第八話:ステージの上の奇跡
雨の夜を徹してみんなで乗り越えた翌日、十月下旬の文化祭当日。秋晴れの澄み渡る空の下、校内は一般公開の訪れた家族連れや他校の生徒たちの熱気で溢れ返っていた。
体育館の特等席には、昨晩の雨の試練を乗り越え、さらに深い輝きを増した巨大な背景画が誇らしげに掲げられていた。
そして、ステージの中央。スポットライトの白い光を一身に浴びた奏多が、しっかりとアルトサックスを構えた。
会場が息をのむような完璧な静寂の後、奏多の吹く第一音が、体育館の高い天井へと突き抜けた。
それは、誰のためでもなく、自分のすべてをぶつけるような、魂を削るような切なくも美しい音色だった。
葵の描いた背景画の圧倒的な青と、奏多のサックスから放たれる熱量が、一つの完璧な物語として客席の心の中で重なり合っていく。
最前列で、葵がポロポロととめどなく涙をこぼしながらそれを見つめている。
客席の隅のパイプ椅子に腰掛けながら、俺は少し荒くなった息を抑えつつ、力いっぱい両手で拍手を送った。
(……すげえよ、お前ら。最高だ……)
視界が少しずつかすみ、体力の限界が近づいているのが分かったけれど、俺の胸の奥はこれ以上ないほどの満たされた温もりで満たされていた。
僕が命を削って繋いだ二人の色彩と音色が、今、この場所で奇跡を起こしていた。




