第五話:期末テストの放課後と、小さな違和感
球技大会の熱狂と汗の匂いが過ぎ去り、六月下旬。校内は一転して、生徒たちの表情を青ざめさせる「期末テスト」のピリついた緊張感に包まれていた。
放課後の図書室。窓の外からは梅雨空の重たい雲が垂れ込めているが、室内は蛍光灯の白い光の下で、静まり返った空間にページをめくる音だけが響いていた。俺とクラスメイトたちは、来週に迫ったテストに向けて参考書を挟み、机にかじりついていた。
窓の外を見やると、テスト勉強の息抜きなのか、中庭の隅で一人静かにサックスの練習をする奏多の姿が小さく見えた。
席が近かった学級委員の莉子が、ふと俺の手元を覗き込んできた。彼女はいつも周囲をよく見ていて、少しお節介だけど頼りになる女子だった。
「ねえ、神宮寺。あんた、さっきからものすごく真っ青な顔してシャーペン握ってるけど、ちゃんと夜寝てるの?」
「ん、ああ……ちょっとテスト勉強で夜更かししすぎたかもな。大丈夫だって、心配すんなよ」
作り笑いを見せると、莉子は納得いかないといった様子で鋭い目を向けた。
「ほんと? なんか最近、やけにフラフラしてるし……球技大会のときも、急に顔色悪くなって保健室行くとか言ってたし……無理してない?」
「してねぇよ、学級委員長さま。俺の心配より自分の英語のヤマ張った方がいいんじゃねえの」
おどけて見せると、莉子は「もう、知らないんだから。倒れても知らないからね」と呆れたように自分のノートへと視線を戻した。
莉子の鋭すぎる観察眼に内心で冷や汗をかいたが、病気のことなんて絶対に口が裂けても言えるわけがなかった。みんなに心配をかけたくない一心で、俺はいつもの調子でおどけ続け、その場をやり過ごした。




