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転生最弱ポメラニアン、魔王を倒す  作者: キサラギトシ
第八章 ポメラニアンの最終決戦
143/144

143 三つの議題

 俺たち動物軍が『破魔の剣』を探すため、富士山麓にある真王教の施設に侵入してからおよそ二週間、1990年3月15日。

 この日はソビエト連邦のミハイル・ゴルバチョフ最高会議議長がソビエト連邦大統領に就任した日でもある。


 この間のニュースは、3月3日夜に長野県で起こった毒ガス事件、いわゆる「サリン事件」一色となった。

 死亡者はこの時点で10人以上、負傷者はおよそ1000人。俺が記憶している、前世の事件よりも犠牲者、負傷者共に増えているようだった。


 そんな中、俺たち動物軍と公安警察はひとつの目標に向け、会議を行っていた。

 会議といえば聞こえはいいが、この日の会議は多摩川18地区にある廃工場に椅子を並べているだけだ。流石に3月の夜に、いつもの送電塔下で会議を行うには気候が厳しすぎるためだ。


 参加メンバーは、人間は佐藤パパさんとその部下の相田美穂さん。

 動物側は、動物軍の新たな総帥となった、シェトランドシープドッグのアフロディーテと多摩川18地区の主、ウシガエルのウシダ師匠。そして勇者であるポメラニアンの俺、モフ。たったこれだけだ。


 賢者ソース亡き後、我らが動物軍の暫定リーダーとなったウシダ師匠だが、その実、実際のリーダーである「総帥」はアフロディーテだと本人から聞いたが、その事実は他のメンバーには伏せられている。彼女によると、我が軍に「魔王軍のスパイ」が紛れ込んでいる可能性が高いというのだ。

 だから、他のメンバーは誰一人(一匹)としてこの会議に参加させなかったのだ。


「それでは、始めます。佐藤さん、よろしくって?」

「はい、お願いします」


 アフロディーテの仕切りで会議が始まる。彼女は前世では浅井長政と織田信長の妹・お市の息女にして徳川2代将軍、徳川秀忠の正室だった「お江の方(崇源院)」だ。日本史に登場する女性の中でも特に波乱万丈な人生を送った彼女だが、その後転生を繰り返し、今はシェトランドシープドッグに生まれ変わっている。


 対する佐藤パパさんは、前世で俺が飼っていた犬、モップだ。人間と犬が逆転し、こうして会議を行っている光景は、考えるととても奇妙だ。

 まあ俺も元は人間、そして今はなぜだか「勇者」という、信じられない波乱の生活なのだが。


「まず、今日の議題は大きく3つあるわ。一つ目は『魔王軍のスパイを炙り出す方法』。二つ目は『今後の魔王軍への対処方針』そして三つ目は『破魔の剣の奪還方法』ね」


 俺とウシダ師匠、パパさんと相田さんは大きく頷いた。


 まず一つ目だが、アフロディーテの言う通り、『魔王軍のスパイ』を炙り出さない限り、俺たち動物軍がどんな作戦を練ろうと、魔王軍に筒抜けとなってしまう。これでは、作戦の立てようがない。まずはこれが急務なのは間違いないし、その上であと二つの議題を論じなければならないだろう。


 そう思った俺が、そのことを発言しようと口を開きかけたとき。


「まあ、スパイが誰なのかは大体わかっているんですけどね」

「そうじゃな。まず間違いなかろう」


 2匹の発言に、パパさんと相田さんも深く頷いている。あれれ、ちょっと待ってよ。

 もしかして、俺だけがスパイの存在に気づいていたかったの?


「ちょっと待ってください。俺、誰がスパイなのか知りませんよ?」

「当然じゃ、二の家来よ。そなたが知らぬことが、この作戦の肝なのじゃからのう」

「どうしてですか? そもそも先日のお話では、アフロディーテ様も『まだわかりません』とおっしゃっていませんでしたか?」

「そなたにそう伝えたことが、スパイの炙り出しの一つなのじゃ。そなた、私にそう言われてから、誰ともちゃんと話をしておらぬだろう?」

「……はい、確かにその通りですが……」


 誰がスパイか、俺にはまったく見当すらついていない。正直、ずっと一緒に戦ってきたサバトラや、くーちゃん、チャトランを疑うなんて……と思うが、俺は決して勘がいい方でもない。だから、少なくとも自分からは誰にも話しかけていないのだ。


 俺の態度が不審なことに、サバトラは少し怒っていたし、チャトランは悲しげにしていたけど、こればかりは仕方ない。


「お前のその態度で、スパイはきっと『自らが疑われている』と気づいておるぞ?」

「えっ!? じゃあ逆効果じゃないですか!」

「いや、だがそなたはスパイの正体に気づいておらぬ、というのもスパイ本人に気づかれておるだろう。それが、今回の作戦の肝のじゃ」

「……よくわかりませんが、アフロディーテ様の言う通りに従います」


 わからないものは、わからない。これが作戦だというなら、俺はそれに乗っかるだけだ。


「さて、佐藤殿。二つ目の議題である『今後の魔王軍への対処方針』じゃが、まずは公安警察が調べた現状を確認させていただきたいのう」

「もちろんです、アフロディーテ様」


 パパさんが相田さんに頷くと、彼女は胸ポケットから手帳を取り出し、読み上げた。


「サリン事件ですが、現在、警察の操作では、真王教の関与を伺わせる物的証拠や目撃証言は、現在のところ上がっておりません」

「ふむ、そうなのか」

「監視カメラとか、そんなのにも引っかかってないんですか?」

「残念ながら、現場近くの監視カメラはそもそも台数がほぼゼロに近いのです」


 俺が生きていた令和では、監視カメラの台数も多く、ドライブレコーダーの搭載率も増えているため、事件がどこで発生しても、何かしらの映像が残っている場合が多い。だがこの時代、平成2年では、それは望むべくもないらしい。


「現在、真王教の関与を疑っているのは、公安警察のみです。長野県警は今のところ、まったく見当違いの捜査を行っており、マスコミも独自に勝手な容疑者を報道しているような状況です」


 そうだ、確か俺の記憶でも、このサリン事件では無実の人間が公然と犯人として扱われ、冤罪未遂事件となってしまったはずだ。

 俺の知る事件とは、発生した年も詳細も違うが、やはり同じような流れを辿っているようだ。


「して、公安警察はどのような見解なのじゃ?」

「はい。公安としては、間違いなく真王教による犯行だと断定しております。詳細はこの場でも申し上げられませんが、富士山麓のハジュンにあるサリン生成施設が、その証拠となるでしょう」

「なるほどのう。では、真王教についてはこのまま人間ども、つまり公安警察にお任せしておいても良さそうじゃな」

「はい」

「では、あとは『魔王軍』だけじゃな。これは、ワシに任せてくれんか、アフロディーテ様」


 ウシダはそう言うが、動物軍にスパイがいる現在、魔王軍に対して何らかの動きを行うのは危険ではないのだろうか。俺がそう尋ねると、ウシダの代わりにアフロディーテが答えた。


「そこで、三つ目の議題が生きてくる。『破魔の剣の奪還方法』じゃ。これはそなた、モフに任せよう。いま一度、そなたは富士山麓の教団施設に向かって欲しい。そして、一刻も早く『浜野剣』を手に入れて欲しいのじゃ」

「はい、もちろんそのつもりです。でも……」

「スパイは、お主のチームに入れる。お主は魔王軍のスパイと共に動くのじゃ。そうすることで、ウシダは他の動物軍に対応することができるからのう」

「はい。ですが……スパイが誰かもわからず、そんなことが可能なのでしょうか?」


 誰がスパイか俺が知らないことで、寝首を掻かれる可能性もあるのだ。


「そなたは、スパイが誰かを疑いつつ、とにかく『破魔の剣』を奪還することだけを考えて欲しい。スパイの被り出しに関しては、私に考えがある」


 どうやらアフロディーテには何かしらかの作戦があるようだ。それならば、俺に異論はない。


「わかりました。それでは、俺は全力で『破魔の剣』奪還に命をかけます」

「その意気じゃ。では、お主が率いる『破魔の剣』奪還チームのメンバーを伝える」


 奪還メンバー、その中に、魔王軍のスパイがいるのだ。俺は緊張しながら、アフロディーテの言葉を待つ。


「リーダーはお主、勇者モフ。サブリーダーは、くーちゃん。メンバーは、サバトラ、チャトラン。そして……」


『破魔の剣』は、魔王軍の四天王の中でも最強の動物、ツキノワグマの球磨嵐(くまあらし)が守っている。ならば、スパイの存在は別として、順当なメンバーではある。だが、最後に告げられたメンバーは、俺にはまったく予想外だった。


「そして、ナツキ。以上5匹で、破魔の剣を奪還して参れ!」

「どうして、ナツキが?」


 なぜ、戦闘メンバーではないヨークシャー・テリアのナツキがこのチームに入る必要があるのだろうか。当然の俺の疑問に、アフロディーテは薄笑いを浮かべるのみだった。

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