第十四話:残されたキャンバスと、進む未来
卒業式を越えて、蒼輔が旅立ってから季節はさらに巡り、数ヶ月が過ぎた。
学校には新しく入ってきた新入生たちの賑やかな声が響き、美術室も吹奏楽部も新しい活気を取り戻していた。新学期のガイダンスのざわめきが廊下に響く四月の午後。
放課後の美術室。葵は一人、真新しいイーゼルの前に立っていた。
彼女がキャンバスに向かって描いているのは、新しい自分の作品――けれど、その画面の隅には、蒼輔が愛したあの温かい橙色と、彼が遺してくれた深い青色が必ず使われていた。
葵の背後から、部活を終えた奏多がサックスケースを抱えて美術室のドアを静かに開けて覗き込む。
「葵、今日もまだ残ってたのか?」
「うん。もう少しで、この絵が完成するからさ」
「……相変わらず、神宮寺の色だな」
奏多が優しく目を細めて微笑む。
「うん。神宮寺くんが教えてくれたの。どんなに暗い世界を描いたって、画面の片隅に一筋の温かい色があれば、それはいつだって希望の絵になるんだって」
葵は筆を置き、窓の外に広がる青空を見つめた。
あの日、蒼輔が勇気を出して美術室の扉を開け、声をかけてくれなかったら。
自分たちは今も、孤独な暗闇の中で一人ぼっちのままだっただろう。
「あいつ、今頃空の上で『俺の絵より上手くなるなよ』って文句言ってるかもな」
奏多の言葉に、葵はクスッと誇らしげに笑った。




