落ちる理由は何一つなかった。故に学校で注目が集まっていたのは、会長以外の役員だった。
会長以外の役員は推薦状をもとに会長自ら指名することになっていた。
「推薦状を書いてほしい?」
「えぇ、折角ですし役員をやろうと思いまして、あなたの推薦であれば十分ですので。」
「エリーがそこまで言うなら、書くよ。用紙はある?」
「えぇ、すでに用意してありますわ。この2枚にサインをしてくださるかしら。」
「へ~、推薦状って2枚必要だったんだね。」
そういって2か所にイリスはサインをした。
「ありがとうございますわ。」
「にしても会長も大変だよね~、選出された日に推薦状に目を通して役員を決めなきゃいけないって。しかも推薦状って、結構な量あるんでしょ?」
「えぇ、噂だと100枚を超える年もあると聞きますわ。」
「うわぁ、それはすごい。なんでそんなに人気なの?」
「第一大学附属高等学校の生徒総会で役員をやっていたとなれば、将来のエリート候補として見られるからですわ。有力貴族が多いこの学校で生徒の代表をするわけですから、卒業後もその経歴は生きていきますの。」
「なるほどね~。そりゃ、貴族も大変だね。」
「…あなたは相変わらず他人事ですわね。」
「だって~、社交界とか貴族とか興味ないもん。」
「相変わらずですわね。さて、私は推薦状を提出してきますわ。」
「行ってらっしゃ~い。」
夕方には、生徒総会役員が公示された。イリスはそれを見て己の目を疑った。再度見るが、幻覚などではない。
「副会長:イリス・フォン・ホーハイト・ファルケンハイン」
はっきりそう書かれていた。エリーゼの名前は書記として書かれていた。会計にはエリカ殿下が選出されていた。
生徒総会室に向かうと、ヴィルヘルム、エリカ、エリーゼの3人がそろっていた。ヴィルヘルムが言ってくる。
「君が立候補してくれて本当に助かったよ。五英傑の一人が副会長を務めてくれるわけだから。」
「あの…そのお話なんですけど、私、推薦状を提出していなくて。」
「君のは、エリーゼ令嬢が一緒に提出してくれたよ?」
「…殿下、確認なのですが、推薦状は2枚必要ですか?」
「いや、1枚だが。」
エリーゼは露骨に目をそらした。
「エリー、私の記憶があっていれば、2枚書かされたんだけど、その2枚目って何だったのかな?」
少し怒っていた。
「私の推薦状と、あなたの推薦状ですわ。あなたの力があった方がいいと、ヴィルヘルム殿下もおっしゃられていたので。
二枚目は、あなたが被推薦者になるように書いておきましたの。署名欄以外は見えないようにしておきましたから、気づかれないとは思っていましたけれど。」
「私、一度でも同意したかな?」
「拒否された記憶はありませんわ。」
「いや確かに、拒否はしてないけど…。」
「なるほど…事情は理解したよ。それを踏まえての相談だが、やはり副会長を務めてくれないか?五英傑の一人が副会長を務めてくれれば、生徒総会も安定する。」
「殿下、正気ですか?私、2年前に貴族になったばかりの人間ですよ?」
「それでも宮中伯で五英傑じゃないか。私としては、君の能力は高く買っている。その証拠として、君は特待生じゃないか。」
「それは、偶然魔獣の襲撃があって、偶然近くにいたから助けられただけです。」
「それでも君は助けた、そうだろ?」
「…それはそうですけど。」
「優秀で、責任感があって、しかも高い地位を持ち合わせている。このような人材は希少だ、故に有効活用すべきだと思うのだが、イリス君はどう思うかい?」
「…殿下のおっしゃることは御尤もです。…わかりました、副会長やります。」
「よかった、もし君にこの場で拒否されたら、副会長を選びなおす必要があったからね。副会長ともなれば、各邦の王家や公爵家の人間じゃないとなかなか務まらないから、なかなか代替候補がいなくてね。」
「ちなみにですが、庶務はどなたが?」
「庶務はアーデルベルク伯爵家のフロレンツ君にやってもらう。ヴァイセンフェルト王国の伯爵家の子息だ。」
「ヴァイセンフェルトっていうと、連邦第2の王国ですか。」
「なかなか頼もしい人材だろ?」
「それはそうですが…。」
「私としてはね、今期の生徒総会運営は滞りなく進みそうで安心しているんだよ。」
「と、言いますと?」
「庶務は連邦第2の王国の伯爵家の子息、書記は連邦第1の王国の侯爵家の令嬢、会計は第2王女、副会長は連邦議長が任命した五英傑の一人。ここまで地盤がしっかりとした生徒総会は初めてだよ。
ちなみに、残念ながらフロレンツ君は風邪で休みだ。」
「それで、副会長って何やればいいのですか?」
「基本的には僕の補佐だね。会長不在時の職務代行や各部門との調整もお願いすることになる。ただ、日常業務は書類の確認や仕分けが中心かな。」
「それならなんとかやれそうです。」
「それはよかったよ。それじゃあこれからよろしく、イリス君。」
「…エリー、あとで覚えててね。」
「あら、何のことでしょう?」
「とぼけないでよ〜!」
エリーゼは涼しい顔で紅茶を口にした。
こうしてイリスは、本人の予定にはまったくなかった生徒総会副会長に就任することになったのだった。




