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転生最弱ポメラニアン、魔王を倒す  作者: キサラギトシ
第八章 ポメラニアンの最終決戦
141/144

141 平成の魔王

 私の意識はあの時、途切れたはずだった。

 私が大好きだったあのポメが、テレビのコマーシャルに出て『進化した勇者がお前を倒す。魔王よ、かかってこい!』と言った、その時。


 もう取り返しがつかない。そう思った時から、私の視界は暗くなった。

 その後のことは、何一つ覚えていない。


 はずなのに。


 突然、声が聞こえた気がしたの。


「プー、俺だ、モフだ!」


 ……モフって誰だっけ? ……ああ、ポメくんのことか。

 何なの? 私、眠いんだけど。


「俺は今でも、君のことが好きだ!」


 ……好きって、なんだっけ?

 今でも、何が好きなの? キミってなんだっけ?


 えっっっ!?


 ポメくんが、私のこと、好きだってこと??

 ちょ、ガチで??? めっちゃ照れるんですけど。

 すごい大声なんですけど! みんなに聞こえそうなんですけど!ポメくん、ヤバ過ぎなんですけどぉ!


 でも、気がつくと、私は呟いていたの。


「……………………ポメ……………………」


 その瞬間。私の目の前が、急に明るくなった、ような気がした。

 そこは、いつもの家ではなかった。今まで見たこともない場所だった。


 私は、誰かに抱かれているようだ。そして目の前には、数え切れないほどの人、人、人……群衆だ。私は高いところにいて、人々の熱い視線を浴びていた。

 ……何、これ?


 見上げると、汚いひげ面の男がニヤニヤと笑いながら群衆に手を振っている。

 いつもの紫の変な服だけど、襷を掛けている。

 襷には「真王党党首 夜麻騨昭賢(やまだしょうけん)」と書いてあった。


 なにこれ。まるで選挙みたい……じゃなくって、選挙じゃないのコレ!?


 何が起こっているのか、さっぱりわかんない。わかんないけど、でも一つだけわかっていることがある。それは……ポメが、私のことを好きだって言ってくれたってこと。

 ポメ……ポメに、会いたい……!


 私はひげ面のおっさんの手をすり抜け、選挙カーの上に降りると、そのまま急な階段を駆け降りた。ここがどこかわかんないけど、すごい人混みだ。たぶん、東京の大きい街のどこかだと思う。でも、構わない。私は、ポメを探すんだ。


 私が降りていくと、下にいた人たちがビックリして道を開けてくれた。とにかく、走ろう。ここから一旦、離れよう。


 私は歩道を駆け、トンネルを潜った。ゴミゴミした飲み屋街みたいな道をさらに駆け、遠くに見えるビルを目印に走った。あれ、確か建設途中の東京都庁だよね?

 ということは、ここは新宿、かもしれないなんて思いながら。


 走りながら、考えていたのは白いフワフワした犬のことだった。もちろん、ポメのことだ。

 どこに行けば会えるんだろう? 前は確か、江ノ島にいたんだよね。ここは新宿でしょ? そうだ、多摩川がどうとか言ってたっけ? うーん、ちょっと思い出せないな……


 そこまで考えたとき、私は走るのを止めた。


 あれ? さっき、ポメが私に話しかけていなかったっけ?

 もしかして、あの人混みの中に、ポメがいたのかも……

 あー、私のバカバカ! なんで逃げ出しちゃうんだよぉ!


 その時、私の中にある閃めきが起こった。

 なんだかずーっと記憶が無かったみたいだけど、ボンヤリといろいろなことが思い出されてくる。


 そう、私ってば、魔王だった。

 いろんなチカラ、そういえば使えたっけ。ええと……


 そうそう、動物を操ったりできるんだよね! べんりー!

 ……って、よく考えたらコワイよね、このチカラ。


 実は、操れるのは動物だけじゃないんだよねー。私が「こうして欲しい」ってお願いすると、人間も言うことを聞いてくれるんだよね。魔王べんり!


 ……なんだか自分がコワイ。けど、今は難しいことを考えるのを止めておこう。今は、ポメに会いたい。会って、私もポメに言いたいことがある!


 もちろんそれは……うふふ♡


 頭の中をピンク色にして、そんな暢気なことを考えていた私。きっと、顔もだらしない状態になっているだろう。良かった、トイプードルで。人間だったら、周りの人にだらしない顔の女がニヤニヤしているのを笑われてしまうよぉ。


 だけど、その時だった。

 大きな羽音がしたかと思うと、歩道で立ち止まっている私のすぐ近くに、バサバサと大きな羽音と共に、一羽のカラスが舞い降りた。


 そして、そのカラスはいきなり私に話しかけてきたんだ。


「……平成の魔王よ。こんなところで、何をしておる?」


 か、か、カラスがしゃべった! ……って、おかしくないか。私も犬だし、実はこの世界、動物はみんな基本、共通語なんだよねー。そんなこと、人間時代はまったく知らなかったよ。


 じゃなくて! やっぱり、ちょっとおかしい。何か、違和感がある気がする。

 私は違和感を求めて、話しかけてきたカラスをじーっと見つめる。


 ん? あ、そうか。わかっちゃった。このカラス、足が、3本ある。

 あれ? 確かそんなカラス、神話か何かでいなかったっけ……?


「何を黙っておる。答えよ、平成の魔王よ」

「えと……ごめんなさい。わたしと、お知り合いでしたっけ?」

「なんと……ヌシは、ワシのことを忘れてしまったというのか?」


 3本足のカラスは驚いたように首を振ると、私を見つめた。


「平成の魔王よ。なぜヌシは、ワシのことを忘れることができるのだ……不思議でならぬ。まあ良い。ワシは、八咫烏(やたがらす)じゃ」


 八咫烏(やたがらす)? ええと、よく覚えていませんが……うん、なんか日本神話か何かに出てくるカラスだよね。


「はい、八咫烏(やたがらす)さん、こんにちは!」


 私は明るく話しかけた。対して、八咫烏(やたがらす)さんは深いため息をつく。


「平成の魔王よ……とんでもないことをしてくれたな。歴史が、ヌシのせいで捻じ曲がってしまったぞ。今から駅前に引き返しても、群衆は解散してしまった。もう、遅いのじゃ」

「歴史が捻じ曲がる……ですか?」


 キョトン、だよ。何言ってるんだろう、このカラスちゃん。


「仕方ない。新たな計画を立て直すゆえ、ワシと共にきてもらおう。今後はすべて、ワシの言葉に従うのだ」

「え、イヤなんですど……?」


 これが、私と八咫烏(やたがらす)の最初の出会いだった。

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