第21話:鉄路の終着点、東京へ
国府津の冷え切ったトタン倉庫に響き渡った一発の乾いた銃声。その刹那、緊迫の極みに達した空間の中で、蒼生は恐怖をねじ伏せるように猛然と踏み込んだ。狙いすました一撃がリーダー格の男の腕を正確に捉え、痛烈な衝撃が走る。
「ぐっ……がああッ!」
男の絶叫が倉庫の天井へと反響し、冷酷に引き金にかけられていた指が力なく緩む。手から離れた鉄の銃器が、コンクリートの床へと鈍い音を立てて転がり落ちた。
形勢の逆転を悟った残りの部下たちは顔面を真っ青にし、恐怖に膝を屈してその場に崩れ落ちる。蒼生は一瞬の隙も逃さず、敵の足元に投げ出されていた革のトランクを、まるで我が身をかばうように力強く拾い上げた。
ずっしりと手に馴染むその革の重みは、名古屋の巨大な設計図、浜松の物資リスト、箱根の密室で突き止めた隠された真実、そして平塚の夜やこの国府津の冷たい風の中で、二人が命がけで繋いできた「証の重み」そのものだった。
「蓮、怪我はないか……っ!?」
蒼生は激しい息を整えながらすぐに振り返り、冷たい床に身を伏せていた蓮の手をしっかりと掴んで、強く引き起こした。
蓮は青ざめた顔を少しだけ上げ、しかしまっすぐに蒼生を見つめ返すと、心の震えをぐっとこらえて力強く首を縦に振った。
「はい……私は、大丈夫です。神山さん、そのトランクは……!」
「ああ、無事だ。連中の野望を粉々に打ち砕くための証拠も、私たちの誇りも、すべてここにある」
蒼生の瞳に宿っていた極限の緊張がわずかにほどけ、いつもの揺るぎない自信と、どこか不敵な笑みが戻ってきた。
二人はもはや振り返ることなく、気絶した男たちをその場に残して薄暗い倉庫街を駆け抜け、東海道線のプラットホームへと急ぎ足で戻った。
ちょうどその時、最終区間を走り抜けてきた黒光りする蒸気機関車が、白い蒸気を盛大に噴き上げながら、ガタゴトと重々しい音を立ててホームへと滑り込んできた。
車掌が鳴らす出発の鐘が、冷たい海風の中にカンカンと心地よく響き渡る。
「さあ、行くぞ、蓮。私たちの旅の本当の終着点へ、連中の黒幕をその手で引きずり出しに」
「はい……最後まで、お供します!」
二人は客車へと飛び乗り、汽罐車が再び力強い汽笛を鳴らすのを聞きながら、硬く並んで座席に腰掛けた。
窓の外の景色は、相模の国から次第に近代的なレンガ造りの建物や、行き交う群衆のざわめきへと移り変わり、日本の中枢である「東京」の街並みへと確実に近づいていく。
すべての謎を解き明かし、組織「黄昏」との因縁に完全なる決着をつける最終幕――。
運命の東京ステーションは、もう、すぐ目の前まで迫っていた。
(※本作に登場する組織、事件、機密文書、およびスパイ工作に関する描写はすべてフィクションであり、実際の歴史上の出来事や実在の人物・団体とは一切関係ありません)




