114 どうしたの、瑠璃ちゃん!大丈夫?
「ポメ、湘南第4地区で私を探して! 私はそこに住んでる。土地勘がないから住所はわからないけど」
言うつもりはなかった。だけど、言ってしまった。
だって……ポメくんも、私のことが好きだって気づいてしまったから。
それに、私は知ってしまったのだ。ポメくんが、私の敵である「勇者」だということを。
ポメくんの記憶を、ぜんぶ見てしまった。
真っ白なフレンチブル(見たことある気がする)に「勇者」と呼ばれた時の記憶。タヌキみたいな大きな動物と戦っている記憶。そして勇者としてパーティーを組んで、旅をしている様子。
断片的な映像しか見えてこないのに、なぜかポメくんが考えていることも理解できたし、何を考えているのか、魔王のことをどう思っているのか、すべてわかってしまった。
なんで、こんなことになってしまったんだろう。大好きなポメくん……一緒に暮らしたいと思っていたポメくんが、よりによって私(魔王)を倒すための存在だなんて。
そんな運命って、ある?
でも。もし私が「魔王」に覚醒して、どうしようもなくなったら。私を止めるのは、ポメくんであって欲しい。私を、救って欲しい。
だからポメくんに「私を探して」と言ったの。私を探して、シンオウ教団の目論見を阻止して、カールやその仲間たちを止めて欲しいから。
勇者であるポメくんなら、きっとそれができると思うから。
でも、知りたくなかったよ……ポメくん、私を助けて欲しいよ……
「どうしたの、元気ないね、マオちゃん?」
家に戻る車の中で、瑠璃ちゃんは私を撫でながら優しく話しかける。
「あのポメラニアンくんともっと遊びたかったの? ごめんね。また江ノ島に遊びに行ったら会えると思うよ!」
慰めてくれるのは嬉しいけど、もうあの場所でポメくんに会うことはないのだ。彼が私を探してくれない限り。
◇◇◇
でも、そんな私の悩みが全部吹き飛んじゃうような事件が起こっちゃった。
その夜は私にとって、悪い意味で忘れられない夜となったの。
いつものように夕食を終えた夜9時、瑠璃ちゃんが部屋に戻った時、それは起こった。
「んっ……ううっ」
部屋のソファに座って本を読んでいた瑠璃ちゃんが、いきなり胸を押さえて苦しげな声を出したかと思うと、その場でバタリと倒れ込んだ。
そのまま、胸のあたりを押さえて、苦しそうに小さく呻く瑠璃ちゃん。
「どうしたの、瑠璃ちゃん!大丈夫?」
私は必死で呼びかけたけど、犬である私の声は「ワン、ワンワン!」としか響かない。私は急いでドアノブに飛びつき、ドアを開けると廊下に出て、誰かを探して吠えまくった。
「ワンワンワン! ワンワン!(誰か! 瑠璃ちゃんが!)」
私は吠えまくった。普段は瑠璃ちゃんの飼い犬として大人しくしている私のヒステリックな鳴き声に、階下から何事かと上がってくる2人の女性が見える。多分、宗祖様の身の回りの世話をしている人たち(たぶん真王教団の信者)だろう。
私はその人たちに再び吠えると、Uターンして瑠璃ちゃんの部屋の前にダッシュして戻り、ドア前で再び女性たちに吠える。
女性たちは何事かと部屋に入り、倒れている瑠璃ちゃんを見つけると、小さく悲鳴を上げた。
「お嬢様、どうされました?」
年嵩の方の女性は瑠璃ちゃんに近づき呼びかけるが、彼女は苦しそうに呻いたまま答えない。
「タカハシさん、まずは大林大師に連絡をとってちょうだい」
「はいっ。でも、救急車は呼ばないんですか……?」
「……教団に外部の人間を入れて良いか、大林大師の指示を仰がないと」
そんなことしてる場合じゃないでしょっ! 救急車呼んでよ! と私は抗議の声を上げるが、とうぜんワンワンとしか彼女たちには聞こえない。
やがて大林さん(女性たちには大師って呼ばれてたよね)が走ってやってきて、瑠璃ちゃんの容体を見るなり、女性たちに救急車を呼ぶよう指示した。
まるでドラマのワンシーンのようだった。さっきまでニコニコして食事を食べていた瑠璃ちゃんが、救急隊員によってストレッチャーで運ばれている。
瑠璃ちゃん、何か持病とかあったのかな? 今までそんなそぶり、一度も見せたことがなかったけど……
そんな私の疑問は、大林さんと年嵩の女性との会話で推測することができた。
「大林大師、お嬢様の症状って、もしかして……」
「……そうだな。朋美大師と同じかもしれない」
「そんな……まだ小学生なのに」
年嵩の女性と一緒にいた女性は、その言葉を聞いて絶句し、涙をこぼしている。
朋美大師というのは、初めて聞いたけど……話の流れからいって、たぶん瑠璃ちゃんのママなんじゃないかと思う。
この家に私が飼われてから一度も見たことのないママ、なぜいないのかずっと気になっていたけど、もしかしたら何らかの病気で入院しているのかもしれない。
◇◇◇
瑠璃ちゃんはそのままどこかの病院に入院したらしく、家には戻ってこなかった。何が起こったのか、何の病気なのか私は知ろうとしたけど、犬である私に説明してくれる人間などいるはずもない。
日々、瑠璃ちゃんのことを考えて悶々と暮らして数日後。
その日、真王教団の宗祖様が、とんでもないことを発表したの。




