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転生最弱ポメラニアン、魔王を倒す  作者: キサラギトシ
第六章 魔王の誕生
119/144

119 なぜ私は魔王のチカラを知っている?

 その夜。私とカールは真王(まおう)教の新しい本部の2階にある「道場」と呼ばれる場所にいた。道場は畳敷きで広さは学校の柔剣道場ぐらい。ここで真王(まおう)教の信者が宗祖と一緒に坐禅を組んだり声を出したりする修行をしているのを見かける。


 その道場に入ってきたのは、大林さん。続いて大きな真っ黒い犬を、ぶっとい鎖のリードで繋いだ綺麗な人間の女性。さらに、2メートル以上はあろうかというクマ!

 うわっ、クマってこんな大きいんだ。わたしテレビでしか見たことないけど、マジ怖いよ……


 そのクマは入ってくるなり、咆哮を上げた。


「ガアアア! お前が魔王? 今回の魔王はずいぶん小さいんだな」


 いきなり何なの、このクマ。ちょっと失礼すぎない?


球磨嵐(くまあらし)、魔王様に失礼であろう。無礼な言動を控えよ」


 私に対してすっかり従順になったカールが咎めるが、クマはニヤリと笑って続ける。


「はっ、別に魔王を認めないわけじゃないさ。ただな、俺は前の魔王様に仕えてきた、誇り高きツキノワグマの球磨嵐(くまあらし)だ。魔王のチカラは認めるし、言うことは聞くさ。心配すんなよ」

「前の魔王って?」

「興味あるかい? 前の魔王様はな……」

球磨嵐(くまあらし)


 カールが語調を強める。声は大きくないけど、なんだかちょっとコワイ感じだよ〜


「おっと、『絶叫砲』は勘弁してくれよ、カール。わかったってば。魔王さんよ、カールが怒っちまわねえようにしねえと。続きはまた今度な」

「……わかったわ」


 どうして前の魔王の話をカールが遮ったのか気になる。今度直接カールに聞いてみよう。


 続いて大きな真っ黒い犬が私の前にお座りし、綺麗な女性が私の前にひざまづき、顔だけを私に向けた話す。


「魔王様、お初にお目にかかります。私、山田恭子と申します。この度は妹の命を救ってくださり、誠にありがとう存じます」

「妹?」


 何のことだろう? 命を救うって……あれ? そんなの、一人しかいないよ。


「カール。この人、もしかして瑠璃ちゃんのお姉さん?」


 私は日本語を話せない(元人間だから理解はできるけど、犬だからお話はできないんだよ〜)ので、恭子ではなくカールに通訳してもらおうとした。


 でもカールが答える前に、恭子が私に直接話しかけてきた。しかもその言葉は日本語ではなく、動物語だったの!


「魔王様。わたくし、前世が動物でございました故、動物語を話すことができます。おっしゃる通り、私は瑠璃の姉になります」

「そうなんだ。瑠璃ちゃんって大人になると、お姉ちゃんみたいな美人になりそうだね!」

「恐れ入ります」


 すごい、動物語を話せる人間っているんだね。


「私はこちらに控えておりますチベット犬の黒煙(ヘイヤン)と共に、カール様の命により、勇者を担当しております」


 ドキッとした。勇者といえば、もちろんポメくんのことだ。黒煙(ヘイヤン)と恭子に紹介された、真っ黒い大きな犬も顔を上げた。


「今代の勇者は小型犬だと聞いた。近いうちに挨拶に行こうと思っている」

黒煙(ヘイヤン)は勇者に興味津々なんですよ、魔王様」


 自分より体も体重も大きいチベット犬の背中を撫でる恭子。勇者に興味津々って。私の方がポメのこともっと知りたいよっ! って言いたかったけど、空気を読んで言うのはやめておいた。


「勇者一行はまもなく東京に入るコースを辿っているようですので、黒煙(ヘイヤン)と一緒に行ってまいります」


 良いとも悪いとも、私には判断がつかない。まあ挨拶ぐらいならいいか……と私は曖昧に頷いた。それより、瑠璃ちゃんの姉だと言う恭子に興味がある。


「恭子さんは、どうして魔王軍と一緒に行動してるの?」

「父である宗祖の命です。元は真王(しんおう)教団で大師(マスター)を拝命しておりましたが、魔王様が復活されたと聞き、連絡係として魔王軍の手助けを行っております。それと、私のことは恭子と呼び捨てになさってください、魔王様」

「……わかったわ」


 真王教と魔王軍は連携しているみたい。私の復活にあたって『魔王の使徒』カールと、教団の宗祖が入念な準備をしていたんだね。


「魔王様、四天王はあと1匹おりますが、実力はともかく言動が失礼な柴犬でございまして、本日はこの場に連れてきておりません。どうかご了承下さいませ」


 私は頷きつつ言動が失礼な柴犬ってどんなだ?って思う。そこにいるツキノワグマも大概失礼だったけど、これより口が悪いのかな。チベット犬のヘイヤンくんは頭が良さそうなのにね。


「とは言え、本日は3匹まで揃っておりますため、現状のご報告および今後の方針を魔王様にお伝えして、ご承認をいただきたく存じます」


 ここから長々と報告会が始まったけど、簡単にいうとこんなことだった。


 ・真王教は来年総選挙に大量出馬し、5年後には政権与党になる予定(マジか!)


 ・真王教イメージアップのため、動物ショーを行う(球磨嵐(くまあらし)くんはこれで檻に入れて運んでるんだって。なるほどね〜)


 ・動物軍と勇者一行は動向を注視しつつ静観する


 他には教団が秋葉原でショップを開いたり、ペットショップを経営したり、いろんな新規事業を行って運営資金を賄っていることなども報告があった。

 なるほど、私がいた六本木のペットショップも教団が経営していたんだ……


 最後に、カールから私に注意があった。


「魔王様、ひとつご注意を申し上げます。

 魔王様が覚醒されて以来、魔王様が望む望まないに関わらず、特に東京や神奈川などの動物たちの夢に影響が出ております」

「動物たちの夢? なんのこと?」

「夢の中に魔王様が現れ、魔王軍の傘下に入るように呼びかけているのでございます」


 ファッ? わたし、勝手に夢通信を発射しちゃってるの? なんでよー!


「魔王様の存在自体が、近辺の動物たちにとっては脅威の存在なのです。人間は知能が高い生物なので影響は少ないのですが」


 うーん、自分のことながら、魔王ってコワイんだね。わたし、もうちょっと自分を律しないと大変なことになっちゃうかも。


 それにしても、一番気になる存在は、四天王や使徒でもなければ、実はポメくんでもないの。

 気になるのは魔王、つまり自分自身。


 わたし、確かにいろんなチカラを持っている。勝手に動物たちの夢に登場して魔王軍に勧誘しちゃったり、直接会った人間を魅了しちゃったり(自分の傘下にすることができるんだ)、いかにも強そうな四天王を倒すのも簡単だって、戦う前からわかっちゃってる。


 問題なのは「なぜ私は魔王のチカラを知っている?」ってこと。


 覚醒する直前、私のこころにナニカが呼びかけてきていたのは覚えている。あれは一体、誰なんだろう……


 それに、私の中には相反する二つの感情も残っている。

「この世を統べること」っていう感情と、「そんなことしちゃダメ!」という気持ち。「勇者を倒す」という感情と「ポメくんに怪我させたらダメ!」という気持ち。ううん、愛情……かな? ちょっと恥ずかしいけど。


 私って、一体なんなんだろ?

 魔王だけど、魔王に間違いないけど、でもわたし、元は普通の人間だったし、転生したらトイプードルだった。なのに、なんで魔王になったんだろう……


 毎晩考えているけど、もちろん結論なんて出るわけないし。


 でもそんな私の気持ちを嘲笑うかのように、勇者モフ(ポメくんね)がいる動物軍と、私が率いる魔王軍の戦いは激化の一途を辿っていくんだ。

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