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転生最弱ポメラニアン、魔王を倒す  作者: キサラギトシ
第六章 魔王の誕生
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120 もう、取り返しがつかないね……

 私(魔王のマオちゃんだよ。ポメくんからはプーって呼ばれてるよ!)が魔王に覚醒してから、はや3ヶ月が過ぎた。

 今日は平成元年、 1989年8月10日。小学校は夏休み真っ盛りで、今日も午前中は瑠璃ちゃんと有栖川公園で遊んだけど、暑くてすぐに帰ってきた。


 瑠璃ちゃんは3ヶ月前まで白血病だったなんて信じられないほどの健康体だけど、この日は朝9時台から気温30度を超える猛暑で、暑さが堪えたらしく、めずらしく昼寝をしている。暇になった私は、家のリビングにトコトコと歩いて行き、テレビをボーッと眺めていた。


 流れているCMでは、変な着物を着た濃い顔の役者さんが変な歌を歌っていた。歌詞は「24時間戦えますか」だって。うっわ〜、この時代は24時間働かせるのが普通のブラックな時代だったんだね〜、なんて思う。


 ここ3ヶ月、いろんな報告が私のところに寄せられた。チベット犬の黒煙(ヘイヤン)はポメくん(今は飼い主さんに「モフ」っていう名前を付けられているけど、私の中ではずっとポメくんなんだ!)に会って、挨拶したみたい。


 私のチカラの一つ「夢で動物に魔王軍への参加を呼びかける」ってのも、私の意思に反して勝手に発信しちゃってるみたい。なぜわかるかって?

 カールが私のところにしょっちゅうやってきては「大宮支部、200匹の軍勢が集まりました」とか「まもなく横浜支部は300匹を超えます」とか言ってくるから。


 そんなに動物を集めてどうするつもりなんだろう……って、知ってるよ、ホントは。魔王軍を集めて、真王教と連携して、日本政府を転覆するんだよね。普段の私の意思とは別に、そのプランは着々と進んでいるの。


 それに私、たまに《《変になる時》》があるんだ。


 急に眠くなっちゃって、意識がなくなる。次に目を覚ますと、別の場所にいるの。でもね、その間の私って別のことをしているみたい。何してるかよくわかんないけどさ。


 自分が、ちょっと怖い。多分だけど、意識がない時の私は「私じゃない」んだと思う。予想だけど、魔王になっちゃってるんじゃないかな……


 私が私である時は、いつもこう言ってる。

「ポメくんには手を出さないで」「なるべくケンカはしないで」って。カールはそ

 それを聞くと「かしこまりました」って答えるけど、うーん、きっと嘘だ。


 カールは私のチカラをすっごく怖がってる。私が覚醒する前みたいに、舐めた態度はすっかり影を潜めた。だけど……本心はわかんない。


 それにね。

 私が私である時、例えば今みたいにいろんなことを考えて、自分の考えで行動しているときも、ふっとヤバい感情が浮かんでくることがあるの。


 急がなきゃ。もっと動物を集めなきゃ。教団をもっと広げないと。

 そして、勇者を倒さないと、って。すぐにハッと気がついて「何考えてるんだろ、私ってバカみたい」って思い直すんだけどさ。



 そういえば、6月ごろには変な報告もあった。

 カールが珍しく焦ったような表情で私のところに駆け寄り、


「勇者一行が、皇居で『進化の秘宝』を手に入れてしまったようです」


 カールによると、それは動物が進化することができる、大昔から伝わる宝物なんだって。なんだそれ、って思ったけど、カールの焦りっぷりを見ると、なにか大変なことなんだろうなって思う。


 私の感想は「ポメくん、勇者として頑張ってるよね〜。カッコイイな〜!」みたいなゆる〜い感じだったけど、さすがにそんなこと、口には出せないよ(笑)


 それと、私がこの3ヶ月で一番ビックリしたことは!

 テレビのコマーシャルに、ポメくんが出てきたこと!!


 その日は瑠璃ちゃんと一緒にリビングでテレビを見ていたんだけど、番組の合間のコマーシャルを見た時、私は心臓が止まりそうになった。


 だって、いきなりキュートなポメくんがコマーシャルに出てきたんだもん!

 魔王様の息の根を止めそうになるとは、ポメくん、やるな〜!(笑)


 それ以来、私は時間があればリビングに行ってテレビを見てる。ポメくんは江ノ島で会った時より少し大きくなって、毛もフワッフワで、しかも演技派!

 私が人間だったら、絶対この犬飼っちゃいたくなっちゃうよ〜。


 いま私がテレビを見てるのも「ポメくんのコマーシャル流れないかな〜」っていうのが一番の理由だ。大好きなポメくんに会いたいけど、会うことはできない。「私を探して」ってポメくんに言ったけど、私のところに来て欲しいけど、彼には彼の事情がある。


 うん、私のとこに来られるはず、ないよね……

 だって私、魔王だもん。魔王のマオちゃんだもん。ポメくんが好きになってくれた(多分だけどね)トイプードルの可愛いプーちゃんじゃないんだもん。「勇者モフ」になっちゃったポメくんが探してくれるはず、ないよね……


 悲しい気分になって、少し涙がジワってきた。

 でもその時、テレビのコマーシャルが流れて、私は一瞬心臓がドキッとした。


 これは、ポメくんのコマーシャルの、新バージョンだ!

 私は急いで姿勢を正し、テレビに集中する。推しのポメくんの、あらたな姿を見逃すわけにはいかない。いつでも思い出せるように、目に焼き付ける。頼んだよ、私!


 草原を、飼い主役の役者さんと一緒に走るポメくん。チョコチョコ走るのが、マジでキュート!

 役者さんが「どうしようか、モフ?」とセリフを放った次のカットは、役者さん目線のカメラで、モフくんのアップだ。うっわ、クッソ可愛いよポメく〜ん!


 だけど次のポメくんのセリフで、私は全身が硬直してしまった。


 それは犬の鳴き声だと

「ワウワウワウ、ワフーーン!」だけど、動物にはわかる、動物語ではこういう意味だった。


『進化した勇者がお前を倒す。魔王よ、かかってこい!』


 ……愕然とした。


 ポメくんが、私の大好きなポメくんが、多分私のことを好きでいてくれるポメくんが、私を倒す、って言ってた。


 ポメくんはきっと、私が魔王だってことは知らないんだと思う。だって、誰も伝えてないと思うし、知るはずがない。だから、魔王を倒すっていう言葉が、私を倒すっていう意味では言ってないんだと思う。


 だけど。

 私にとってはショックだ。

 だって、私は魔王だし、ポメくんは勇者だ。相入れない存在なんだ。


 そう思った時、目から大粒の涙が溢れた。


「もう、取り返しがつかないね……」


 いつ、こんなことになったんだろう。私が魔王に覚醒しなきゃ良かったんだろうけど、覚醒しなきゃ、瑠璃ちゃんは死んじゃってたと思う。

 ポメくんと瑠璃ちゃんを天秤にかけるなんて、私にできるはずがないよ。


 涙で、テレビの画面が見えなくなってきた。同時に、私の視界が徐々に暗くなっていく。


 もう、知らない。私なんて、もう、どうでもいい。


 そう思ったのが私の、私自身の、最後の意識だったんだ。


 第六章 完

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