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転生最弱ポメラニアン、魔王を倒す  作者: キサラギトシ
第六章 魔王の誕生
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115 魔王のチカラで、人間も……?

 私は瑠璃ちゃんが救急車で運ばれた後、瑠璃ちゃんの部屋で女性信者さん(若い方)に餌をもらったり、庭で運動をさせてもらったりして日々を過ごしていた。


 瑠璃ちゃんに何が起こったのか知りたいけど、私が聞きたいこと、言いたいことは普通の人間にわかってもらえるはずもないし、半ば諦めていた。


 でも、瑠璃ちゃんが倒れてから5日目。日の出とほぼ同時ぐらいの早朝に、瑠璃ちゃんの部屋に誰かが入ってきた。

 ドアが開く音に続き、人間の気配(というより、人間のニオイ)。誰がやってきたのかは、

 すぐにわかった。


 変な紫の服(法衣って呼ぶらしいよ)に、ひげ面の中年。その娘である瑠璃ちゃんと似ているところがほとんどない、むさ苦しい男。

 この家のご主人にして真王(しんおう)教団の宗祖だ。


 宗祖は私が横たわっているベッドに近づくと、まだ寝ぼけている私に言ったの。


「マオウ様。本日は、記念すべき日でございます」


 宗祖はとても気持ちの悪い能面のような笑顔(作り笑顔だよね、たぶん)で、意味のわからないことを言う。


 あんた、瑠璃ちゃんのパパでしょ。何が「記念すべき日」よ。瑠璃ちゃんはどうなったのよ?そんなことを私は思ったが、どうせ言っても通じないのがわかっているので、怪訝な顔をするに止めておいた。


真王(しんおう)教団は本日、宗教法人名義の登記を変更したく存じます」


 宗祖の言っていることの意味がわからない。名前を変える、それが何だっていうわけ?


「宗祖よ、結論だけ伝えても魔王様に真意が伝わるわけがないだろう?」


 宗祖ではない者の声がドアの向こうから聞こえる。実は私、ドアの影にソイツがいるのはわかっていた。気配……ニオイ……いや違う、ソイツがこの部屋に向かってくる映像が私の頭に飛び込んできていたから。


「魔王様、この男は少々頭がよくありませぬゆえ、私めから詳しくご説明さしあげたく存じます。よろしいですかな?」


 もちろんそれは、ミニチュアシュナウザーのカールだ。口調は相変わらず丁寧だが、慇懃無礼な態度とも言えなくはないような、どこか小馬鹿にしたような喋り方だ。

 表情はいつもどおりだが、どこかニヤニヤしているようにも見える。はっきりいって私、コイツのこと大嫌いだ、と改めて思う。


 冷ややかな目線で何も答えない私を無視するが如く、カールは勝手に説明を始めた。


真王(しんおう)教団とは、元々あなた様をお迎えするための宗教法人なのです。現在は『(まこと)の王の教団』、そのような名義で登記しておりますが、本来でしたら魔族の王、つまり『魔王』と名付けたかったのです。ですが、さすがにそれでは人間からの印象が良くありません」

「……魔の王の教団なんて、誰が入るの?って感じよね」


 しまった、つい喋ってしまった。


「そうでございますな。ですがあなた様をお迎えした今、全国に散らばる仲間たちに呼びかけるためにも、名義を変更しようと、そういう訳でございます」

「……どんな名前にするつもりなの?」

「それは、もちろん」


 カールはいったん言葉を区切ると、もったいぶった表情で続けた。


「『真の王』の漢字部分は変わりませぬ。ただ、読み方を変更いたします。真の王と書いて『まおう』。宗教法人『真王(まおう)教』とします」


 私は言葉を発せず考える。カールはさっき『全国に散らばる仲間たちに呼びかける』と言っていた。

 そのためにも『マオウ』という名前が必要だと、そういうことなのだろうか。


「……勝手に名前を変えればいいじゃない。別に私、カンケーないし」

「関係は、大いにございます」


 急に強い口調になり、私の近くまで歩いてくるカール。その表情はニヤリというより、笑顔を隠せない感じに変化していた。


「別に私が決めた訳じゃないし、好きにすれば? 第一、私が魔王だって言ってるのはアンタたちだけじゃない」

「魔王様、あなたにはこれから『真王(まおう)教』の広告塔として世に出てもらいます」

「はぁ? なにそれ」


 魔王だという私が広告塔? ははっ、笑っちゃうよね。魔王様がパンフレットにでも出て、信者でも集めるっていうことなのかな。なんだかバカみたい。


「『真王(まおう)教』の目的のためには、人間の信者が多数必要です。そのため、魔王様のお力が必要なのです」


 その言葉を聞いて、いい加減、温厚な私もキレた。


「だから、私は魔王なんかじゃない! 勝手なこと言わないでよ!」

「魔王様は、瑠璃お嬢様がどうなっても良いとおっしゃるのですかな?」

「はぁ? なんで瑠璃ちゃんがここに出てくるのよ。そうだ、瑠璃ちゃんはどうなったの? あんた知ってるんでしょ。シンオウだかマオウだか名前のことなんてどうでもいいよ」


 カールの口角が釣り上がった。すでに普通の犬ではできないような表情、笑いたくて仕方ないという顔をしている。犬なのに、アルカイックスマイルとも言えそうな顔だ。


「あなた様が魔王としてのチカラを発揮しないと、瑠璃お嬢様は助かりませんよ? まあ私はどうでも良いのですがね。あんな小娘一人の命なんざね」

「どういうこと? なぜ瑠璃ちゃんに……魔王としてのチカラって、何のこと?」

「この際です。魔王様が覚醒した暁にどんなチカラを得るか、お話しておきましょうか」


 私たちが言い合いをしている間、宗祖はオロオロと困ったような顔で私とカールの顔を見比べている。そんな宗祖に一瞥をくれた後、カールは信じられないことを話したの。


「魔王様は、《《動物たち》》をそのチカラで自在に操ることができるのです。その動物には、当然、《《人間たち》》も含まれます。つまり」


 そんなバカな。魔王のチカラで、人間も……?


「魔王様が覚醒すれば、《《人間も自在に操ることができるんです》》」

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