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転生最弱ポメラニアン、魔王を倒す  作者: キサラギトシ
第七章 ポメラニアンの苦悩
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138 謎の文字列

 第7ハジュンは、まるで体育館のような広さを持つ巨大な建物だった。魔王軍や真王教教徒の見張りの数はかなり多かったが、潜入捜査に長けた私、チャトランとネズミのマッキーにとっては、まるで住み慣れた我が家に戻るが如く簡単な潜入だった。


 マッキーと私はあらかじめ打ち合わせた通り、建物の両端から中心に向けて怪しそうな場所を捜索していく。


 だが結論から言ってしまえば、何か大事なモノを隠しているような気配は感じられなかった。でも、なぜこんなに警備が厳重なのだろうという疑問が残る。


 建物の中央にある機械の陰で合流した私とマッキーは情報交換を行った。


「チャトラン様、ここはたくさんの機械や薬品が置いてあるだけのようでチュね」

「そうだな。特に誰がが住んでいるというわけでもなさそうだ」

「なんであんなに見張りがいたんでしょうね?」

「うむ、確かに気になるのう……」


 私はある程度、人間の文字が読める。とはいえ、漢字までは流石に理解していない。ただ、アルファベットはなんとか読めるようになった。英語の単語までは理解していないがな。


「この機械、何をつくってるのでチューね?」

「うむ、さっぱりわからんが。佐藤さんやウシダ師匠ならわかるかもな」


 とりあえず私は、この機械に書いてある型番なのか何なのかはわからないが、黒いマジックで機械の中心に書いてある文字列を覚えることにした。

 その文字列は「C4H10FO2P」とある。何度か頭で復唱したあと、私とマッキーは本部へと戻ることにした。


 ◇◇◇


 上からは教団ナンバー3の恭子、下には魔王四天王最強の球磨嵐。

 そして愛するロイエンさんは東京でまだ入院中。あ、これは今関係無いニャ! ヤバい、混乱してる二ャ。


 階段から飛び降りたら球磨嵐に見つかって、あの巨大な爪で(えぐ)られるか、ひと噛みされてオヤツ代わりにされちゃうニャ。

 ど、どうしようかニャ……


 迷っている間に、階段を降りてきた恭子がもう二段上にいる。もう間に合わないニャ! と思った僕は……そのままその場で丸まった。なんとかこの場でやり過ごすしかないニャ……


 コツン。恭子が一段上に降りてきた。どうか、見つからないように。そして……


 コツン。恭子が僕が丸まっている段に降りた音がした。

 と、次の瞬間。

 自分の尻尾の先に、激痛が走った。


(んっんっ、ん〜〜〜〜〜〜!!!?)


 恭子のハイヒールのピンヒール部分が、僕の尻尾に乗っかったのだろう。ちぎれるような激痛だったけど、声をあげたら一巻の終わりだ。

 丸まっている僕の体の中心にある顔に、涙がブワッと湧き出した。


 コツン。激痛が和らぐと、恭子はさらに階段を降りて行った。

 ……ふう、気付かれずにすんだらしいニャ。

 痛みでジンジンする尻尾を引っ込め、僕はさらに丸まって微動だにしないまま胸を撫で下ろした。


「クマちゃん、あたし、ひま〜」

「……恭子。ずいぶん飲んでいるようだな」


 恭子と球磨嵐の会話が聞こえる。恭子という女、まさか動物語が話せるとは思わなかったニャ。この女、油断できないニャ。


「ねえ。来月までどうせヒマなんだからさ、アタシ東京に遊びに行ってもいいかな?」

「何を悠長なことを。宗祖に頼まれている仕事はどうするんだ?」

「そんなの、アンタがいればなんとかなるじゃんよ〜。あたし、芝浦のゴールドに踊りに行きたいのよね」


 詳しく無いけど、簡単に説明するニャ。

 芝浦のゴールドとは、たしか若い人間が踊りまくる「ディスコ」とか呼ばれる空間二ャ。隣の多摩川16区のナツキの飼い主であるギャルが毎週行っているって聞いたことある二ャ。


「何を悠長なことを……お前、アレがもし奴らに奪われたら一巻の終わりだぞ?」

「大丈夫よ〜! アンタの檻に入ってくる動物も人間もいるわけ無いじゃん!」


 アレを奪われたら?

 アンタの檻?

 この話って、もしかして……


 僕はこっそり顔を動かし、建物の奥にあるツキノワグマの檻を見る。球磨嵐は建物内では檻に入る必要はないらしく、自由に動き回る許可を得ているようだけど……


 その檻の中心に、細長い、何か紫の布で包まれた棒状のものが見えた。

 あ……あれだニャ! あれはきっと『破魔の剣』だニャ!


 だけど、球磨嵐は恭子の話に呆れたように首を降ると、無言で檻の方に戻っていき、自分から檻に入ると、その袋の上にゴロリと横たわった。


 ニャるほど。球磨嵐が『破魔の剣』を今は守っているということか。

 これは……僕じゃ絶対に回収不可能だニャ!


 とりあえず本部に戻って相談だ二ャ、と僕は痛む尻尾に気を取られながらも、音を立てず2階に登り、窓から外に出て本部へと向かったニャ。


 ◇◇◇


「なるほど。第2ハジュンと第7ハジュンには謎の機械が置いてあるということじゃな」

「機械ですか……相川、その機械、仕入れ先か製造元を調べたいな」

「班長、畏まりました」


 相川さんが本部にある黒電話で、公安警察の担当部署に連絡を始めた。


「教団の奴ら、何を企んでいるのやら……ワシにはとんと想像もつかんのう」

「そうですね。賢者様なら、何かご存じだったのかもしれませんが……」

「パパさん!」

「あ! ウシダ師匠すみません、決してそういう意味では」


 頭がいいのに、ちょっとポカをすることもある佐藤パパだ。でも謎の機械って、確かに気になるなぁ。


「モフ、ちょっといいか?」


 チャトランが神妙な顔で話しかけてきた。


「実はさっきは言ってなかったのだが、機械に文字列が書いてあったのだ。これ、佐藤さんに伝えたほうが良いと思うか?」

「文字列? うん、関係あるかわかんないけど、一応言った方がいいんじゃないかな」

「私はあまり文字の解読に自信がないのでな……」


 そう言いながらも、チャトランは佐藤パパに話しかけている。

 その時、民家の玄関が開く音がした。見ると、くーちゃんの上にサバトラが乗っかっている。おいサバトラ、ダルメシアンの上に猫が乗るのはいいけど、くーちゃんはお前よりも体が小さいんだから、それはやめた方がいいんじゃないか……?


「大変だニャ! モフ、第6ハジュンに球磨嵐と、恭子という女がいたニャン!」

「何だって?」

「それだけじゃないニャン! 『破魔の剣』は、球磨嵐が24時間体制で守っているニャン!」

「何だって!?」


 最後の「何だって!?」は俺が言った言葉ではない。チャトランと話していた佐藤パパさんが、珍しく声を張り上げて驚いていた。


「佐藤どの、どうなされた?」

「今、チャトランさんから聞いた文字列なんだけど……」

「文字列じゃと?」

「彼女は、機械に『C4H10FO2P』と文字が書いてあったと覚えていてくれたのですが……」


 何だ、その文字列。まったく意味がわかんないんだけど……

 だけど佐藤パパは一つ大きく息を吸い込むと、落ち着いた声で話した。


「この『C4H10FO2P』は、化学式です。1938年にナチス・ドイツで開発された化学兵器で、一昨年1988年にイラク軍が使用したとされるものと同一です」

「化学兵器、だって……?」


 ここ数ヶ月、俺の中でずっと引っかかっていたこと。それが急にその姿をあらわしてくるような、そんな感覚がある。


「この化学兵器の名称は『サリン』と呼ばれています」


 すべて思い出した。

 俺の前世で1995年に起こった「地下鉄サリン事件」のことを。


 あの事件を引き起こした教団と、今回俺たちが敵に回している真王教の教団が似通っていることも。

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