第20話:引き金と、血の代償
「伏せろ、蓮ッ!」
蒼生の絶叫と同時に、暗い倉庫の空気を鋭く切り裂く銃声が轟いた。
パーン!という耳をつんざく爆音が、古びたトタンの壁を激しく揺らし、二人の頭上の空間を鉛の弾丸が容赦なく貫いていく。
「きゃっ……!」
蓮は反射的にその場に崩れ落ち、冷え切ったコンクリートの床に身を伏せた。脳裏に直接流れ込んでくる男たちの殺意と狂気が、まるで濁流のように彼女の思考を押し潰そうとする。
(――殺せ! 邪魔者をここで消せ!)
(――トランクを取り返し、証拠ごと灰にするんだ!)
「くそっ……!」
蒼生は歯を噛み締め、怒りに満ちた瞳で目の前の敵を睨みつけた。
先ほどの喧嘩で見せた衝突など、この命のやり取りの前にはすでに霧散している。ここにあるのは、狂気的な暴力で自分たちの歩んできた軌跡を踏みにじろうとする「黄昏」への、剥き出しの敵意だけだった。
蒼生は一瞬の隙を突き、持っていたインバネスコートの裾を翻しながら、一番手前に立っていた男の懐へと滑り込んだ。
「なっ、速い――!?」
男が再び銃口を向けようとした瞬間、蒼生の鋭い手刀が男の手首を正確に打ち抜いた。
ゴンッ、という鈍い音とともに男の手から銃が弾け飛び、そのまま蒼生の鮮やかな関節技によって床へとねじ伏せられる。
「ぐあっ……!」
「お前たちの仲間が持っているそのトランクは、私たちが血の滲むような思いでここまで運んできた真実の塊だ。そんなもの、お前たちの勝手な暴力で終わらせるわけにはいかないんだよッ!」
蒼生の怒号には、これまでの旅ですれ違い、苦しみ、それでも共に乗り越えてきたすべての重みが乗っていた。その圧倒的な気迫の前に、残された男たちは恐怖で顔面を蒼白にし、足を引きつらせて後ずさる。
しかし、奥に控えていたリーダー格の男が、歪んだ笑みを浮かべながら懐から別の銃を抜き放ち、震える蓮へとその銃口を向けた。
「ふっ……探偵気取りがいくら粋がろうと、ここで終わりだ。その女の命と一緒に、すべてを闇に葬ってやるよ!」
「――蓮ッ!」
蒼生が血相を変えて叫んだその瞬間、世界がスローモーションのように引き伸ばされた。
引き金にかけられた男の人差し指が、冷酷に力を込めようとしていた――。
(※本作に登場する組織、事件、機密文書、およびスパイ工作に関する描写はすべてフィクションであり、実際の歴史上の出来事や実在の人物・団体とは一切関係ありません)




