第九話:夕暮れの屋上、結ばれる二人
文化祭のステージが熱狂のなかで幕を閉じ、一般公開が終わった後の後夜祭の片付け、そしてフィナーレへと向かう夕暮れの校舎。賑やかな音が遠くへ消えていく中、
俺は莉子に「ちょっとトイレに行ってくる」と嘘をつき、足取りの重い身体を引きずって屋上へと続く階段の陰に隠れていた。もう、立っているだけで精一杯だった。
夕陽に赤く染まる誰もいない屋上には、呼ばれたのか、奏多と葵の二人が立っていた。
「葵」
奏多が、これ以上ないほど真剣な、決意を秘めた声で彼女の名前を呼んだ。
「俺……ずっとお前の絵が好きだった。お前がいつも俺の音を聴いて、真っ直ぐ見つめてくれてるって知って、どれだけ救われたか分からない。……これからも、俺の隣で、ずっと俺の音を聴いていてほしい。好きだ」
葵は両手で口元を押さえ、こらえきれない大粒の涙を流しながら、何度も何度も強く頷いた。
「……うん! 私も……ずっと奏多のことが好きだった……!」
二人のシルエットが夕陽の中でゆっくりと重なり合う。
階段の陰からその光景を見届けた俺は、胸のポケットに手を当てて、心の底からの安堵の笑みを浮かべた。
(……よかった。これで、俺の役目は完全に果たせたな)
誰にも病気を知られることなく、一番守りたかったあいつらの笑顔を守り切ることができた。そう思った瞬間、張り詰めていた糸がプツリと切れるように、全身の力がすっと抜けていった。




