第四話:球技大会の喧騒と、隠された痛み
美術室での他愛のない会話から少し時が進み、季節はジリジリとした初夏の気配を帯びる六月初旬へ移り変わった。校庭では一週間後に迫った「球技大会」のクラス練習が行われ、学校全体が汗と熱気に満ちあふれていた。
「神宮寺、アウトー!」
「うわ、今の惜しかったな! ドンマイ!」
バスケットボールのクラスマッチの練習中、運動神経が良くなく、体力的にもレギュラーに入れない俺は、ベンチの横に陣取り、クラスメイトたちにビブスを配ったり得点板をめくったりする係に徹していた。
照りつける初夏の陽射しの下、汗を流しながらクラスの奴らが笑顔でコート狭しとボールを追いかけている。
その青春の真ん中にある眩しい光景をぼんやりと眺めていたとき、突然、胸の奥からドクンと冷たい波が打ち寄せ、強烈な悪寒と吐き気が一気に喉まで競り上がってきた。
「……っ……!」
眩暈と共に、足元のアスファルトがぐにゃりと歪む。周囲の笑い声が遠ざかり、耳鳴りがキーンと響いた。
まずい。ここで倒れたら、みんなに病気のことがバレてしまう。
俺は懸命に意識を保ち、周囲に気づかれないよう、そっとグラウンドの隅にある古い部室の陰へと足を引きずるようにして身を滑り込ませた。
誰もいない日陰の壁にもたれかかり、たまらずポケットからハンカチを取り出して口元を強く押さえる。
込み上げてきた熱い液体が布地を鮮烈に染め上げた。視界の隅が真っ赤にぼやけていく。
(……頼む、まだだ。まだ、ここで終わってたまるか……!)
冷たい汗が背中を伝う。歯を食いしばって数分間耐えると、嘘のように発作が引いていき、いつもの静けさが戻ってきた。
荒い息を整え、ハンカチを深くポケットにしまい込む。何食わぬ顔で眩しいグラウンドへと戻り、笑い合うクラスメイトの中に混じりながら、俺は心の中で強く自分に言い聞かせた。
病気のことは最後まで絶対に隠し通す。同情なんていらない。ただの「元気なクラスメイト」として、あいつらの青春の背中を押すんだと。




