137 第6ハジュンの獣
第2ハジュンに潜入した俺、ヴァイキングはまずゆっくりと入り口から全体を把握する。
建物自体はまるで倉庫のようになっていて、たくさんの段ボール箱やクリアケースが置いてあった。建物自体は一階建てだが、下に降りる階段が見える。どうやら地下室があるらしい。
一階の奥の部屋からは信者の気配がある。何やらいいニオイがしているので、多分食事の準備をしていると思われる。
俺は足音を立てずにその部屋に近づき、耳をすませた。男、男、男、女。4人の声が聞こえるが、女性が他3人の男に食事を配っているところらしい。
テレビの音も聞こえるので、リビングみたいになっているのだろう。
俺は爪を立て、少しだけ引き戸を開け、中を覗いてみた。中は畳敷きの8畳くらいの部屋で、奥に簡易キッチンと冷蔵庫がある。
つまらなそうにニュース番組をみている3人の男たちと料理を運ぶ女が見えた。
部屋の注意深く観察してみるが、押入れや戸棚などはみつからない。まさか冷蔵庫に『破魔の剣』を隠すわけがないので、この部屋には無いとみて間違いないだろう。
引き戸を閉じ、俺は地下へと向かう。元々、モノを隠すならこっちが本命だろう。
階段を降りると、コンクリートで囲まれた地下室が見えた。
地下室には、何か大きな機械が据え付けられている。
「何の機械だろ……?」
様々なスイッチが取り付けられた緑色の筐体には、何かを入れる大きな入口と扉がある。扉は人間がまるごと入るほどの大きさがあった。
「何か書いてあるな……えっと、英語か。俺、読めないんだよな……」
俺はひらがなとカタカナはなんとか読めるけど、漢字や外国語は専門外だ。いや、動物でひらがなが読めるなんて、そうはいないぜ? と誰にともなく言い訳をしながら、機械の陰や置いてある段ボール箱、薬品などを見て回るが、何度見返しても『破魔の剣』が隠されていそうな場所はなかった。
「どうやら第2ハジュンは空振りのようだな。よし、戻ろう」
トラブルが起こる前に退散することを決め、俺は外に出るとドンキーと合流し、本部に向けて移動を始めた。
◇◇◇
「ここらしいな。どうするサバトラ? あの人間、おびき寄せるか?」
第6ハジュンの手前100メートル程にある草むらに隠れながら、ダルメシアンのファンキーが尋ねてきたけど、僕は首を振った。
「大丈夫だニャ。2階の窓の鍵が開けっぱなしになっているのが見えるから、そこから潜入するニャ」
「オッケー、じゃ俺はここで待機してるぜ」
「任せろニャ」
ここ第6ハジュンは真王教宗祖の夜麻騨の別宅だとされる2階建の建物だけど、見た目は大きなプレハブみたいな粗末な倉庫だ。
その2階部分が住居として使われてるように外側からは見える。
僕は外側に張り出しているエアコンの室外機に飛び乗ると、そのままエアコンのパイプに爪を引っ掛け、2階の窓まで登っていく。
エアコンの穴を開ける場所がないため、窓の一部を使ってパイプを室内に取り込んでいるようだ。
「不用心だニャー。2階の窓からだって、泥棒は入ってくるのにニャー。ま、僕ほどの大泥棒なんて滅多にいないけどニャ、なぁ不二子ちゃ〜ん」
テレビのアニメで見た大泥棒のセリフをブツブツと呟きながら、僕は窓の枠に指を引っ掛けると、静かに窓を開けていく。電気が消えているので、人がいるということは無いだろう。
7センチほど隙間を開けると、僕は頭を突っ込んでそのままウナギのようにするりと室内に入り込んだ。
部屋は寝室のようで、大きくて豪華なベッドが置いてあった。
「潜入成功ニャ。……とヤバいぞ、隣の部屋に誰かいるニャン」
入ってから気づいたのだが、隣の部屋との区切りは襖になっていて、その襖から蛍光灯の灯りが漏れている。それに、テレビの音もする。
忍び足で襖に近づき、耳を当ててみたけどテレビの音しか聞こえない。仕方ない、こっちも少しだけ開けて覗いて見るニャン。
爪を立てて1センチほどの隙間を開け、中を覗いてみると。
その部屋は僕の予想に反して、豪華な部屋だったニャン。
大きな革張りのソファにガラステーブル。大型のプラズマテレビに高価そうな絵画が飾ってある。そしてソファには、女が一人座っていた。
(……見たことあるような気がするけど、誰だったかニャー?)
女は口に赤ワインを流し込みながら、何かの映画を見ているようだ。爆発したような頭の博士と軽薄そうな若者が、銀色の車の前で何か言い争いをしているようなシーンだ二ャ。この映画、僕もみたことあるニャ!
説明するニャ。
この女が見ているのは、1989年に大ヒットした続編映画「バック・トゥ・ザ・フューチャーPart2だ二ャ。僕の飼い主様たちは映画好きで、新しい作品がでるとビデオパッケージで買ってきて夫婦揃ってみるのが休日の楽しみ何だニャ。僕もこれ見たけど、面白かったニャ!
なんだかあまり説明になってニャい気もするけど、今はそれどころじゃないニャ。
この女、誰だっけ。ええと、ええと……
あ、そうだ! 佐藤さんに写真で見せてもらった女だニャ。たしか宗祖の娘で、恭子とか言ったかニャ? 実質、教団のトップ3だとか聞いたことあるニャ。
ニャるほどね。この辺りのハジュンを取り仕切っているのは、この女だということだニャ。俄然『破魔の剣』がある可能性が高くなってきた二ャ!
でも、この部屋を探すのは今は難しいと思った僕は、恭子が酔い潰れて眠るのを待ってから捜索しようと決め、まだ見ていない1階を見てみようと決めた。
映画の音に紛れるようにこっそりと部屋の後ろを抜け、反対側のドアが少し開いていたのをいいことに一気に階段へと向かう。
階段は金属製の階段で、そのまま一階の倉庫スペースにつながっているようだった。
だけど、階段を降りる途中で僕は急に心臓が止まるほどビックリしたニャン!
この気配……何か、とても恐ろしい何かがいるニャ。
階段の途中で息を止め、音を立てないように慎重に1階を見渡す。
すると、奥のスペースに大きな『何か』が規則的に動いているのが見えた。
それは一見、巨大な毛皮のように見えた。その毛皮が、まるで息をしているかのように上下に動くと、たまに「ガガ……」と凶暴そうな獣の声がする。
あれは……僕は今度はすぐに思い出したニャ。
魔王四天王最強、ツキノワグマの球磨嵐だ。
こいつに見つかったら、僕の命なんて3秒も持たない二ャ!
と、突然上の方からドアの開くガチャっという音がしたかと思うと、フラフラと恭子が降りてくる。しかもその音を聞いた球磨嵐がピクッと動き、ムクリと体を起こしてこっちを見るのがわかった。
激ヤバだ二ャ。大泥棒サバトラの運命やいかに!? 次回に続く二ャ! なんて悠長なことしてる場合じゃ無いニャーー!




