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転生最弱ポメラニアン、魔王を倒す  作者: キサラギトシ
第七章 ポメラニアンの苦悩
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129 サバトラの覚悟

 俺たちが大船の湘南第4地区本部にたどり着いたのは深夜3時。見覚えのある広い庭を持つ猫屋敷の門の辺りはまさに動物たちの地獄絵図と化していた。

 数多くの動物たちが目を潰され、呻いていたり虫の息となっていたりした。


「これはひどい。魔王軍だか動物軍だかわからないけど、とりあえず手当てを要請しないと」


 パパさんが深夜なのに動物病院に電話をする間、俺たちは目を潰されている犬の1匹に話を聞いてみた。


「多摩川18地区のモフだ。何があったか話せるか?」


 その大型犬、グレート・ピレニーズは白い毛を真っ赤に染め、激痛に顔をしかめながらも答えてくれた。


「襲ってきた魔王軍は30匹ぐらいだった。俺たちは大型犬が多かったから、最初は優勢だったんだ。だけど、いきなりアイツが裏切ったんだ。俺は最後にやられたから、一部始終を見ていた」


 事前情報によると、アイツとはきっと彼女のことだ。俺は横目でサバトラを見たが、意外にも冷静に話を聞いている。


「ロイエンの奴はいつも冷静なのに、なんだか今夜はおかしかった。あいつが俺たちを裏切ったとは思えないが、事実そうなっている」

「魔王軍を率いていた奴は、どんな奴だったか覚えているか?」

「たぶん一番後ろに立っていた柴犬だ。俺が最後にロイエンに目を潰されて転げ回っていた時、ロイエンと何かを話していた。部下になれとか、そんな感じだった」


 魔王軍にも、柴犬はたくさんいるだろう。だけど魔王軍を率いるぐらいの実力を持つ柴犬ならば、思い当たるのはアイツしかいない。

 豆之助が、今回の襲撃の首謀者とみて間違いないだろうと俺は見当をつけた。


「魔王軍はどこにいったかわかるか?」

「すまん、俺はその後ずっと痛みで転げ回っていて、そこまでは……」

「わかった、すまなかった。まもなく医者がくるだろうから待っていてくれ」


 一緒に話を聞いていた賢者様はしばらく何かを考えていた。


「ソース様、奴らはどこに行ったのでしょうか。俺たちはどうしましょうか?」

「……うむ。この家の中にいたはずの子猫や老猫たちも1匹残らずいなくなっている。多分じゃが、動物がたくさんいても見咎められない場所に連れ去られたとみて間違いあるまい」

「ここから近い魔王軍の拠点ですか」


 俺たちは魔王軍の全ての拠点を知っているわけではないが、ここ湘南第4地区、最寄りの駅でいうと大船駅の近くにある拠点といえば、あそこである可能性は高い。


「ロイエンさんや豆之助はきっと、鎌倉どうぶつ大聖堂にいるはずニャ」


 俺はサバトラに頷く。以前、俺とサバトラが潜入した魔王軍の拠点の一つ、鎌倉どうぶつ大聖堂は湘南第4地区にある。あの屋敷に動物がたくさん集められてもおかしくはない。


「パパさん、今、どうぶつ大聖堂はどんな状況なんでしたっけ?」

「公安の情報では、教団による厳重な警備が敷かれているそうだ。真王教の信者たちが多数で共同生活をしているという情報もある」


 賢者は俺に深く頷いた。


「なら、この足で鎌倉どうぶつ大聖堂に行くことで良いかな?」


 俺たちは賢者を連絡係としてこの場に残し、パパさんの車で移動を始めた。



 午前4時、車は鎌倉どうぶつ大聖堂の近くに停車した。

 屋敷に直接車をつけると俺たちの動きが丸見えになってしまうため、パパさんは車を100メートルほど後方に停めると、作戦を確認する。


「さっきの自動車電話で話は聞いていたと思うが、確認しよう」


 説明しよう。

 自動車電話とは1979年から始まった日本電信電話公社、後のNTTが始めた電話サービスのひとつで、当時巨大だった携帯電話を自動車に取り付けたものである。当時は非常に高額で、加入料は8万円、保証金が20万円、月額が3万円、そのほか6秒につき10円かかるなど、一部のお金持ちしか持つことができないものだったのである。


 ちなみにパパさんはお金持ちではないが、公安警察の支給で自家用車に電話を取り付けていた。その電話で移動中に公安と連絡を取り合っていたのだ。


「大聖堂には先ほど、ワゴン車が2台ほど入って行ったそうだ。門や庭には真夜中なのに照明が点けられている。予想通り奴らが戻ったとみて間違いはないだろう」


 俺とサバトラ、くーちゃんが頷く。


「さとさん おれたち どうすればいい?」


 くーちゃんの質問に一瞬、逡巡したように目線を外したパパさんだが、やがてサバトラに顔を向ける。


「サバトラくんは、止めても聞かないんだろ?」


「……あたり前ニャ」

「サバトラ! ダメだ、作戦を立ててからじゃないと」

「考えてみてくれ、モフ。サバトラくんを抑えたって、どうせ聞きやしないんだ。だったら、サバトラくんには自由に動いてもらった方がいい。周辺の動物軍に応援を呼びかけたとしても、今は早朝だ。集まるのは早くとも昼になってしまう」

「だけど、奴らは何匹いるかわかんないんだよ?」


 佐藤パパさんはそこでニヤリと笑った。


「早朝だから、向こうの信者も全員起きているわけではない。魔王軍の残党だって、あと20匹もいないんだろ? こっちには、勇者と戦士がいるんだぜ?」


 ハッハッハッ、とチワワのくーちゃんがパパさんの意見を肯定するように息をする。


「だけど、向こうには豆之助がいるんだよ?」

「あのいぬ おれにまかせて モフはほかのどうぶつ たのむ」

「僕は屋敷でロイエンさんを助け出すニャ」

「役割分担は決まったようだね。どうする、モフ?」


 普通なら、犬猫3匹で魔王軍に突入するなんて正気の沙汰じゃない。だけどパパさんの言う通り、こっちは精鋭揃いだ。

 俺は首に巻いたバンダナから進化の秘宝を取り出す。


「仕方ないなぁ。せいぜい暴れてみようか」

「頼むよ。湘南第4地区の敵討ちだ」


 俺とくーちゃんとサバトラは車を降り、鎌倉どうぶつ大聖堂へと歩みを進めた。


「ロイエンさん、僕が絶対に助け出すニャ」


 覚悟を決めたようにサバトラが呟く。おいサバトラよ、ロイエンさんは魔王軍に操られているんだぜ? と言いかけたが、どうせ言うだけ無駄だろうと思う。


「そうだな。どれ、いっちょ大暴れしてやるか!」

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